第178話変・形!!
装甲車と白い改造車がぶつかりながら道路を高速で移動する。
耐久値など知ったことかとばかりに火花を散らしながら互いの装甲をぶつけあい、進路を妨害する。
「こんのッ——」
「ちょっと、もう少し丁寧に運転しなさいよ‼」
「だったらアナタがやってみたら⁉ 出来たらの話だけどね‼」
——出来るはずないだろう。
返ってきた言葉に結城は胸の内で悪態づく。
それもそのはず、結城は今白い改造車の上で装甲車の上に立つ吸血鬼と向かい合っているからだ。
「フッ——」
電柱を引っこ抜き、そのまま装甲車ごと吸血鬼を圧し潰そうと振り下ろす。
それを吸血鬼はそれを腕一本で弾く。
続けて振り下ろされる看板、コンクリートの塊、鉄骨。それら全てを腕一本で対処していく。
「やっぱり、結城1人じゃ押し切れないか」
車外で戦う結城と吸血鬼の姿を見て北條は険しい表情をする。
結城とは違い、北條は改造車の中にいた。
本当ならば北條自身も外に出て戦いたいが、この場所ではルスヴンの力は人目に付きすぎる。
何より、本部から来たアリマの目があるのだ。助けることが目的でも第21支部のメンバーを良く思っていないアリマが北條が異能を扱えると知れば、厄介ごとになることは間違いない。
「ミズキ、武装を貸してくれ」
「そうなるわよね。これも貸しにしておくから‼ この車の武装使って良いわよ」
結城を援護するためにも北條は後部座席に移る。
今日だけで結城に貸しを作りまくっているな等と思いながら、北條は座席に備え付けられていた車の武装の一部を操作する機器を手に取った。
白い改造車から銃器が飛び出し、吸血鬼に照準を合わせる。
装甲車と白い改造車がぶつかり、距離を取った所で北條は引き金を引いた。
「ぎゃあああッ⁉」
「ち、ちくしょう撃ってきやがった‼ おい、こっちも撃ち返せ‼」
「馬鹿野郎、あっちの車と同じにするな、こっちはやたら頑丈なだけの車だぞ‼」
距離が開いたと言っても小さな車1つ分程度の距離。
鉄板を数秒で穴だらけに出来る銃弾の雨がその距離で襲い掛かるのだ。例え、装甲車で守られていても恐ろしいと感じるのは無理もない。
誰でも乗っている車に銃弾が叩きつけられ、装甲が削がれていく音を耳にすれば身を竦ませるものだ。
怯える男達とは対照的に吸血鬼は眉一つ動かすことはなかった。
結城の異能を防いだ時と同じように腕一本で弾丸を流し、弾き、受け止める。
それを目にしても北條は動揺しない。吸血鬼がこの程度でやられるはずがないのは十分に理解していた。
銃弾の雨を浴びせながら北條は
炎と衝撃が爆ぜ、装甲車が横に大きく傾き、音を立てて戻る。その上には何事もなかったかのように吸血鬼が立っていた。
その手には先程受け止めた弾丸が握られている。
「ッ掴まって‼」
吸血鬼の冷たい視線を受けてミズキがアクセルを更に踏み込み加速する。
擲弾によって速度を殺された装甲車の前に出るのは簡単だった。
装甲車の進行を妨げるように北條は擲弾を放つ。車が横転するように狙うのはタイヤだ。
だが、意図を理解した吸血鬼は受け止めた弾丸を指ではじき、全ての擲弾を排除する。
「指で銃撃つ何て常識外れがッ」
「某だけではなく、混じり者のお前達も同じことが出来るだろう。驚くほどのことではない」
弾丸を指で弾きながら何てことないように吸血鬼は口を開く。
その態度が気に入らなかったのか、結城はこれまで以上に腕に力を籠める。
「はあぁッ——」
「ほう……」
ガクンッと足場にしている装甲車が揺れるのを感じ、何が起こったのかを把握して吸血鬼は感嘆の声を上げる。
周囲から集めた瓦礫の山。それが頭上で大きな塊となっている。
「これほどの大きさ。しかも一つ一つを細かくコントロールしている。某等ではこうはいくまい」
「らぁッ‼」
吸血鬼の賞賛を受けても結城は不愉快そうに眉を顰めるだけだった。
腕を振り下ろし、上から瓦礫の山を降らせる。
「これで車が壊れることはないが、埋まれば面倒だな。おい、加速装置を使え」
「了解だぜ兄貴ィ‼」
瓦礫の山に囲まれれば厄介だと判断した吸血鬼が靴底で車の屋根を叩き、加速を促す。
それを受けてハンドルを握る男はハンドルに備え付けられていた小さな赤いボタンを押した。
瞬間、装甲車が跳んだ。
「はぁ⁉ 何だありゃ⁉」
「あれって、こっちと同じ電磁ブースト。あっちも改造車ってことかッ」
「追いかけなさい‼ 道は私が作る」
道路から跳躍し、上にある高速道路に飛び乗る。
結城は宙に浮かせていた瓦礫を使用して道を作り、ミズキはハンドルを切って改造車を結城の作った即席道路で走らせる。
すぐに改造車は装甲車の見える位置へと辿り着く。そこで北條達は気付く。装甲車の上に吸血鬼の他に等身大の銃を持った男がいることを。
「ヒャッハー‼ 兄貴ばっかに苦労は掛けねぇぜ‼」
「北條、阻止して‼」
「了解ッ」
男の持っているものを脅威に捉え、銃器が火を噴く前に北條が阻止しようとするが、吸血鬼が動く方が早かった。
男に銃口を向けた瞬間、吸血鬼の弾いた弾丸が改造車の武装を破壊したのだ。
「すまん、失敗したッ」
等身大の銃が火を噴き、赤い光線が北條達を襲う。
瓦礫で防ごうにも先程とは違い、下は人通りの多い道路。装甲車に向かって瓦礫を投げる訳にも、赤い光線を防いで砕けた欠片を下に降らせる訳にもいかない。
一瞬の戸惑い、結城が動けないのを察して北條は叫ぶ。
「ミズキ、頼む‼」
「全く、アタシに頼り過ぎッ」
北條の助けを求める声に呆れながらも、どこか嬉しそうな声色でミズキは答える。
ハンドルの右下にある取っ手を思い切り引っ張った。
改造車が透明の液体ジェルに包まれる。
「これは——」
「見覚えあるでしょ? これ、地獄壺跡地で回収した瞬間衝撃吸収壁から作作られたものなの」
その言葉を聞いて北條は改造車を包んだ液体ジェルの効果を察する。
そして、北條の想像通り、等身大の銃から放たれた弾丸は改造車に直撃しても液体ジェルに阻まれ、破壊されることはなかった。
「ま、これ使ってる間は他の武装も使えないし、中から外に出ることも出来ないんだけどね」
改造車を包む液体ジェル。
これに包まれるということは簡単に言ってしまえば四方を壁に囲まれるのと同じだ。
ほんの少しの衝撃をも吸収し、罅すら入らない絶対防御は頼りになるだろう。しかし、衝撃を吸収するのは外からだけではない。
ドアを開ける。そんな動作から出る力も吸収し、中にいる人物も閉じ込めてしまうのだ。
効果を耳にし、外に出る時はどうやるのと不安に駆られる北條だったが、今気にすることではないと思い直す。
事実、このジェルがなければ今頃改造車ごと木っ端みじんになっているのだ。気にするのならば、終わってから、そう考えることにした。
「外にいる人に連絡取れる? 今から突っ込むから援護してくれるって」
「分かった。結城——」
無線機を手にし、北條は結城に事情を説明する。
「そう、分かった。でも、援護は出来ないかも。2人が突っ込むなら私はあいつを助け出す。万が一は北條、お願い」
「気を付けろよ」
「終わった? それなら、もうやるわよ——」
手短に状況を伝えると不満げな声は出したものの、結城は文句を口にすることはなかった。
足場にしている改造車が妙な液体で包まれた時は結城も驚いた。加えて声も届かなくなり、ドアを開けることが出来ず完全に締め出されたのだ。
何も言わずに変なことをするな、と最初は思った結城だが、北條からその性能を耳にした時は怒りなど気にならなくなった。
それほどの性能ならば使える。そう判断したのだ。
「それじゃ——超加速モードに変・形‼」
ミズキがスイッチを押すと同時に白い改造車が弾丸のように細長く変形する。
車内も狭くなり、3人並んでも座れる座席は人1人がギリギリ座れる広さに狭まっていく。
腕も満足に伸ばせない広さになった改造車。しかし、デメリットしかないものをミズキが生み出すはずがない。
すぐにその性能は発揮された。
「ターゲットロック。電磁ブースター100パーセント‼」
目も眩むような青白い光を放ち、改造車が磁力の力によって撃ち出される。
弾丸のように破壊力を持ち、撃ち出された改造車は周囲に無駄な破壊を齎すことなく、装甲車に頭から突っ込んだ。
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