第44話ゲーム開始
「という訳で街でいざこざを起こして捕まってみたんだが」
「あぁ、見事に捕まることは出来た」
北條と結城が地獄壺の近くの市街地で騒ぎを起こし、目論見通りその区の警備担当である警備部隊に捕まることができた。
今は大人しく囚人を乗せた車に乗せられている。北條、結城。そして、同じく問題を起こした者達で窮屈に感じる程車の中はぎゅうぎゅうだ。
だが、その人混みの中に加賀の姿はなかった。
「アイツ、帰ったら1発殴る」
「まぁ、行くこと事態に反対だったから仕方がないんじゃないか?」
結城が周りに聞かれないように小声で恨みを吐き、北條が同じく小声で宥める。
加賀が何処に行ったかと言うと、正直の所詳しい居場所は分かっていない。何故なら、騒ぎを起こす際に加賀は被害者役を買って出たからである。それも2人に相談もせずにだ。
騒ぎを起こす際に
それに誰彼構わず喧嘩を売る訳にも行かないのだ。
だからこそ3人の内の1人が残るのは納得がいくことだ。だが、結城が不機嫌であるのは突然——
「イヤアァア!? タスケテェエ!! ロリ眼鏡に犯されるぅう!!」
——等と加賀が叫び出したことが原因だ。事前な知らせもなく、不名誉な烙印を押された感じがした結城は現在進行形で不機嫌なのだ。
「誰が、誰がロリだッ」
「…………」
ギリギリと拳を軋ませる結城。
それを見た北條は何も言わずに視線を逸らした。
ロリ。という概念が何処から何処までなのか。それは人それぞれである。しかし、北條から見ても結城はロリに入るか入らないか。のギリギリで入る体型をしている。
尤もそれを口走りはしない。もし、肯定でもしようものなら加賀と同じ目にあわされるからである。
口を堅く結び、体型については触れない方が良いと心に誓う北條。
ちなみに北條と結城は戦闘衣や情報識別機、対吸血鬼用の武装はしていない。普段の変わらない私服姿だ。周囲の囚人達も同じように私服のまま乗せられている。
装備なしで地獄壺に入るなどただでさえ低い生存率が0を突っ切ることになるが、加賀に——
「装備だけなら俺がしっかりと届けてやる」
と、謎の自信とサムズアップした笑顔を連行される際に向けられた2人は疑いながらも加賀を信じることにしたのだ。
「それにしても、熱いな——っと」
人が密集することで窮屈さと暑さを感じた時、ガタンと大きく車が揺れ、減速する。
そして、緩やかに止まると後ろの扉が開いた。
限界にまで詰め込まれていた囚人達が扉が開いたことによって狭苦しさから解放され、外へと出ていく。
北條、結城は顔を見合わせ、囚人達の最後に車を降りた。
「ここは何処だ? 地下か? それとも地獄壺の中か?」
北條が車の外へと出た際、目に入ったのはコンクリートの壁。車両の影から出ると前は果てしなく長い道があった。左右には一定間隔で扉が付いている。
周囲には北條と同じように視線をあちこちにやる囚人達の姿があった。
ここまで囚人達を運んできた車の運転手達が車に乗ったまま、スピーカーのスイッチを入れて命令を下した。
「地獄壺の入口にようこそ犯罪者共!! これより貴様らに命令を下す!! この車から10メートル程離れろ!! 後ろに隠れようなんて思うなよ? そんな奴らはここで俺達が撃ち殺してやるからな!!」
運転手の言葉に囚人達が不機嫌な表情を浮かべる。
運転手達は人間だ。しかし、戦闘衣や対吸血鬼用の武装を身に着けており、生身では太刀打ちすることは出来ない。
抵抗しても痛い目に遭うことが、車に詰め込まれる時に分かっているので囚人達は嫌々ながらも歩き出す。
歩いている最中、北條にルスヴンが耳打ちしてくる。
『
「(え——どういうことだ? ここに囚人が収容されるんじゃないのか? 何で吸血鬼達が閉じ込められてるんだ?)」
『そんなもの考えんでも分かるだろう。長い一本道、離れた車両、左右の部屋に閉じ込められた吸血鬼共。そして、通路に放たれた人間』
「(もしかして、俺達って餌?)」
サッ——と血の気が引いていく。
左右にある扉は長い通路に一定間隔でずっと続いている。扉の向こう側に吸血鬼が閉じ込められているのなら、開け離れた時、一体どれだけの吸血鬼が雪崩れ込んでくるのか。
「結城、ここってなんか不味い気がする」
「……私もそう思う」
不味いと感じた北條が結城へと耳打ちした時、再びスピーカーから声が響き渡る。
10メートル。既にもう指定されただけの距離が囚人と車両には開いていた。
「よし、お前等。それで十分だ。聞け。本当なら牢まで連れて行くんだが、今回はゲームをするって言われている。今からやるのは選別、頂上のお姫様の所に行けばクリアだ」
状況に付いていけていない囚人達が不機嫌な顔で運転手達を睨み付ける。
囚人達の視線を気にせず、運転手達がエンジンを掛ける。同時に壁だと思っていた車両の後ろにあった壁が僅かに隙間を作った。
これから何が起こるのか。左右の扉の奥を知っている北條は察した。
「取り合えずスタートの合図はない。ただ、アドバイスだけはしてやる。出口は用意されてる。走れ」
どういう意味なのか分からずに囚人達は首を傾げる。だが、この後何が起こるのか察していた北條と嫌な予感を感じていた結城は同時に走り出す。
後ろを向いて北條が叫ぶ。
「お前等も走れ!! 死ぬぞ!!」
「あぁ? 何言ってやがるあの餓鬼」
北條にはそれが限界だった。
悲痛な表情を浮かべて足を動かす。今、足を止めて戻ってしまったら確実に死ぬと分かったから。
囚人達が惚けている間に運転手達は後ろの扉の向こうへと消えていき、再び扉は閉じられる。
囚人達はまだ動かない。それを後悔するのは数秒後だった。
「吸血鬼だぁ!!」
「な、何でこんな所に!?」
「ち、ちくしょうっ。そういうことかよ!!」
「や、やめ——」
扉が後ろから順番に開かれ、姿を現した吸血鬼を見て囚人達も走り出す。
続々と吸血鬼が出現し、早くも一番後ろにいた囚人が吸血鬼の波に飲まれた。
悲鳴は波に埋もれて直ぐに消える。1人を犠牲にして囚人と吸血鬼との間には距離が出来た。だが、直ぐにその距離は詰められる。
左右の扉の奥にいたのは下級の吸血鬼。身体能力だけならば人間を上回っている。
1人、また1人と通路を走る人数は減っていった。
その様子を使い魔の目を通して見ていた飛縁魔は愉しそうに笑う。
ここはサバイバル形式の選出。生き残った者のみ本選に進ませる予定だ。
生き残っても良いし、別に全員が死んでも良い。何故ならこれはゲームの観戦だから。
中々うまく進まない煩わしさも、隠れて動いているつもりのレジスタンスの後方の部隊も全て無視しよう。
逸る気持ちを抑えて
ゲームは始まったばかり。
楽しい1日になるようにと笑みを浮かべて
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