第153話決着

 バイクの上で浮遊感を味わいながら、北條はウプイリの腕をいじくる。


「クソッ全く分かんねぇ‼ 一体どうやったら銃が出てくるんだ⁉」


 どこからどう見てもただの腕。変わっているのは肌触りだけである。

 見た目は人間の腕だが、感触は金属のそれ。重さも分厚い鉄骨を持っているように重い。ひっくり返すのも重労働だ。


「ミズキ、この腕スイッチも何もないぞ⁉」

「肘辺りを重点的に探して。多分カバーで隠れてると思うッ」


 そう口にしつつ、ミズキは浮遊していた電波塔の上に着地し、上手くハンドルを切ってタイヤを走らせる。


「ちょ、ぶれるぶれるッ」

「仕方ないでしょ‼ 文句は後ろの奴等に言って‼」

「言ってもあいつ等は聞かないだろうけどなッ」

「デス‼」

「ッ——」


 電波塔の上を大量のアームを使ってウプイリが北條達に迫る。

 振るわれた左手のブレードを北條はウプイリの腕を掲げて防ぐ。


「貴方は、私のものデス」

「熱烈なラブコールは嬉しいけどもっとお淑やかになってから言ってくれッ」


 大量のアームがバイクにしがみ付き、ウプイリがのしかかってくる。見た目以上に重量があるウプイリが乗ってきたせいでバイクのバランスが崩れかかる。


「北條そいつを早く叩き落して‼ バイクがもたないッ‼」

「そうしたいのは山々なんだけど、そう簡単にはいかないんだよッ」


 拳を腹に叩き込んでも、顔面に蹴りを入れてもウプイリはビクともしない。ウプイリを引き剥がすにはもっと強力な武器が必要だった。

 ウプイリの狙いが北條からバイクを操るミズキに代わる。頭部に狙いを定めたアームがミズキを襲う。

 狙いに気付いた北條は咄嗟にウプイリの腕をブレードに叩きつけ、狙いを逸らした。


「逃げられないデス。蛇に噛み砕かれたいのデス?」

「こんの——」

「蛇の狙いはその女デス。貴方は関係ないデス。私と一緒に来たら死ぬことはないデス」

「お前も俺を殺そうとしてる癖に何言ってんだよ」

「違うデス。私は貴方を殺さないデス。ただ、解体するだけデス」

「十分致死量だよ‼」

「問題ないデス。殺さないように解体出来る技術を私は持っているデス」


 ウプイリの言葉を聞いて北條はぞっとする。

 解体されても死なない技術など絶対に碌でもないものだと簡単に想像出来た。絶対にもう捕まらない。そう決意する。


「北條頭下げて‼」

「ッ——」


 ミズキの言葉に北條は咄嗟に頭を下げる。

 その瞬間、北條の髪の毛を大木が掠めていった。

 頭を下げていた北條やミズキは兎も角、体をバイクに乗り上げていたウプイリは胴体に直撃する。

 直撃して尚、ウプイリは体を仰け反らせる程度だったが、その瞬間を見逃さず、北條は渾身の力で蹴りを叩き込む。


「ッようやく離れた。ミズキ、今のうちに‼」

「分かってる。障害物の多い所を通るから、しっかり掴まっていてよ‼」

「待て、それじゃあ速度落ちないか⁉」

「そうならないように逃走経路は考えてる。それよりも腕の方はまだなの⁉」

「今やってるとこ‼」


 ウプイリのブレードによって剥がれた塗装からカバーを見つけて無理やりこじ開ける。すると、収納されていた小型ミサイルを見つける。


「腕を折る——デス‼」


 ウプイリの腕から小型ミサイルを取り出す様子を見て、ウプイリが目の色を変える。

 アームを巧みに使い、浮遊する瓦礫を掴んでは投げつけて北條達の進行を妨害する。


「わわわわわッ⁉」

「隙ありデス」

「ねぇよ‼」


 再びバイクにしがみ付こうとするウプイリに対し、北條はバイクから跳び上がり拳を叩き込む。


「効かないデス。何度もやってるのに分からないデス?」

「知ってるよ。でも、今回はいつもと違うぞ」


 不敵に笑うウプイリに、北條も笑みを持って返す。

 握り締めていた拳を開き、握っていた小型ミサイルをウプイリの口の中へと捻じ込み、顎を蹴り上げる。

 ミサイル単体では爆破するまでには至らない。だが、顎を蹴り上げたことでミサイルの弾頭が噛み潰され、弾頭の中にある炸薬に火を付けた。


「北條、この馬鹿‼」


 ミズキの操作するバイクの後部座席に着地すると早速罵倒を浴びせられる。


「何考えてんの⁉ 敵わないって分かってるのに迎え撃つなんて‼ せめて一言いいなさいよ⁉」

「ごめん。時間なかったから。でも、これでウプイリは——」


 再起不能。そう口にしかけて視線を上に向けるが、言葉は続かなかった。

 瞳を爛々と光らせるウプイリの姿を見たのではない。今尚ウプイリは頭部を燃やしながら落下を続けている。

 北條が口を閉ざしたのは、姿


「北條、横——」


 声に恐れが混じったミズキの声が北條に届く。

 北條達を乗せて浮遊するビルの上を走るバイクの横に、いつの間にか消えていた機械仕掛けの蛇が出現した。


「迷彩機能⁉ そんなことも出来んのかよ‼」


 ミズキがバイクの速度を上げる。だが、幾らバイクの速度を上げても宙に身を投げれば、落ちる速度は一定だ。機械仕掛けの蛇からは逃げることは出来ない。

 巨大な口が北條達に迫る。


「北條、小型ミサイル‼」

「分かってる‼」


 このままでは逃げられないと判断した北條達の行動は速かった。

 ウプイリの口に小型ミサイルを押し込んだ時のように機械仕掛けの蛇の大きく開けられた口目掛けて小型ミサイルを投げる。

 ウプイリの時は弾頭を潰すために顎を蹴り上げたが、今回はその必要などなかった。機械仕掛けの蛇の口の中には、アスファルトや鉄骨を簡単に砕く刃が幾つもある。それが小型ミサイルを潰し、爆発を起こさせた。


 これまで浮遊島にぶつかろうが、ウプイリからミサイルを撃ち込まれようがビクともしなかった機械仕掛けの蛇も内部からの爆発には弱かった。

 巨体に似合わない甲高い悲鳴を上げて機械仕掛けの蛇がひるむ。

 しかし、北條達が安心をする暇などなかった。


「デェエエスゥウ‼」


 ひるんだ機械仕掛けの蛇の上をウプイリが大量のアームを使って走り、北條とミズキに襲い掛かる。


「アイツ、死んでなかったの⁉」


 顔を半分吹き飛ばされても生きているウプイリに目を見開く。


「死ねないデス。貴方が魂を見せてくれるまで私ずっと付きまとうデス」

「うっとぉしい‼ もう1回口にミサイル突っ込んでやろうか‼」


 大量のアームが北條を襲う。

 例え、顔を半分吹き飛ばされていたとしても、片腕がなかったとしても苦戦は必須だった。そもそもの話、北條の打撃はウプイリの装甲には通じない。小型ミサイルも警戒されており、2度も同じ手が通じるほど甘くはなかった。

 2本、3本のアームを叩き落しても4本、6本のアームが北條の体を叩く。


「(意識が、飛ぶ——ブレードだけは喰らわないようにしてるけど、間に合うかッ)」

「北條‼」


 一方的に攻められながらも耐え続け、意識も朦朧とした時、ミズキの声が北條の耳に届く。

 その声を待っていたかのように北條はウプイリの腹を蹴り、ミズキを抱えてバイクから飛び退いた。

 最初から近接戦闘で勝負を付ける気など2人にはなかったのだ。


「逃がさないデス」

「そうだろうな」


 北條とミズキを追いかけ、ウプイリも跳ぶ。

 それを見て北條は不敵な笑みを浮かべる。

 ミズキを抱えている方の逆——左手に握られた一本のロープ。それを思い切り引っ張った。

 ロープの先にあったのは、浮遊するアスファルトの壁に牙を立てる吸血鬼。


「これでも喰らえや」


 空中で身動きの出来ないウプイリにアスファルトの壁が直撃する。

 北條達が破壊したウプイリの視界を補佐をしていた無人機。それがなくなったことで出来た死角。

 ウプイリも気付くことが出来なかった一撃。

 それを喰らったウプイリは後ろにいる機械仕掛けの蛇の口の中に吸い込まれる。

 掘削機のような刃に巻き込まれながら、ウプイリは絶叫を上げた。


「ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“ア“‼」

「アナタ、男を堕としたいなもう少しお淑やかになりなさいよ。攻めるのが悪いとは言わないけどアナタのはやり過ぎよ」


 駄目押しとばかりにミズキが小型ミサイルをばら撒く。

 機械仕掛けの蛇の口の中で再び爆破が起こった。

 爆炎が晴れた時、そこにはもうウプイリの姿はなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る