第7話 ぼっちなのは幼馴染メイドの方であった②

 春との談笑後、間も無くしてやって来た担任――斉藤さいとう 未来みく先生によってホームルームが行われていた。


「今日の休みは――」


 斉藤先生は出席を確認しながら名簿に印をつけているところだった。当然、その間は暇でボーッとしていた。

 そんな時、視界の隅にふと幸奈の姿が写った。どうやら、隣の男子から声をかけられたらしい。

 なんだよ、その笑い方は……。

 幸奈は楽しそうにも嫌そうにもしない。ただ作り笑いを浮かべて同意しているように頷いているだけだった。相手の方はそれに気づかず、幸奈と話せていることが嬉しいのか幸せそうにしていた。


 本当の幸奈を知れば幻滅するんだろうな……等と考えながらスマホを取り出して、写真に納めたジャージ姿の幸奈を見た。

 そう言えば今日は眼鏡してないな……普段はコンタクトなのか?

 昔は幸奈のどんなに小さな違いもすぐに気づくことが出来た。髪を切ったこととか、体調が悪そうにしている時とか。でも、いつの間にか大きな違いにさえもよく見ないと気づかないようになっている。

 眼鏡とコンタクトの違いなんてよく知らないと気づかないもんな……。

 これが、時の流れの結果なのだと思った。



 苦手でめんどくさい勉強時間――授業が進み、今は昼休みとなっていた。僕は席に座ったまま春とランチタイムを過ごしていた。


「なぁ、祐介。今日はどこのパン?」


「今日はコンビニ」


 土曜日、家を出たついでにコンビニに寄って買っておいたやつだ。

 僕は料理は簡単なやつだけだけど作る。でも、それは、晩ご飯の話。朝は忙しくて弁当を作る時間なんてない。だから、いつもコンビニ飯や学食で済ませている。


「そろそろ、祐介も弁当を作ってくれる彼女つくらないとな」


 そう言うだけのことはあって春の昼ご飯は彼女が作ったであろう美味しそうな弁当だった。玉子焼きを幸せそうに口に運ぶ姿を見ながら思う。

 ……クッ、このリア充が!!!


「ま、そのうち」


「そんなこと言ってていいのか? もう、高三だし卒業まであと一年もないんだぞ。青春、したくない?」


「青春って……別に僕はしたいと思わないよ。それに、春とこうやって過ごしてるのも、メイド喫茶に通ってるのも僕の中では青春なんだ。今が楽しかったらそれでいい。それって、十分青春してると思わない?」


「ちょっ、おま、何恥ずかしいこと言ってんだよ! 嬉しいけどさ!」


「彼女だけが青春の全てじゃない。それに、彼女なら大学生になってからでも出来るかもしれない。まぁ、大学に行くかはまだ分からないけど」


「いや、兄貴が言ってたけど大学って案外出会いがないらしいぞ。そりゃ、人は高校よりも増えるけどその分関わらない人の方が多いんだって。だから、期待するだけ無駄だぞ」


「マジか……」


 さっきまで変に照れていた春が真剣な顔つきで重く深刻そうに言った。それだけで、どれだけ本当なのか伝わってくる。


「まぁ、そうならそれで別にいいよ。今は彼女ほしいと思わないし」


「彼女いたらメイド喫茶なんて行けないもんな」


「そうそう。あそこのオムライスが食べられなくなるのは嫌だから」


「それに、いざとなれば幸奈ちゃんに土下座でもすればなんとかなるしな」


「そうそう……って、それはならんわ!」


 なんでだろう……今日はやけに幸奈の名を口にする。彼女に聞かれて嫉妬されても知らんぞ。春の彼女はクラスが別だからその可能性は低いけど。


「だいたい、どうして僕が幸奈に土下座までして彼女になってもらわないといけないんだよ」


「いやぁ、メイド喫茶に通う彼氏でも幼馴染だったら許せるんじゃないかと思って」


 ……まぁ、それに関してはいけるだろうな。だって、幸奈がメイドなんだし。


「だからって、幸奈が僕を彼氏にするなんてあり得ないよ。それに、僕だって幸奈が彼女とか嫌だし」


「はは、幼馴染ってつくづく辛いよな。こうやって、からかわれてさ」


 楽しそうに笑う春に呆れてため息が出る。


「はぁ……なら、言わないでよ」


「はは、ごめんごめん。でも、幸奈ちゃんってなんで彼氏つくらないんだろうな?」


「いきなりなんで?」


「いや、単純に気になって。だって、幸奈ちゃん、高校に入ってからもいっぱい告白されてるじゃん。しかも、その半分がイケメンだぞ?」


「そうなの?」


「そうなの。運動部の猛者達が次々と敗れてる」


「ふーん。ま、幸奈が気にいらなかっただけなんじゃない? この人好きってなる人が現れたらそのうち付き合うでしょ」


「……なんとも思わない?」


「思わない思わない」


「本当に?」


「本当に本当に」


「ならいいけど」


 幸奈がどこの馬の骨とも知らないやつと付き合おうが僕にとってはどうでもいいこと。むしろ、そのままメイド喫茶でバイトするのをやめてくれたら良い!

 そう思いながら幸奈の方を見た。

 幸奈は一人、ポツンとしながらコンビニで売ってあるであろうおにぎりを口へ運んでいた。

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