第88話 ウザ後輩の様子がおかしい②
田所が口にした。ストーカーされてるんすって意味が一瞬理解出来なかった。
「……田所」
「はい……」
「寝言は寝て言うもんだぞ?」
田所が誰かにストーカーされてるとか……信じられない。田所のことを可愛くないかって言われると悪くはないって答えるだろう。ただ、それは幸奈という存在がずっと近くにいて、幸奈が一番だと思うからそう答えるだけで、世間からしたらどう言われるのか分からない。
もしかしたら、僕が思ってないだけで田所も可愛い女の子……なのかもしれない。スタイルもいいし、普段一人でいるなら気になる男子とかは自然と好意を抱くのかもしれない。
そう思うとない話じゃないのかな……。
「先輩、酷いっす……本当なんすよ……」
「だからってなぁ……」
フィクションの世界じゃストーカーなんてよくある話だ。現実でも自分が知らないだけでストーカー行為ってのは多いのかもしれない。実際に近しい行為をしていた子もすぐ近くにいることだし。
「ストーカーなんて最低!」
おい、幸奈さんやそれは盛大なブーメランだぞ? ぷりぷり怒ってる姿は可愛いけど、自分におもいっきり突き刺さってるぞ。
「幸奈せんぱぁい……分かってくれるっすか~」
「ちょっと、くっつかないで。暑苦しいよ」
「ううぅ、優しいのに酷いっす~」
「……はぁ。で、ストーカーってどんなことされたんだ?」
幸奈にベタベタくっつく田所が少しだけ羨ましく思いながら、離れさせるために訊いた。しかし、田所は幸奈にピッタリとくっついたままで話し始めた。
「……先輩、本当に信じてるんすか?」
どうやら、疑ったことを根にもっているらしい。じろりと見られ、両手を上げて降参した。
「悪かったよ……」
「ゆうくん。素直に謝れて偉いね。いいこいいこだよ」
「幸奈先輩。今はそういうのいいんで黙っててくださいっす」
完全に話が逸れてる。元に戻すために咳払いをひとつした。
「で、ストーカーって具体的には?」
「なにもされてないっす。ただ、ずっと後をつけられてるって言うか……怖いんす!」
「まぁ、ストーカーだから後はつけるよなぁ……。誰かとか心当たりは?」
「ないっす。男子とはほぼ話しません」
「犯人が女子って可能性は?」
「ないっすよ。誰かは分からなかったけどズボン履いてましたから。そもそも、女子が女子のストーカーとかするんすか?」
「ない話じゃないだろ」
世の中には女の子同士の恋だってあるんだから。
「いつから始まったんだ?」
「学食で三人でいるところを写真撮られたじゃないっすか。で、掲示板に載っけられてそれからっす」
「それって……もう一ヶ月以上じゃないか。なんで、もっと早く言わなかったんだよ」
「だって、先輩も秋葉先輩も私のことをウザいだのうるさいだの言うから……嫌われてると思って言えなかったんすよ……。同好会の時もつけられてて……」
部活終わりの二回の田所の妙な反応のことだろう。あれはそういう意味だったのかと理解した。
「ゆうくん?」
幸奈からぎろりと睨まれ背筋が震えた。僕と秋葉が悪いみたいになってる。いや、そんなこと言ったのは悪いけど田所にも責任がある訳で……とは言えなかった。弱々しい女の子に言えるはずがなかった。
「悪かったよ……僕も秋葉もああは言ってたけど田所のこと嫌いだとは思ってないよ」
幸奈の時と同じように慰めるために田所の頭を撫でた。隣から幸奈の鋭い視線を感じるけど勘弁してほしい。
「……先輩。最近、女たらしにでもなったんすか? こーいうこと、簡単にしないでほしいっす」
ほら、この通りだ。せっかく気を遣ってもこんなことを言われる。な、ウザいだろ?
でも、本気で嫌がってもないし、恥ずかしいのか僅かに赤くしてる姿がなんとも言えない。この後輩、案外可愛いのかもしれない。
そんなことを考えていると幸奈に手首をつねられた。
「長い。いつまで撫でてるの?」
「……はい、ごめんなさい」
ヤキモチだって分かってるから素直に謝って田所の頭から手を離した。
「と、とりあえず、どうするつもりなんだ?」
「分からないっす……」
「親に相談とかは」
「二人とも共働きであんま心配かけたくないっす」
「となると、先生にも言えないな」
「はい。連絡されるっすから」
「う~ん……」
いい対策案が浮かばない。こうなったら、スペシャリストに助言をもらうしかない。
「よし。僕がどうにかするから一先ず今日は帰れ」
「どうにか出来るんすか?」
「知ってるでしょ? ゆうくんはやる時はやってくれるって」
「まぁ……そうっすけど」
「なにかあったらすぐに連絡してこい。いくから」
「はい」
被害にあってるのは学校のある日だけと聞いたが心配だったため、途中まで送っていった。
「田所、無事に帰ったって」
送っている間、幸奈には待っててもらった。もちろん、助言をもらうためだ。
「良かったね」
田所からきた無事に帰宅したとの報告を伝えると幸奈も一安心したようだった。幸奈もストーカーとかはなくても、告白とかは多いから田所の気持ちがよく分かるのかもしれない。
「さて、幸奈さん。ストーカーをどうにかするにはどうすればいいと思う?」
「やっぱり、なにも思い浮かんでなかったんだね」
「しょうがないだろ? 僕は幸奈の行動に気づかなかった鈍感野郎だぞ?」
「威張って言うことじゃないよ。そのせいで私の気持ちはずっと気づいてもらえなかったんだから」
「ごめん……」
「でも、今は私達よりストーカーをどうにかしないとだよね」
「ああ。なにかいい案ある?」
「あるよ」
流石、その手をやっていただけのことがある。希望は幸奈に託された。
「簡単だよ。ストーカーをさらにストーカーすれば犯人なんてすぐに分かるよ」
幸奈がなにを言っているのかいまいち飲み込めてない。
「えっと……簡単に言うと僕もストーカーになれってことか?」
「そうだね。ゆうくんには私だけを見つめていてほしいけど今回はしょうがないから。特別だよ」
「う、ううん。マジか……」
正直に言うとストーカーになんてなりたくない。でも、スペシャリストの幸奈が言うんだからストーカーにさえなれば田所を救えるのだろう。
「分かった……ストーカーになるよ」
「カッコいいよ、ゆうくん」
最近、幸奈がどんどんダメな方へと進んでいってると思いながら、僕はストーカーになると決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます