第89話 ウザ後輩の様子がおかしい③
僕がストーカーになると決めたことを夜になって田所に連絡した。
明日から僕もストーカーになるから、と。
すると、少しして田所から返事がきた。
ど、どういうことっすか!?
先輩にまで後をつけられるとか怖いんすけど!
安心しろ。田所のストーカーのストーカーをするから僕のことは気にするな。
いや、めっちゃ気になるんすけど!?
ストーカーのストーカーってなんすか!?
そんなやり取りをしていてめんどくさくなってきた僕は電話をかけた。もちろん、相手は田所にだ。
「……も、もしもし。先輩ですか?」
「僕以外に誰がいるんだよ」
「そうっすけど……いきなりどうしたんすか?」
「文字で説明するのめんどくさくて電話した」
「相変わらず酷いっすね……で、どういう意味なんすか? ストーカーのストーカーって?」
「要は田所が一人で歩いているところを僕も距離をとってつけるってことだ。一人になってもずっと田所の後ろを歩いてるやつがいれば片っ端から捕まえる。そしたら、犯人なんてすぐ分かる」
ほとんど幸奈の入れ知恵だけど。
「大丈夫なんすか? もし、逆ギレでもされたら……」
「その時は田所が悲鳴あげてくれ。そしたら、大丈夫だ」
「えぇ~不安しかないんすけど……」
「まぁ、なるようになる。お前のことは守ってやるから心配するな」
「先輩……ちょっとだけカッコいいっす……」
「そりゃ、どうも。怖いなら送り迎えしてやろうか?」
「お、送り迎えとか子ども扱いしないでほしいっす!」
電話ごしでも想像できる。今頃、顔を赤くしてむきになってるんだろうなということが。
「余計なお世話だったか」
「そうっすよ! ……でも、休み時間とかは会いにいくかもしれないっす……いいですか?」
「いいぞ。僕といて変な目で見られてもいいんならな」
「なんすか、それ」
田所の笑い声が聞こえてくる。元気でいれるならそれが一番だ。それから少しして電話を切った。
次の日から、昼休みになると田所が教室にまでくるようになった。幸奈と田所、三人で昼食をともにする。周りからは想像通り色々な視線を向けられたがもう無視。今は気にしてるような状況じゃない。
幸奈は納得いってない様子だったが渋々受け入れてるような感じだった。
「全然手がかり掴めないな」
三日経った昼休み中、三人で昼食をともにしながら作戦会議する。ここ三日、放課後になると田所を学校の中うろうろさせて、その後ろを尾行していたが、手がかりがない状態だった。
「そんな簡単にはいかないよ。気合いだよ、ゆうくん」
「そうは言ってもなぁ……」
意味もなく放課後の時間を無駄に過ごすのはもったいない。バイトもあるし、期末試験も近づいてきている。時間は限られているんだ。
それに、後輩を助けるためと言っても尾行してるってのはどうにも気分が良くない。
壁に隠れながら、ジーッと田所の背中を見てた。当然、他人から怪しい視線を向けられたし、先生にも呼び止められた。全力で言い訳して、なんとかなったけど。一歩間違えたら、僕が本当のストーカー扱いされる。
「なんとか今週中にはどうにかしたい」
「迷惑かけて申し訳ないっす」
「いいって。迷惑なのはストーカーの方だ」
「そうっすけど……」
申し訳なさそうにしゅんと落ち込む田所。いつも元気でウザい絡みをしてくるやつが元気がないってのはどうにも調子が狂う。
「じゃあ、ストーカーが終われば僕と幸奈になんか奢ってくれよ。報酬ってことで」
「うん。それで、いいよ。報酬はちゃんともらわないとね」
「報酬って……怖いんすけど」
「ジュースでもなんでもいいよ。な」
幸奈に訊ねるとコクコク頷いていた。
「分かったっす」
昼食を終えて、トイレに行くついでに田所を教室まで送っていった。戻ってくると幸奈が心配そうにしていた。
「やっぱり、元気ないね」
「そうだな。早くどうにかしないと……」
しかし、結局その日も収穫はなにもないまま終わりを迎えた。
翌朝、あくびをしながら下駄箱を開けると中から一枚の紙がヒラリと落ちてきた。
こんな時、純粋な考えをしているやつはラブレター!ってなるところ、僕はならない。以前、幸奈との噂が広まった時に呪いの手紙らしきものが散々入れられたせいで期待など消えてしまったのだ。
今度はなんだと思いながら開くと――俺の彼女に近づくな、と書かれてあった。
久しぶりにきたな。幸奈の近くにいる僕がよっぽど嫌いなんだな。初めこそ、怖かったものの今では鼻で笑う程度のことだ。くしゃくしゃに丸めてゴミ箱へ捨てた。
教室に着くまでに手紙の内容を改めて思い返す。今までは、消えろや辞めろ、など僕に向けてどうこう書いてあった。
しかし、今回は俺の彼女に近づくな。
幸奈のことをまるで自分の彼女のように書いてある。こういうやつは何をしでかすか分からない。
もしかして、
以前、幸奈に告白して幸奈を泣かしかけた吉野。そのせいで、掲示板では随分と叩かれていると田所が言っていた。腹いせでまた幸奈にちょっかいを出すつもりなのかもしれない。
こうしてちゃいられない。
気づけば急いで階段を登り、教室の扉をくぐっていた。
「幸奈!」
春と談笑していた幸奈のもとへ急いで駆け寄った。
「ゆうくん。どうしたの?」
幸奈と春は顔を見合わせてよくよく分からない表情を浮かべた。
もしかしたら、さっきの手紙は本当にただの悔しい思いをぶつけてきただけの嫉妬なのかもしれない。
でも、幸奈のことを守るって言ったんだ。
「なにもなかったか?」
「う、うん? なにもないよ?」
幸奈はよく分かっていないまま答える。
でも、それでいい。幸奈が不安がらないように余計なことは言わなくていい。言うことが必要なのは――。
「幸奈。出来る限り僕のそばにいろ」
「ゆ、祐介!?」
声を大きくしたのは春だった。なにやら驚いた様子で僕を見てくる。
「なに?」
「い、いや、急にどうした……?」
「なにが……」
そこで、ようやく気がついた。無我夢中で僕はとんでもないことを口走っていたことに。
「あ」
一気に熱くなっていく。恥ずかしい。こんな告白まがいなことを堂々としてしまった。いくら幸奈を守ろうとしたからって馬鹿だ。
「い、いや、今のは……」
焦ってオロオロしながら訂正しようとするも時既に遅く、幸奈が俯きながらすすーっと近づいてき、袖の部分をキュット握ってくる。
そして、こくんと頷いた。
「……はい」
小さな答え。また、関係がどうなったか分からない結果になってしまった。でも、これで、抑制になるならいいや。よくはないけど、事が収まるまでは我慢することにした。
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