第6話 ぼっちなのは幼馴染メイドの方であった①

 月曜日――。

 不愉快な金、土曜日を過ごしたけど昨日一日引き込もっていたおかげでだいぶリラックスすることが出来た。そのおかげで今日も新しい一週間を迎えられそうである。……休めるなら、永遠に休んでいたいけど。


 制服に身を包ませ、家を出た。

 そして、隣を一瞬、チラッと見る。当然、幸奈が待っているようなことはない。あっても困るだけだし。

 それに、幸奈は真面目だからいつも時間ぎりぎりに登校する僕とは違って先に行っているのだ。


 住むマンションから高校までの距離は近い。歩いて十分程というところだ。だから、時間ぎりぎりに出ても十分に間に合う。

 ……因みに、マンションと自宅までもそれほど距離がない。だから、僕は高校生活が始まるその日まで自宅で家族と穏やかな日々を送っていた。必要な荷物も全部運び終え生活出来るようには済ませていたし。



 僕は高校につくと下駄箱で靴を履き替え自分の教室へと向かった。四階建ての本校舎の二階に三年生の教室がある。上から順に一年生、二年生、三年生という造りだ。

 クラスは一学年六つあり、渡り廊下を挟んで校舎を正面から見て左側に一から三、右側に四から六というようになっている。


 僕は階段を上がってすぐにある三組の教室に入った。ここが僕のクラスだ。

 席に向かう途中、後ろから一番右の一番前の席に座る幸奈を見た。

 やっぱり、もう来てるよな。

 幸奈は一人で凛として座っていた。


「おはよう、祐介」


「おはよう、はる


 僕が席に座ると前に座る大木おおき はるから声をかけられた。

 春とは小学校の頃からの付き合いでそれなりに仲が良かった。でも、中学に入って互いに忙しくなり連絡を取り合うことも少なくなってしまっていた。だから、高校まで同じだとは思っていなく、入学してから暫く経って、お互い出会った時は嬉かった。


「……なんか、疲れてる?」


「なんで?」


「いや、なんかしんどそうにしてる気がしたから」


「まぁ、ちょっと色々あって」


 驚いた。十分にリラックス出来たと思っていたけど……顔には、疲れが出てたのかな。朝、鏡を見たときは全然気づかなかったけど……。


「ふーん……原因は幸奈ちゃん?」


「えっ、なんで!?」


「目で追ってたから」


 小学校から付き合いがある春は僕と幸奈が幼馴染だということを当然知っている。そして、今の関係を理解してくれている数少ない人だ。と言うのも、低学年の間はまだ幸奈と仲がよくいつも一緒に遊んでいて、いつからか話さなくなって、それを近くで見ていたから察してくれているんだと思うけど。


「なんかあったの?」


 なんて答えようか?

 春になら全部言っても誰かに言い触らすようなことはしないだろうけど……どこで、誰に聞かれてるか分からないから。


「ううん、なんでもないよ。相変わらず、変わらずの関係」


「そっか。ま、なんかあれば相談してくれよ」


「ありがとう」


 春はいいやつだ。本当は、友達に会話のひとつとして起こったことを話して愚痴りたいところだけど……それは、許されないらしいから出来ない。


「しかし、祐介も大変だな。幸奈ちゃんみたいに可愛い子が幼馴染だと」


「はは、ほんとにそう思うよ」


「でも、今更だけどさ、幸奈ちゃん……ずっと、ぼっちだよな。一人でいるのを気にしてる素振りもないけど……本当は祐介に構ってほしいんじゃないの?」


 もう一度、幸奈の方を見た。

 幸奈は黙って一人で黒板をじっと見ていた。


 春の言う通り、昔は幸奈にも友達と言える人達がいた。……一番仲が良かったのは……自分で言うのもなんだけど僕だと思う。

 でも、僕と話さなくなって、いつからか幸奈は誰かと一緒にいるということをしなくなった。ぼっち枠というのが似合うというか……班を決めたりするのも一人余って、どこかに入れてもらうみたいな形だった。

 そして、それは高校生になってからも変わらなかった。誰かに話しかけられたら返事はするけど、決して自分から誰かと一緒にいようとはしていなかった。

 ……普通、ぼっちってのはこーいう場合、僕の方な気がするんだけどな。

 え、僕? 僕は春も含めて、同好会にも所属しているし少なくとも学校でぼっち枠に所属していない。


「いや、そんなことあるわけないでしょ」


 春が言ってることなんてあり得ない。あの幸奈が僕にかまってほしいだなんて……そんな日がくれば、多分翌日には僕はこの世から存在を消されているだろう。


「はは、そうだよな。ごめんごめん、ほんの冗談」


「あんまり、そういう冗談はやめてよ。どこで誰に聞かれてるか分からないんだからさ」


 僕と春はそのまま楽しく談笑していた。

 すると、何やら視線を感じた。その方を見ると視線を送っていたのは幸奈だった。少し羨ましそうに見えた幸奈からの視線。だけど、僕がそれに気づいたような仕草をするとすぐに睨んでプイッと黒板の方を向きなおした。

 あんな幸奈が僕にかまってほしいだなんて……本当にあり得るはずがない。

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