第32話 幼馴染メイドの汚部屋片付け①

 僕が作った朝ご飯を食べ終え、今は幸奈の部屋の前にいる。

 これから、この先にあるきったない領域に足を踏み入れると考えると嫌気がさしてくる。

 僕は手にしている片付け道具を見ながらため息をついた。


 この片付け道具は朝ご飯を食べた後、幸奈に買いに行かされたものだ。ゴミ袋、ヒモ、殺虫剤……と必要なものを色々と買わされた。……自腹で。

 その間、僕の部屋でのんびりと過ごしていた幸奈は気だるそうにしながら「開けるわよ」と言って扉を開けた。


 数時間前にも見た光景が勝手に綺麗になってる……なんてことはなく、相変わらず汚いままだった。


「……言っとくけど僕だって片付けが出来る訳じゃないからな。くれぐれも手伝うだけだからな。いらないものとかはさっさと捨てろよ」


「分かってるわよ。……って言うか、その偉そうな話し方はなに? もっと優しく丁寧に言いなさいよ」


 ……お前が言うか。

 幸奈だけには言われたくないと思いつつ、事件があったせいで強くも言い返せない。


「分かりましたよ……幸奈様」


「ちょっと、様ってなんなのよ? 私は女王様なの?」


 充分女王様だろ!

 どこの世界に本物の女王様でもないのにこんなに扱き使うやつがいるんだよ。


「でも、そうね。祐介を下僕みたいに扱えるのも楽しそうね」


 幸奈は『女王様も悪くないかも』と楽しそうに笑っている。


「誰が、下僕だ!」


「お黙り。先ずは、ゴミを捨ててきてちょうだい。これは、命令よ!」


「……っ、分かりましたよ!」


 僕はパンパンに詰まっているゴミ袋を三つほど掴んで階段を下った。


 てゆーか、片付けの前にゴミ袋を捨てに行くってどういう順番なんだよ!

 何度も往復して玄関付近に置かれていたゴミ袋を全て処理した。


「な、なぁ……いつからゴミを溜めてたんだよ」


 玄関で立ちながら僕を待っていた幸奈に訊く。

 普通、毎週二回ほどゴミを纏めて捨てに行けばこんなにも溜まることはないはずだ。


「……さぁ? ママが最後に来たのが二ヶ月くらい前だからそれからじゃない?」


「おばさんにこの状況を見られてなにも言われないのかよ」


「言われないわ。ママは優しいもの!」


 おばさんが優しいのは知ってる。僕も随分とお世話になったから。

 でも、おばさん……娘はどんどん酷くなっています。嫁の貰い手がいなくなりますよ?


「だからってなぁ……」


「それに、ママは片付けが好きだから喜んで手伝ってくれるわ。まぁ、溜めたゴミ袋は玄関付近に置いておいてねって言われてるけど」


 どーして、そこで捨てろって言わないんだよ……!


「まぁ、いいか……これ以上、時間を無駄にしても綺麗になるわけがないし始めるぞ」


「ええ。一先ず、この辺りに落ちているのはほとんどゴミだから捨てていいわ」


「へいへい」


 幸奈の言う通り落ちているものは本当にゴミだった。だから、気にすることなく捨てていく。

 たまに落ちている雑誌や靴下は一応確認してゴミかそうでないか分別した。


 そうして、玄関からリビングへと続く廊下を綺麗にした後、リビングに突入した。


「ここも汚い……」


 リビングは一段とごちゃごちゃしていて、ゴキブリが出るのにスゴく納得することが出来た。

 部屋には必要最低限のものしか見当たらないのにどうしてここまで汚く出来るのか謎だった。


「ある種の才能だな」


「うるさいわね。早くやるわよ」


 いかにも一緒にやっている風に聞こえるが幸奈は一切手伝っていない。これっぽっちも手伝っていない。ちり紙ひとつ拾わない。しているのは残すか捨てるかの判断をしているだけ。

 幸奈に手伝ってもらったところで余計に時間がかかりそうだからいいけどさ!


「これは?」


「いらない」


「これは?」


「いる」


 僕は流れ作業のように落ちているものを適当に拾っては確認させ、ゴミ袋へ入れるか入れないかを繰り返した。


「これは?」


「ちょ、ちょっと!」


 それは、よく分からない感触だった。

 言葉では言い表すのが難しいそれが何か分からなかった。だから、幸奈が焦っている意味が分からず、拾ったそれを確認してみた。


「ご、ごめん!」


 それは、黒色の下着だった。

 下に着ける方のそれから目を急いでそらして差し出した。

 幸奈はそれを急いで奪い取った。


「な、なに見てるのよ! さいってー!」


 幸奈は真っ赤になりながら、大事そうにそれを胸の前で隠していた。


「い、いや、これは不可抗力だろ」


 そう。これは、決して望んだ訳ではない不可抗力だ。落ちているもを拾ったら、たまたまそれが黒いパンツだったってことだけだ。


「だ、だいたい、そんなものくらいちゃんとしまっとけよ!」


「そんなもの? 私の下着をそんなもの扱い?」


「あ、いや……」


「なによ。初めての女の子の下着で興奮したくせに!」


「し、してねーよ!」


 ほんの少しだけ嬉しかったのは……内緒だ。


「なんでよ!」


「なんでって……し、下着だろ? 下着には興奮したりしない」


「下着にはって……じゃあ、私がこれを着けてるところを想像して興奮してるってこと……?」


「ち、違う。もういいから、早くそれ片付けてこい」


「分かってるわよ。その前に少し目を瞑りなさい」


「なんでだよ?」


「ほ、他に落ちてないか確認するためよ。い、言っておくけど普段は下着はちゃんと片付けてるから。いつもほったらかしにしてる訳じゃないんだからね!」


「な、なんでもいいから早くしてくれ」


 僕が目を瞑ると幸奈はリビングの中を駆け回り出した。そして、何度か物を拾うような音を発生させていた。


 ほ、他にも落ちていたのか……?

 他の下着はどんなものなのか少し……ほーんの少しだけ、興味があったけど見つけなくて良かったと安心のような残念なような微妙で複雑だった。


「か、片付けてくるからまだ目を開けたらダメよ!」


 プライベートの方へ行くような足音と扉が閉まる音がした。

 ……あ、危なかったぁぁぁ!

 幸奈から言われた下着を着けてるのを想像してって言葉……もう少しでバレるところだった。


 僕はほんの一瞬だけ想像してしまったのだ。幸奈があの下着を着けているのだということを。

 意外と大人っぽいの着けてるんだな……。

 こんなことを考えてしまっては幸奈から変態だと言われたとしても、もう言い返すことは出来ないなと思った。

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