第33話 幼馴染メイドの汚部屋片付け②

「ま、待たせたわね……もういいわよ」


 五分ほどして戻ってきた幸奈に言われて目を開けた。

 リビングには少しだけ物が減ったという痕跡が見てとれた。


 やっぱり、落ちてたのか……。

 下着を見つけたのが僕だったから良かったものの他の男ならどうしてたんだ……って、そうなれば流石に片付けてたか。


「こ、これからはちゃんと片付けろよ……!」


「わ、分かってるわよ」


 それからまた残すか捨てるかの分別をしながら片付けを進めた。流石にもう下着を見つけるというハプニングは起こらず順調に進んでいった。

 幸奈は隣で普段着ているであろうジャージをせっせと畳んでは山積みにしていた。


「なぁ、ジャージしか見当たらないんだけどジャージしか着ないのか?」


「だったら、なに? 悪いの?」


「いや、悪くはないけどさ」


「だったら、なによ? 祐介だってジャージじゃない」


 別にジャージに対して悪いとなんて思っていない。動きやすくてずっとでも着ていたいって思ってるほどだ。

 でも、年頃の女の子がジャージしか持っていないというのはどうなんだろうか?


「出掛ける時とかどうしてるんだ?」


「ジャージよ」


「そ、そうか……」


 そう言えば、コンビニにもジャージ姿で行ってたな。


「お、おしゃれしたいとか思わないのか?」


「思わないこともないわ。でも、学校は制服だしバイト先にもそのまま行くから必要ないのよ」


「休みの日はどうしてるんだよ? バイト先の先輩と遊びに出掛けたり……とかないのか?」


 友達はいないからな……僕が知る限りだけど。


「ないわ。と言うか、ここ数年誰かと出掛けたりなんかしてない。休みの日はほとんど出ないし」


 淡々と答える幸奈。

 本人はなんとも思っていない様子で答えているけど、声色は少しだけ寂しそうにしていると感じた。


「……なんで、友達作らないんだ?」


「急になによ?」


 幸奈はピクリと反応した。

 一瞬にして機嫌を損ねたような気がする。


「いや、友達を作ったら一緒に出掛けたり出来るしおしゃれも楽しめるだろ?」


「いらないわ。必要だと思ったことないもの」


「でも、昔はそれなりにいただろ? それに、今だって友達になってって言えばいっぱい友達になってくれるんじゃないか?」


 そう。幸奈にとって友達を作ることなんて楽チンだ。『私と友達になってくれる人この指とーまれ』ってすれば、沢山の人がとまってくれるだろう。

 そうなれば、ぼっちでもなくなるしお出掛けもおしゃれだって楽しめる……僕に絡んでるよりよっぽど楽しい時間を送れるはずだ。


 そう思ったから言っただけ。

 なのに、それが幸奈の何に触れたのか分からないけど大声を出して怒られた。


「しつこいわね! いらないっていってるでしょ!」


「さ、幸奈……?」


 驚いている僕に幸奈はハッとして小さく『ごめん』と謝ってきた。


「いや、僕の方こそしつこくてごめん……」


「と、とにかく。私には友達もいらないしおしゃれも必要ないの」


「そっか。まぁ、友達に関してもおしゃれに関しても上級者じゃない僕が口を出して悪かったよ」


 友達に関しては春がいてくれるからそこまで下級者ってほどでもないけどな。


「ね、ねぇ。祐介は私がおしゃれしたとして似合うと思う?」


 手の動きは止めないまま訊いてきた。

 幸奈のおしゃれ姿か……。


 ……って、いかんいかん。さっきの下着がちらついて。

 僕は首を振って雑念を消すとちゃんと想像した。おしゃれの流行なんて分からないからドラマに出てくるような服を幸奈に重ねてみる。


「……うん、似合ってるな」


 それは、想像の世界でだけどよく似合っていた。

 幸奈は元のレベルが高いから当然のことっちゃ当然だけど。


「きもっ」


「おい!」


 目を閉じて想像していた僕は幸奈から見て気持ち悪かったらしい。

 ったく、誰が訊いたんだよ!

 でも、機嫌はなおったらしくいつもの幸奈に戻ったようだった。


「祐介は私のおしゃれ姿見たい?」


「はぁ? 別に、どうでもいいけど」


 幸奈のおしゃれ姿か……見たいか?

 見たくないって言えば嘘になるけど、見たいとも思わない。見かけた程度で充分だろうな。だって、メイド姿見てるんだしメイド姿に勝つってなかなかないからな!


「ちゃんと答えなさいよ。本当は見たいんでしょ?」


「いや、だから別にどうでもいいって」


「見たいって言いなさい」


「だから……」


「め・い・れ・い!」


 グッ……それを言われるとなにも出来ない。コイツ、自分の都合のいいように好きなだけ使いやがる……!


「……見たいです」


「ほらね。やっぱり、見たいんじゃない。まったく、素直じゃないわね。初めからそう言いなさいよ」


「お前、性格悪すぎだろ……」


「なにか言ったかしら?」


「イエ、イッテマセン……」


 怖い……一瞬、本気で睨まれた。


「そこまで祐介が私のおしゃれ姿を見たいって言うなら今度一緒にどこかへ行ってあげる」


「いや、出掛けなくても一人でおしゃれした写真でも見せてくれよ。なんで、わざわざどこかまで出掛けないといけないんだよ」


「祐介……その写真で何する気なのよ」


「何もしない。と言うか、貰うとか言ってないから。現物でもスマホでも撮ったやつを見せてくれたら幸奈に返すから」


 僕からしたらこれ以上、幸奈の写真が増えるのは嫌だ。何枚も何枚も幸奈が写ってる写真を持っていて邪魔にしかならない。僕も写ってるから捨てられないんだ。

 それに、彼女でもない女の子の写真を持ってるなんてストーカーっぽいし。僕はストーカーじゃないし。だから、いらない。


「じゃあ、そういうことで。いつでもいいからおしゃれした時にでも見せてくれ。ほんの少しだけ期待してるから」


「……あげる」


「は?」


「だ、だから、祐介に私とどこかに出掛けることが出来る権利をあげるって言ってるの」


「いや、いらん」


 貰ったら絶対に困るやつだ。悪徳商法は嫌いなんだ。クーリングオフ出来ないし。


「断るとかなしだから。命令だから受け取りなさい。それから、ちゃんと使いなさい」


 押し付け商法なんて大っ嫌いだ!

 幸奈の目が絶対に押し付けると燃えていた。


「……分かったよ。いつか。いつか、使わせてもらうよ」


 いつかって言葉は便利だ。

 今すぐにでも永遠の先でもいいんだから。


「し、仕方なくなんだから。その時は仕方なく祐介と出掛けてあげるだけなんだから。勘違いしないでよ!」


 ……コイツ、自分でツンデレって分かってるのか? って言うか、誰かと出掛けたいなら僕を誘うなよ。深雪さんなら喜んで付き合ってくれるだろ。幸奈に溺愛だったし。


 内心は喜んでる……のか?

 幸奈はツンツンしながらもジャージを畳む動きが一段と早くなっていた。

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