第23話 メイド喫茶で再び出会うは幼馴染メイドであった①

 金曜日――。

 僕はいつものように『ぽぷらん』の前で立っていた。

 先週だって幸奈はいなかったし、深雪さんから金曜日は幸奈がいないってことを教えてもらってるから安心して入店できる。


 ウキウキした気分で扉を開けた。


 そして――絶句した。


「お、おかえりなさいませ! ご主人様!」


 な、なんで幸奈が……!?

 僕を出迎えてくれたのは幸奈だった。恥ずかしそうに頬を赤く染めながら、照れているのを隠すように睨んでくる。

 そんな姿を一目見た客はまず間違いなく落ちるだろう。幸奈という可愛いメイドに。


 だけど、僕は違う。驚きが大きすぎてまた開いた口が塞がらないという状態だった。

 なんだこれ……デジャブか?


「お、お一人様ですか?」


 驚きのせいで声が出なかった。

 かわりに、小さく頷いて返事した。


「そう。まぁ、見れば分かるけど」


 幸奈は僕が一人だと知っているくせに事実を確認して、そこからいつものように接してきた。その頬は赤くなったままだが……。

 相手が僕だからって適当にし過ぎだろ!


「それでは、ご主人様。お席に案内いたします」


 幸奈は僕を連れて席へ向かおうとするが僕は動けないまま立ち尽くしていた。そんな僕に幸奈は振り返ると――


「ふふ、奇襲は成功のようね。そんなに私がいることに驚いているの? それとも、私の姿に見惚れてるのかしら?」


 いたずらっ子ぽいような笑顔を浮かべた。

 その姿はさながら可愛いキュートな小悪魔かのように思えた。……実際、幸奈の背中に小さな黒い翼がはえているように見えた。


 って、ダメだダメだ。しっかりしないと。翼なんてただの錯覚だ。幸奈は人間なんだから。


「……前者」


「ふん、変に強がらなくてもいいのよ? 見惚れてましたって正直に言えば少しはサービスしてあげるわよ?」


「見惚れるもなにも……一回見てるだろ」


 ……まぁ、可愛いのは認めるけど。

 でも、口にするとなんだか負けた気分になるし、調子にのられても困るから言わない。


「それに、僕以外にはそーいう勘違いさせること言うなよ」


「そ、それって、僕にだけ言えってこと……?」


「ああ」


 僕は真剣だった。

 今感じている思いは紛れもなく本当のことだ。嘘偽りない気持ちだ。


 すると、幸奈は何故だか顔を真っ赤にさせた。


「そ、そんなに、私が他のご主人様と関わるのが嫌なの? し、仕方ないわね。だったら、私は祐介だけの――」


「なにを勘違いしてるんだ?」


「えっ?」


「僕は客のために言ってるんだけど」


「ふぇっ……?」


「幸奈が勘違いさせるようなこと言ったせいでその気になって手を出したらその客はどうなる? 出禁どころか、牢屋に入るかもしれないだろ? そうなったら、楽しむために来てた客がメイド喫茶に来れなくなって可哀想だろ? だから、僕以外には言うなよって言ってんの」


 僕なら幸奈からこんなこと言われても何も起こさない。最近はわりとよく話すようになったけど、だからと言って恋人になりたいなんてまったく思わない。本性も知っているし。


「それに、好きなやつがいるんだろ? 自分で言ってたろ。その一人にしか触らせたりしないって。……まぁ、ここで言うサービスなんて料理の量を増やしてくれる意味だって分かってるけどさ」


 でも、仮にもし、興奮したご主人様が幸奈に無理やり手を出す……なんてこともあるかもしれないからな。そうなったら、流石に可哀想だと思うし、幼馴染としてしっかり言っておかないと。


「とにかく、幸奈のためにも客のためにそーいうことを言うのは僕だけにしとけってこと。分かったら、さっさと案内してくれ」


 いつまでも入った所で話してるのは迷惑だし深雪さん達にも不審に思われるかもしれないし。

 と言うか、深雪さんがいれば、どうして幸奈がいるのか教えてもらいたい!


「……祐介になら言ってもいいの?」


「ああ。僕はスルースキル高いからな」


 まぁ……幸奈から想われてるやつには少し申し訳ない気がするけど、変なことが起こらないためにも僕が犠牲になっていた方がいいだろう。

 だから、ここは即答する。


「この、馬鹿!」


「はぁ!?」


 幸奈はさっきとは違う意味で真っ赤になっていた。まるで、頭から湯気でも出ているかのように……いや、プンスカという音が聞こえた気がした。

 って言うか、なんで怒られたんだ?


「ほら、席にいくわよ。さっさと、ついてきなさい!」


 まるで、主従関係が逆転し幸奈がご主人様で僕がメイド……執事のようになっていることに気づいたが言わないことにした。

 僕は黙って幸奈についていき、席へ案内された。

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