第22話 バイト終わりを待っているのは幼馴染メイドだった④了

 またそーやって意味ありげなことを……もう僕は騙されないし勘違いしないぞ!


「あっそ」


「信じて、ない?」


「信じるはずないだろ」


 どうせまたからかわれてるだけなんだし。


「もう、ちょっとくらいは信じなさいよ!」


 幸奈はプクーっと頬を膨らませた。

 やっぱり、からかってたんだな。よかった。変に意識しないで。


「あ、ちょっと待ちなさいよ」


 僕がスタスタと歩き出すと幸奈は急いであとをついてくるようだった。


「ねぇ、理由知りたくないの?」


「またからかうだけなんだしどうでもいい」


「ちゃんと言うから聞きなさいよ!」


 はぁ、うるさい……。

 このまま、後ろでずっとギャーギャー言われてるのも面倒だし。


「聞いてるから話せば」


 歩きながら聞くことにした。

 どうせ、しょうもない理由だろうけど。


 すると、幸奈は僕の隣にまでやってきて話始めた。


「私が行ったのは祐介を見るためよ」


「僕を見ても面白いことなんてなにもないけど? よっぽど暇人なの?」


「ひ、暇じゃないわよ!」


 じゃあ、なんでいちいち僕を見るためなんかできたんだよ……。


「私はねぇ、私だけがバイトしているところを見られたままなのが気に入らなかったのよ」


「勝手にもほどがあるだろ!」


「うっさいわね。私だけが恥ずかしい姿を見られて……ズルいじゃない!」


 じゃあ、なんでメイドなんてやってんだよ……。


「だから、私も突然現れて祐介を困らせてあたふたしてるところでも見て楽しもうと思ったのよ!」


「……ふん、でも残念だったな。僕は幸奈と違ってちゃんと働いてたぞ」


 そうだ。幸奈は僕に対して酷い対応をしたけど、僕はちゃんと店員とお客様っていう関係で対応した。つまり、僕の方が幸奈よりよっぽど大人だってことだ。精神年齢が。


「そうよ。なんでもっと困惑しなかったのよ!」


「そりゃ、僕の方が大人だからだろ。お子ちゃまな誰かさんより」


 本当はすごく焦ってたし驚いてたけど、それは黙っておこう。


「だ、誰がお子ちゃまよ!」


「さぁ?」


 ……なんでだろう。幸奈となんて一緒にいたくないし話したくもないって思ってるのに……どこか、楽しいって感じてる僕がいる。


「ふん、お子ちゃまだって言ったこといつか後悔させてあげるんだから」


 拗ねたように唇を尖らせる幸奈だが、どこかその表情は楽しそうにしているようにも見えた。

 僕はそんな幸奈を見て、口元を緩ませた。


「ねぇ、いつからバイトしてるの?」


「あー、高校入ってすぐくらいかな。ちょうど、募集してたから面接に行ったら受かったんだ」


「そうなんだ。全然知らなかった」


「まぁ、話すことでもないしな。春と家族しか知らない」


「そっか。じゃあ、その中に私も入るね」


「ま、まぁ……そうなるな」


「なに? 嫌なの?」


「別に」


 幸奈に知られてもどうでもいいんだけど……店長に勘違いされたまま、また店に来られるとめんどくさくなりそうで……嫌っちゃ嫌、なんだよな。


「どれくらい働いてるの?」


 ここで嘘ついても春から本当のことを言われると、なんで嘘ついたのかって聞かれそうだし正直に答えるか……。


「月火木の三日」


「三日なんだ」


「ああ。まぁ、『ぽぷらん』に通う分とちょっとしたお小遣いくらいで充分だし。それに、三日だけでも疲れるのにそれ以上働いたら学校行けなくなりそうだから」


 ただでさえ、授業中はほとんど寝ていてついていけてないのに、欠席にまでなると卒業が危なくなる。


「休むのはダメね」


「だろ? 出席日数だけは稼いどかないとな」


「それもそうだけど……それよりも……」


 なんだ? 幸奈のやつ、ちょっと赤くなってる?


「どうした? 赤くなってるぞ?」


「べ、別に赤くなんてなってないわよ!」


 いや、そう言いながらますます赤くなってるんですが……。

 女心……もとい、幼馴染心は難しい。


「ね、ねぇ……あれからも『ぽぷらん』に来てるの?」


「ああ。行ってる」


 もちろん、先週だってちゃんと行った。

 幸奈との一件があって傷心しきった心の傷をオムライスを食べて癒した。深雪さんが他の人の相手をしていて話せなかったのは少し残念だったけど……。でも、帰り際に深雪さんがさりげなく手を振ってくれて……それだけで、幸せだった。

 だから、今週だって行くつもりだ。


「ね、ねぇ、いつ来てるの? あれから、一度も会わないけど……」


 なんでそんなこと訊くんだ?

 そうか。僕が来るかもって考えたら働くのに集中出来ないんだな。それなら、僕が金曜日に通ってるってことを教えて安心させた方がいいか。


「金曜日に行ってる」


「どうして金曜日なの?」


「一週間頑張った僕へのご褒美」


「なにそれ。馬鹿みたい」


 そう言いながら幸奈はクスクスと笑っていた。


「ふーん、そっか。金曜日か……」


「なんか言ったか?」


「なんでもないわよ。ふん!」


 なんなんだ、いったい……?

 そうこうしているうちに、マンションに着いた。左側から来たおかげで幸奈はそのまま階段へと向かった。


「祐介? 来ないの?」


「別に、ここまででいいだろ。ちゃんと送ったんだからな」


「ちょっとは心配しなさいよ」


「うるさいな。今さらだけど、誰かに見られでもしたら嫌だからここでお別れだ」


 このマンションと高校の距離はそこまで離れていない。そして、高校の側には住宅が多い。もちろん、高校に通う人も住んでいることだろう。……知らんけど。

 僕達は今制服を着ているし、もし誰かに見られでもしたらまた変な噂が流されるかもしれない。

 しかも、隣人同士だと知られるとそれこそ言い訳が出来ないようになる。事実なのだから。


「そんなに不安ならここから部屋に入るまで見ててやるからさっさといけよ」


「……分かったわよ。そのかわり、ちゃんと見てなさいよ」


「分かった分かった」


 少し不満そうにしながら幸奈は階段を登り部屋の前までいった。そして一度振り返り僕の方を見てきた。

 何を思ってるのかは知らないけど……僕は見てるという意味を伝えるために首を縦に振った。


 そのまま幸奈は部屋に入り、姿が見えなくなった。


「はぁ……僕も帰るか」


 幸奈が部屋に入ってしばらくしてから階段を登り、部屋に入った。

 そして、そのままベッドまでいくと倒れるようにダイブした。


「どっと疲れたな……」


 店長のいらん気遣いのせいで早く終わったわりには身体は疲労していた。

 だけど、その疲れは不思議と嫌だと感じるものではなかった。

 そして、そのまま静かに目を閉じた。

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