第8話 ぼっちなのは幼馴染メイドの方であった③

 ……クソ、スッゲーお腹痛い……!

 帰りのホームルーム中、世紀末を迎えていた。お腹に次々と元気が集まり、顔が青ざめていく。早く、トイレに行きたい。先生、早く話終わって!


 話が終わり、委員長の挨拶によって別れがなされた。

 その瞬間、僕は机にあるものをカバンの中に適当に詰め込んだ。

 帰る支度だけ済ませて向かうはトイレ……!


「なぁ、祐介。今日って――」


「ごめん、トイレ」


「お、おお。じゃ、また明日な」


 何か言いかけた春に謝り、僕は誰よりも早く教室を出た。そして、そのままトイレへと駆け込み、思うがままに解放した。



 はぁ~~~スッキリ……!

 さてと、このまま同好会にでも顔を出してっと……その前に、教室に残したままのカバンとらないと。


 教室に入ると生徒は誰も残っていなかった。自分のすることのために出ていったのだろう。……いや、一人だけ残ってた。教室のドアを開けた音にビックリしているのか、それとも入ってきた僕にビックリしているのか……おそらく、理由は後者の方だろう。


「何して……」


 僕は驚きながら、口にしていた。

 僕の視線の先には……僕の席に座っている幸奈がいた。

 お互い目を丸くして何も言えなかった。


 えっ、なんで、幸奈が僕の席に座ってるの?

 考えても分からない。理由も意味も何も分からない。


 唖然として立ち尽くしていると幸奈は何事もなかったように席を立ち、どこかへ歩いていこうとする。


「ちょ、ちょちょちょ、姫宮さん。僕の席で何してたの!?」


 このまま無視するのもなんとなく気分が嫌で、教室には誰もいなかったこともあり、僕は学校で初めて声をかけた。

 幸奈は一瞬ビクッとした……気がしたけど、すぐに睨んで言い返してきた。


「別に。何もしてなかったけど」


「嘘だ。僕の席に座ってた」


「だ、だから、本当に何もしてなかったって言ってるでしょ! だ、だいたい、あんたはどこに行ってたのよ! カバンも置いていったままで……戻ってこないと思ったらいきなり戻ってきたりして……ビックリしたじゃない!」


「僕はトイレに行ってただけだ」


「トイレ? こんなにも長い時間?」


 確かに幸奈の言う通り、強敵だったため時間はまぁ……かかった。でも、どうしてそんなこと幸奈から言われないといけないのか。


「……うるさいなぁ、個人の勝手だろ」


「は! ま、まさか、あんたこの前撮った私の写真をここで使ってたんじゃ……」


 そのネタ気に入ってるのか?

 幸奈は何を勘違いしてるのかまた自分の身を守るような体勢をとっていた。


「はぁ……どうでもいいや」


 このまま幸奈と話していると誰かに見られるかもしれない。そして、そうなったら最後――『人気のない教室で、美少女に告白し、見事撃沈』っていうレッテルを貼られてしまう。

 そう思った僕はカバンを掴んで教室を出ようとした。


「ち、近寄らないでよ、変態!」


 後退る幸奈。

 そんな幸奈に自分でも驚くほど一切興味が出なくて可哀想なものを見る目で見つめた。


「なんて目で見てるのよ。どうせ、私の裸を想像して楽しんでたくせに!」


 幸奈の裸……裸ねぇ……。

 そんなの考えたこともない。だいたい、幸奈の裸なんて小さい頃に何回も見てる。なにせ、一緒に風呂に入ってたんだから。だから、今更そんなこと気にする必要は……なくはないか。


「全く成長してないくせに……」


 幸奈には聞こえないように小さく呟いた。


「とにかく、二度と僕の席に座るなよ。僕に迷惑をかけるな」


「なっ、私がいつあんたに迷惑をかけたって言うのよ。それに、さっきだって好きで座ってた訳じゃ……ないわよ。先生に頼まれたから……」


「……何を?」


「なんだか最近、置き勉が多いらしいのよ。別にダメだってことはないけど、あんまり酷いなら注意しないといけないから見てくれないかって」


「ふーん。だからって、どうして姫宮さんに?」


「私がゴミ捨て当番だから」


「あっそ」


 まぁ、どうでもいい話だったな。

 でも、別に幸奈は僕の机で何かしていた訳じゃないらしいし、謝るだけ謝っとくか。怒った口調で言っちゃったし。


「ま、続き頑張って。あと、さっきはちょっとイラッとして……ごめん」


「……あんたの席で最後だから。あと、気にしてない」


 気にしていないようならなそれでいっか。早く、教室から出て同好会に顔を出しに行こ。


「じゃあ、私はゴミ捨てに行くから」


「また明日」


 教室の前の方に置かれている四つの大きなゴミ袋まで歩いていく幸奈に一人のクラスメイトとして答えた。

 一緒に教室を出るのもなんとなく嫌なのでカバンを掴んで足早に教室を出ようとして――頭をかいた。

 ああ、もう……!

 教室を出るのをやめて幸奈の方に向かって歩く。そして、そのままゴミ袋を三つ持ち上げた。


「仕方ないから手伝うよ」


 幸奈はきょとんとした目で僕を見ていた。けど、すぐにほんの少しだけ嬉しそうに唇を震わせた。ように感じた。

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