第13話 昼食を共にするのは幼馴染メイドとだった①
昼休み――。
今日は春が彼女と昼ご飯を食べるということで僕は一人で学食まで来ていた。
彼女とご飯とか……青春してるよな。
そんなことを考えながら何を頼もうかと悩む。
学食の値段は学生のために基本安い。だからこそ、その安い値段でどれだけ多く食べられて得をするかが重要なのだ。
……うん、カレーだな。
「カレーライスひとつ」
食堂のおばちゃんにカレーを注文し、出てきたものを受け取った。
空いてる席は……。
学食は校舎から離れた所にあり、旧クラスメイトの友達や部活動の仲間と集まって食べるのにちょうど良い場所となっている。
だからこそ、少しでも出遅れたら席を見つけるのが困難になる。
お、あそこだけやけに空いてるな。
何故か、周囲に人がいない場所を見つけそこを目指した。
ガシャンとトレーを置き、その音に一人で食事していた斜め前に座る女子生徒が顔を上げた。
げっ……!
その女子生徒は幸奈だった。ラーメンをすすっていたため顔が見えず、誰かが分からなかったせいでこうなってしまった。幸奈は何か気まずそうにしながら落としそうになった箸を慌てて掴んでいた。
よし、見なかったことにして他の場所探すか。
幸奈に気づかなかった風に何もなかったようにトレーを持ち上げ去ろうとした。
「ちょ、ちょっと……!」
そして、幸奈に呼び止められた。
内心、迷惑極まりなかったけど、僕はトレーを持ったまま愛想笑いを浮かべていた。
「何かな?」
早く、去らないと……。
既にいくつかの視線が集まってきていて、身体に刺さる。周囲からは、『アイツ、無謀にもほどがあるだろ』とか、『偶然を装って一緒に食べようとしてるの見え見え』みたいな、何故か僕が非難されるものだった。
こーいう場合、何故か僕が非難される。
何もしてない、何も思っていないのに……幸奈の方から声をかけてきたのにも関わらず、何故か僕が無謀の勇者みたいな扱いになる。
意味が分からん!
「ど、どこへ行くつもりなのよ」
「いや、どこって……どっか席が空いてるところだけど」
「じゃ、じゃあ、ここでいいじゃない。いっぱい空いてるじゃない」
「いや、だからって……」
なんで、まるで一緒に食べようみたいな言い方してくるんだ? 幸奈だって、僕と一緒に食べるなんて嫌にきまってるくせに。
「それに、一度はここに決めたのに……私が居るからって変えるのは……」
確かに、それは、結構な態度だと思った。
心の底から、一緒に居たくないってことを示したんだから。不快な気持ちにさせたかもしれない。
でも、これで一緒に食べて幸奈と何かあるんじゃないかと噂される方が僕にとっては不快な気持ちになる。
だから、幸奈がどんな風に思っても関係ない。僕は僕のためにとっとと離れよう……そう思っていた。
なんで、そんな悲しそうな表情するんだよ……。
幸奈の落ち込んでいるように見えた表情がどこか寂しそうにしていて、離れるに離れられなかった。
「……分かったよ」
結局、離れる気にもなれなくてそのままトレーを置いて席に座った。せめてもの、自分への保険のため幸奈の正面には座らない。
それに、このまま何も話さなかったら僕への被害も少なく済んでくれるだろう……多分。
チラッと周囲を見ると、数人の男子生徒から殺意が込められた視線が送られてきたが気づかないようにした。
ったく、これで、僕の学校生活があぶなくなったら恨むぞ……!
しかし、幸奈はそんな僕の心境など気にもしないでどこか嬉しそうにしている素振りだった。
「ふ、ふん……初めから、とっととそうやって座ってなさいよ。だいたい、私に一人でラーメン食べさせるつもりとか……あり得ないんだから」
いや、知らんがな……。
無茶ぶりにもほどがあると思いつつ無視した。
幸奈が一人でラーメンをすする姿を見て僕はなんとも思わない。けど、変な理想を抱いている生徒からしたら変な気分になるのも頷ける。
それを、分かってるなら初めから頼むなよ。
「なに無視してるのよ」
「……だったら、ラーメンなんて頼まなかったらいいじゃん」
ボソボソと幸奈にだけ聞こえる声で返事した。
「どうして私は食べたいものを頼んじゃいけないのよ?」
はぁ……本当にウザいタイプだ。
こいつの本性を今すぐ僕に殺意を送ってきている奴等に打ち明けてやりたい。誰も信じはしないだろうけど。
美少女って得だよな……。
「ねぇ、どうして私は――」
「はいはい、さぞ悪ぅございました。お好きになさいませ」
「そうよ。それでいいのよ」
満足したようにラーメンをすすり始めた幸奈を横目に僕はカレーをスプーンですくって口へ入れた。今まで何度も食べているカレーだけど、今日はやたらと苦しい味がした。
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