第12話 メイド喫茶で出会うは誘ってくれたメイドだった③了
「祐介くんは勉強の方どう? 三年生にもなると受験とかあって色々と大変なんじゃない?」
「はい……難しすぎてまったくついていけてません。それに、バイト疲れで授業中はほとんど寝ています……」
まぁ、一番の理由はめんどくさくて聞く気がないから寝てるんだけど……。
「バイトしてたら大変だよね。確か、飲食店だっけ?」
「はい。人気のバーガーショップです」
「あそこは私も友達と行ったりするけどいっつもお客さんがいっぱいでお店の人も大変そうだもんね」
「ええ。これといって特にしんどい……ってのはないんですけど、入ってる日関係なく忙しくて疲れるんですよね」
「そっかぁ。ちゃんと頑張ってて偉いね」
よしよしと頭を撫でてくる深雪さん。
恥ずかしいけど心地いい……妙な気分になってしまう。
「や、やめてくださいよ……子どもじゃないです」
「あはは、ごめんごめん。祐介くん見てるとついつい弟を思い出しちゃうんだよね。まだ、祐介くんよりはずっと年下なんだけどさ」
弟……弟かぁ……。
僕は深雪さんのことが好き……じゃない。もちろん、人としてメイドとしては大好きだ。だけど、恋愛対象としては……見ていない。そもそも、深雪さんが僕のことを弟として扱ってくるんだし……。
ただ、僕は深雪さんに何かしらの感情を抱いているのは確かだ。弟と言われ、少しだけ感じるものがあったから。
「実家には帰らないんですか?」
「長期休みには帰るんだけどね。週末は忙しくて帰れないから……だから、祐介くんの頭を撫でてると弟を思い出した気分になれて嬉しいの」
「そう、ですか……」
「勉強も昔は弟によく教えてあげたりしてたから祐介くんにも教えてあげられたら良かったんだけど……私、馬鹿だから」
「え、でも、弟さんには教えてあげてたんですよね?」
「うん。ほら、馬鹿は馬鹿を教えても大丈夫って言うじゃない?」
言うの? 馬鹿が馬鹿を教えたら余計に馬鹿になるんじゃないの!?
「祐介くんに教えるのは私には無理なんだよ~。ここで、一番賢いって言ったら――幸奈ちゃんになるね」
幸奈が賢いことは何年も前から知っている。勉強はそこまでしている素振りがないのに、何故か成績は学校で上位の方に入っている。つまり、天才タイプの人間だ。
そんな幸奈に昔こそは勉強を教えてもらったりしたが、今となってはそんなこともない。第一、勉強を教えてくれと頼んでも答えはノーだろう。幸奈にとって、僕が赤点をとろうが知ったことじゃないのだから。
「幸奈ちゃんと祐介くん一緒のクラスなんだし勉強教えてもらったら?」
「無理無理。無理ですよ。だいたい、そんなことになったら緊張で勉強なんて逆に手につきません」
「ん~~? それって、私が相手だと緊張しないってことなのかな?」
深雪さんはいたずらっ子っぽい笑みを浮かべてからかうように言ってくる。
か、可愛い……!
「ち、違いますよ。深雪さんだとその……お姉ちゃんって感じがして……」
「そっか~私は祐介くんからしたらお姉ちゃんなんだぁ~ふ~ん」
少し拗ねたように口を尖らせる深雪さん。
そんな仕草もいちいち可愛くて流石人気ナンバーワンだと思う。
「も、もちろん、深雪さんが相手でも緊張します。今だって、深雪さん可愛いから緊張して……ます……」
「っ!? そ、そうなんだ! ま、まったく~祐介くんは可愛らしい顔してるくせに言うことは意外と大胆なんだから~」
恥ずかしいのかわざと大きく笑いながら話を逸らす深雪さん。頬が僅かに赤くなっているのが見えた。
「……でも、ありがとね。嬉しいよ」
……っ、その笑顔は反則です。
「あ、そうだ。女たらしのセリフを吐くような祐介くんに可愛いお姉ちゃんからのアドバイス」
「な、なんですか突然」
「幸奈ちゃんのことなんだけどね。メイド喫茶でバイトしていることを知っているからといって、それを使って幸奈ちゃんにえっちな命令とかしないでね」
「そ、そんなのしませんよ!」
「うん、祐介くんはそんなことしないって分かってる。でもね、もし祐介くんの欲望が爆発してね、そんなことになって、幸奈ちゃんが傷ついたら祐介くん出禁になっちゃうからね。そうなったら、もう祐介くんとお話出来なくなる。そんなこと嫌だから。絶対しないでね」
「分かりました。僕も深雪さんとオムライスに会えなくなるの辛いですし善処します」
「うん、よろしい。あ、そろそろオムライス出来たと思うから持ってくるね」
深雪さんの後ろ姿を見送りながら思う。
大丈夫ですよ、深雪さん。幸奈とはこれからも関わりませんから。最近、やたらと話したような気がしますが全て気のせいです。多分、幻だったと思います。だから、これからも僕と――。
深雪さんは持ってきてくれたオムライスにケチャップで可愛らしくハートマークを描いてくれた。『おいしくなーれおいしくなーれ』と念を込めながら。
当然、そのオムライスは先週とは比べられないレベルで美味しくてすぐに完食した。
「祐介くん……」
満足している僕の耳元で深雪さんが艶かしく呟いてきた。
こそばゆさに身体がビクンと反応した。
い、いきなり何を……?
「幸奈ちゃん……金曜日はシフト入ってないから、来週は安心して来てね。また、お話しようね」
「は、はい……!」
まるで、どこかへ連れていかれそうになる甘ったるい声。緊張と妙な艶かしさにドキドキしながら答えた。
そして、僕は店を出て帰路についた。
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