第15話 昼食を共にするのは幼馴染メイドとだった③了
幸奈から告げられた衝撃発言により、周囲からの視線はいっそうのこと強くなった気がした。
けど、それ以上にメンドクサイことになったのは田所の方っだった。
「ちょちょちょちょ、ど、どど、どういうことっすか、先輩?」
耳元でコソコソと確認してくる田所。
よっぽど信じられないのだろう。当然のことっちゃ当然なんだけど。
「……その、口にされた通りだ……」
「本当、なんすか……?」
「迷惑なことにな……」
一緒に過ごす……というほどのことはしていない。むしろ、一緒に過ごしているなんて思いたくもなかったし思ってもいなかった。
でも、幸奈の口から告げられたことによって、今までそう見られていなくても強制的に見られるようになってしまう。
現に、僕に向けられる殺意は頂点にまで達したらしく、どこかから『死ね』と聞こえてきたし、田所は目を点のように丸くしていた。
「……っ、いやぁ~良かったっすね~先輩」
「はあっ!?」
田所は何故か号泣していた。
そして、まるで祝福するように拍手を送ってきた。
「ついに、先輩にも春がきたんすね~。おめでとうございます!」
「おい、待て……早まるな。勘違いするな」
ここで、訂正して事態をはっきりさせておかないと僕の学校生活が本当にヤバいことになる。
「どうしたんすか?」
「僕とこの人はお前が考えているような関係じゃないからな? 見つけた場所がたまたまここで、たまたま同じクラスのこの人が近くにいたってだけだからな?」
おい、聞いてるか? 僕に殺意を向けているお前達に言っているんだぞ! 僕と幸奈はクラスメイトってだけなんだ。むしろ、そんなに幸奈と一緒にご飯を食べたいなら僕を恨む前に一緒に食べられるように努力しろ!
「またまた~恥ずかしがって~。お似合い……とまでは、いきませんが良いじゃないですか」
「恥ずかしがってない! ……って言うか、さらっと酷いこと言った!?」
「だって、こんなにも綺麗な人が相手なんすよ? お世辞にも似合ってるとは……言えないっすね」
「指を指さないでくれるかしら?」
「あ、すいませんっす」
自分に向けて指を指す田所に冷静に対応する幸奈。
おい、誰のせいでこんなことになってると思ってるんだ!? お前のせいだよ! お前の! なのに、なんでそんなに冷静にしてんだよ!
「ひ、姫宮さんもさぁ……早く、何か言った方がいいんじゃないかなぁ……その、変な噂が広がる前にさぁ……」
幸奈の言うことは幸いなことに皆が自然と受け入れていくようになってる。僕が無理に言うよりも幸奈が『なんでもない』と一言言うだけでなんとでもなるのだ。
だから、言え! 『彼とはなんでもないクラスメイト』だと言え!
「別にいいんじゃないかしら? 噂されるならされても。私は別にあなたとなら噂されても構わないから」
言葉が出なかった。
気分が悪くて吐き気がした。
「ほら、お相手さんは満更でもなさそうっすよ!」
ああ、もうダメだ。
噂は広がるばかりだし、田所の誤解は深まるばかり。……明日から学校来ないようにしようかな。いじめられましたって言えば何日かは休めるだろうし。
「でも、先輩が彼女持ちになっちゃうともう私とメイドゴッコなんて出来ないっすね~」
「メイドゴッコ……? 詳しく聞かせてくれるかしら?」
「先輩、メイドが大好きなんすよ。だから、よく私とメイドゴッコしてあれやこれやをしてたんすよ」
「おい、嘘をつくな!」
「嘘なんかじゃないですか。先輩、メイド大好きでしょ?」
「そこじゃない! 言い方が問題だ! あれやこれやってなんだよ!?」
「先輩が色々と求めてきたんじゃないっすか~」
「肩を揉んでもらったり、ジュースを運んでもらったりしただけだろ!?」
そんなことしか頼んでいない。
それに、メイドゴッコって言っても個人的にじゃない。メイド同好会に入っているから活動の一種としてやっただけだ。
なのに、田所の言い方を聞くといかにも僕が個人的にいやらしいお願い事をした風になる。神に誓ってやってないのに!
幸奈は椅子から立ちあがり汚物を見るかのような目で見下してきた。
「最低ね……」
そのままトレーを持ってスタスタと歩いていった。
幸奈にどう思われようがどうでもいいけど胸が痛む。そんな不純な気持ちでメイド喫茶に通っているのだと思われたくない。僕は誠実な気持ちでメイド喫茶に通っているんだ!
「なんか余計なこと言っちゃいましたかね~すいませんっす、先輩。頑張って謝って許してもらってください。それじゃ、私はここらで失礼します」
逃げるかのようにそそくさと消えていく田所。一人残された僕は周囲から変な目で見られながら泣きそうになっていた。
もう幸奈の考えていることが分からない……。関わりたくないと思ってるはずなのに……今になってやたらと絡んできて……どうしたいんだよ? 僕の平穏な学校生活を壊したいだけなのか?
これからのことを考えるととにかく胃がきりきりして仕方がなかった。
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