第16話 保健室で二人きりになるのは幼馴染メイドとだった①
色々と思い出したくないことがあった昨日から一日が経った。
廊下を歩いているだけなのにやたらと視線を感じ、ヒソヒソと何かを言われていた。
まぁ、こうなるのは分かってたけど……。
校内での噂の広がりは尋常じゃない。一日もあれば、ほとんどの生徒が知っていておかしくないだろう。
せっかく、登校したってのにやっぱり休めば良かった。
本気で学校を休もうとも考えたけど、幸奈のせいで休むのもなんだかしゃくで重い腰をあげてきたのだ。
教室に入るとクラスメイトの視線が一度に集まった。そこまで仲が良いやつが多いわけじゃないから何か言ってくることはないけど、見られてるのが心苦しかった。
「お、おい、祐介。お前、大変なことになってるぞ」
席に座ると春が慌てた様子で言ってくる。もちろん、周りには聞こえないように小さくと。
ったく、こうなった責任はお前にもあるんだぞ?
「分かってるよ……」
「お前、幸奈ちゃんといつの間に仲直りしたんだよ?」
「仲直りもなにも僕と幸奈はケンカなんてしてない。それに、昨日の一件だって本当に偶然が重なっただけなんだ」
幸奈の方を見ると幸奈は向けられる色々な視線を全く気にすることなくいつも通り一人で黒板を見つめている。
お前も少しは何か感じろよ……僕ばっかり不公平だろ!
「……と言うか、どうして僕だって分かられるんだ? そりゃ、三年だし、二年間で同じクラスのやつだったりしたやつがいれば分かるだろうけど……この学校の生徒半分以上が僕を知らないはずだろ?」
一年生二年生に僕の知り合いなんて両手の指で数えるしかいない。三年生にだって両手の指にほんの少し足された数しか知り合いなんていない。
それに、僕は幸奈と違って目立つわけでもない。目立たないように幸奈と幼馴染だということを知られないように努力してきたんだ。そのかいあって、穏やかに過ごせていた今に至っていたはずなのに……どうして、学食での一件が僕だと知られているんだ? 謎だ。
「これだよこれ」
「なっ……!」
僕の問いかけに答えるように春はスマホの画面を見せてきた。
そこには、ここの高校名が大きく載っていて掲示板だと書かれていた。
そして、そのトップに昨日の僕と幸奈、田所の三人が写っている写真が載せられていた。しかも、律儀に個人名やクラスまで載せられている。プライバシーの侵害で訴えるぞ!
「あの場にいた誰かが撮って載せたんだろうな」
「マジかよ。そのせいで……」
盗撮は犯罪って知らないのか?
ネットほど情報が広がる世界ってのを知らないのか?
こんなの逃げられないじゃん!
「祐介のことスゲー色々書かれてるぞ」
「え……」
「『二股野郎』とか『姫宮幸奈と何らかの関係でありながら後輩にメイドをさせてあれやこれやさせる変態』とか……」
「どれも根も葉もない噂じゃねぇか!」
幸奈との噂より一方的に僕が変態とか最低野郎とかの噂だけが広がっていた。
幸奈との噂が少ないのは良かったけど……どっちにしろ、これで僕の穏やかな学校生活は終わった。
「はは、ははは……」
「お、おい、祐介? どこ行くんだよ?」
「頭痛いから保健室で休んでくる……先生に言っといてくれ」
「お、おお。気をつけろよ」
僕は教室を出るとまともに歩けない足取りで保健室に向かった。
「すいません……頭、割れそうになるほど痛いので休ませてもらっていいですか?」
保健室の扉を開けて中にいる先生に声をかける。先生は快くベッドで寝ていいと言ってくれてそのまま潜り込んだ。
はぁ……これから、どうしようかな?
実家に帰って、療養のために学校はしばらく休むとして……何年留年すれば誰にも知られないで卒業出来るんだろ?
なんかもう色々と考えるのもしんどくなってきた……もう、どうでもいいや……。
元々、今日のことを考えて昨日は中々寝つくことが出来なく、寝不足だったこともあり、いつの間にか僕は深い眠りについていた。
だから、目を覚ました時は一瞬ここがどこなのか分からなかった。
そっか……僕、保健室で休んで……今、何時だろう?
「起きたの?」
「え……」
声のする方に視線をもっていく。
声は先生のものじゃない。聞きたくもない、悩まされている張本人のもの。見なくても分かる。
「さ……姫宮さん……」
ベッドの隣に何故か椅子に座っている幸奈の姿があった。
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