第9話 ぼっちなのは幼馴染メイドの方であった④了
幸奈と二人きり、互いに一言も話さずに黙って廊下を歩く。
はぁ、なんで手伝うなんて言っちゃったかな……。
別に手伝うことに後悔なんてない。特別難しいことをしている訳でもないし、嫌だとは思わない。ただ、自分でもどうして手伝うなんて言ったのか分からないからモヤモヤする。
だいたい、今日幸奈と一緒にゴミ捨て当番だったやつに一言言いたい。なんで休んでるんだよ! 必然的に幸奈と二人きりになれるんだぞ? 多少無茶でも、出席しなさいよ!
本来ゴミ捨て当番は二人一組ですることになっている。その日によって交代制で今日は幸奈と相方の男子だった。けど、その相方は朝先生が確認している時に呟いていた風邪で休む生徒だったのだ。
……で、お前はなんでちょっと楽しそうなんだよ?
幸奈を見れば、気のせいだと言われるかもしれないが楽しそうに見えた。何も面白い事などないのに少しだけ笑っている……気がする。
久しぶりに幸奈と二人で並んで歩く。昔は毎日のようにこうしていた。だからだと思う。妙に心がくすぐったいのは。
「あ、ごめん」
隣で歩いているから僕の肩が少し幸奈の肩に触れてしまった。
一応謝ったけど文句を言われるんだろうな。
「もうちょっと離れて歩きなさいよ」
「はいはい……」
「あんたと肩をぶつけるとかほんと最悪。最悪よ」
そう言う幸奈だったが口調からは怒っているとは感じなかった。
可笑しいな……今日は機嫌がいいのか?
てっきり、罵声を浴びせられると思っていた僕は拍子抜けした。
「ちょっと、なんでそんなに早く歩くのよ」
「なんでって……こうしたら姫宮さんとぶつからないで済むから。それに、早く終わらせて同好会行きたいし」
「そんなに早く歩かれると私が疲れちゃうじゃない」
「じゃあ、姫宮さんはゆっくりくればいいよ。僕は先に行くから」
「なんっ……で、そんなこと……と、とにかく待ちなさい。先に行くなんて許さないから」
なんでだよ……。
幸奈に睨みながら言われ、仕方なく足を止めた。パタパタとかけてきて、幸奈が隣に立つと歩き始めた。
だからといって何か話すことはない。僕も幸奈も黙って歩くだけ。
「……しかし、世の中も狭いよな」
「いきなりなによ?」
「いや、分かるだろ? 土曜日のことだよ」
お互い学校では毎日姿を見ているのに隣に住んでいることは一昨日まで知らなかった。腐れ縁のくせにお互い気づかないなんて……なんで、こんなところで神様は気をきかせないんだよ。もっと早く知っていたら実家に帰ってたのに!
「ああ、そのことね。まったく、ママ達には困ったものだわ。私とあんたのためにしくんでいたなんて……。私とあんたはもう昔みたいな関係じゃないのに……」
「本当に迷惑極まりない」
「誰にも言ってないでしょうね?」
「言うわけないだろ。誰にも幼馴染だって知られたくないんだから」
「そう、よね……」
「ま、これからも、幼馴染だってことも隣人だってことも知られないようにしないとな。だから、早くこれ終わらせるぞ。こんなところを見られて変に噂されても困るし」
「今は大丈夫でしょ……ただのゴミ捨て当番としか思われないわよ……」
「それでも僕は少しでも可能性が出ることはしたくないんだよ。残り一年の学校生活を穏やかに過ごせるように」
「あっそ……」
「それに、姫宮さんだって困るだろ。僕と変な噂なんてたつと」
「……そうよ。困るわよ」
ほらな、春。幸奈が僕に構ってほしいことなんてないんだ。だから、僕も明日以降幸奈に声をかける気なんてないんだ。
「ふぅ、これで終わり」
校舎から少し離れた場所にあるゴミを貯めておく場所。そこに、ゴミ袋を適当に置いて仕事が終わった。
「じゃあ、僕はこれで」
途中からまた一言も話さないでいたけど、流石に挨拶くらいはしとこうと思った。
「あ、ちょっと、待って」
「なに?」
「あっと……その――」
呼び止められた僕は幸奈の態度を見て土曜日の光景を思い出した。
またモジモジとして何かを言いたそうにして言いにくそうにしている。
何か言いたいことがあるなら早くしてくれよ。さっきも、何回か部活中の奴等に見られて困ってるんだから。
すると、幸奈はスカートのポケットに手を入れてごそごそとすると僕に向かって手を突き出した。
「こ、これ」
僕は意味が分からないまま幸奈の手の下に手を差し出した。すると、ポロっと僕の手のひらに袋に入った飴玉が落とされた。
「その……手伝ってくれたお礼」
「……あのさぁ、姫宮さん優等生タイプの人間なんだから学校に飴玉なんて持ってきてたらダメだろ」
「なっ……ほ、本当にムカつくわね。い、いらないなら返しなさいよ!」
真っ赤になりながら言う幸奈。
やっぱり、可愛いのは可愛いんだよな……。
僕は飴玉をジーッと見つめてから答えた。
「……いや、貰っとくよ。ありがとう」
「ふ、ふん。素直に初めからお礼言いなさいよ。じゃ、じゃあね!」
それだけを言い残すと幸奈は教室に向かって走っていった。その後ろ姿を見ながら僕は貰った飴玉を口に含んだ。その飴玉は今まで食べたどの飴玉よりも随分と甘く感じた。
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