第114話 幼馴染メイドと温泉旅行①
「よーし、じゃあ、出発するぞー!」
「おー!」
運転席に座った無駄にテンションが高い父さんにこれまた無駄にテンションが高い母さんが返事した。
「お父さんとお母さん元気だね……」
三人がけの後部座席で隣に座る幸奈がこそっと言ってくる。
「相変わらずのテンションでしんどいけどな……」
昨日、母さんから聞かされた幸奈達姫宮家と急遽行くことに決まった旅行話。よくよく聞くと、元から話は出ていたらしい。疎遠になるまでは毎年のように一緒にどこかへ旅行に行っていたので久しぶりにどうかとなったそうだ。
まぁ、それに関しては別にいい。サプライズ的な感覚で内緒にされていたのも怒っていない。幸奈と旅行だってのも嬉しいし。
ただ、行き先くらいは一緒に決めさせてほしかった。
行き先は美味しいお酒がいっぱい飲めて気持ちいい温泉がいっぱいある温泉街。見事に大人の楽しみばかりがありそうな場所で少しだけ付き合わされる身にもなってほしいと思った。
「朱里ちゃん。お菓子食べる?」
「食べる食べるー。ありがと」
幸奈が差し出したスティック状のお菓子を朱里が美味しそうに食べる姿が車窓に反射され目に入ってくる。
頻度は短いとはいえ、久々なのにやはり仲が良く、きゃっきゃしている姿は姉妹にしか見えない。
「ゆうくんも。はい」
幸奈から差し出されたお菓子を口へと含む。と、朱里が僕達のことをジーッと見つめていた。
「どうした?」
「いや、今ゆうくんって幸奈ちゃんが呼んだから驚いちゃって」
し、しまった……まだ、付き合ってるとかその他諸々を話していないのにいきなりゆうくん呼びは不思議に決まってる。この前、朱里が幸奈と会った時は呼び捨てだったんだし……勘づかれたか?
「ま、まぁ、色々とあったんだ」
「そうなんだ。随分、懐かしい呼び方だから子供の頃を思い出すね」
「そ、そうだな」
勘づかれてはなさそうだ、とホッと胸を撫で下ろした。
幸奈と付き合ってることを知られたくないとかじゃない。ただ、タイミングを見計らって伝えるべき時に伝える。その機会を伺っているのだ。
朱里の学校での話を聞いたり、途中居眠りしたりをして約三時間が経った頃、目的地である温泉街のホテルに到着した。
駐車場に車をとめ荷物を持ってホテルに向かう。ホテルというよりは木造建築なので旅館という方があってるような気がする。
建ってから長年なのか貫禄があり、大きく立派だ。
確認を済ませ、家族で分けられている部屋に荷物を置く。そこで、一休みしてから別れる前に話していた温泉街の探索ということになった。
だが、そうなって早々、大人組はとっととお酒が飲めるお店に向かっていってしまった。僕の両親も幸奈の両親もお酒が大好きなのだ。
取り残された僕達子供組は先に昼ご飯を食べることにした。
朝、軽くお腹には入れたものの、三人ともペコペコだったのだ。
近くにあったお蕎麦屋に入り蕎麦を注文する。すぐに出てきた歯ごたえ抜群の蕎麦を美味しく完食した。
「私、足湯に行きたい」
食べ終えて、朱里が言った。
これと言って特に行きたい場所などもないし、そもそも、分かりもしないのでお店の人に聞いた。
すると、近くにあると教えられたので向かうことにした。
お蕎麦屋から歩くこと五分もせずに教えられた足湯に到着した。タオルを借りて、靴下を脱ぎ、ベンチに腰かけて足を湯に浸ける。
丁度いい湯加減が足から全身をぶわっと変な感じで昇ってくる。
「はぁ~気持ちいいね~」
隣に座る幸奈も顔をふにゃっとさせ気持ち良さそうにしている。朱里は足を小さく動かしていて楽しんでいる。
……しかし、幸奈の素足は何度も見ているはずなのに飽きがこないな。色白でスラッとしてて綺麗、なんだよな。
透き通るお湯の中で射し込む光に反射して幸奈の素足がいつもより輝いて見える。無意識にそこへ釘付けになってしまう。
「ゆ、ゆうくん見すぎだよ……」
そもそも、どうして幸奈の素足が見えるかというと珍しくスカートスタイルなのだ。実家に置いてあったものなのかは分からないが、制服(学校とメイド服)以外ではお初だった。
そうして出されている素足を見られていることに気づいた幸奈は恥ずかしそうに呟く。
「あ、ごめん」
以前、幸奈に裸を見せられそうになったことがある。あれは、僕と仲直りしようとして幸奈が暴走してしまったからだ……と思ってる。多分、そうなんだと信じたい。
ただ、幸奈と話し合った時に聞かされた毎晩イヤらしいことをしているということ。あれを聞かされてこれっぽっちも想像しないでいれるかと言われると答えは濁さないといけない。
……僕だって男だし、仕方がない。
って、話が逸れたけど、何が言いたいかというと幸奈のことがすごくいとおしく感じたということ。毎晩一人でイヤらしいことをしてたのも生理現象。どうしようのないこと。それを自白した幸奈が付き合ってから素足を見られてこうも恥ずかしがる姿が心を擽るのだ。
「お兄ちゃん……変態さんになっちゃったの?」
「は!?」
「幸奈ちゃんの足を見る目、なんだか変態さんだった」
「なってない。変態になんかなってないから!」
大変だ。可愛い妹の朱里に変な誤解されたら心がえぐられる。お兄ちゃんとして、これからも朱里には懐いてほしいのに『お兄ちゃん、キモッ!』なんて言われたら立ち直れる気しない。
「え~ほんとかなぁー。ま、私はどんなお兄ちゃんでも見捨てないって決めてるから変態さんでもいいけどね」
……え、なんだか今とんでもないのを耳にしたような気がするけど気のせい?
「そ、そろそろ、別の場所に行かないか?」
なんとか切り抜けようと足を湯から出す。この場は急いで話題を変えた者勝ちだ。
「私、もうちょっとここにいるからお兄ちゃんは幸奈ちゃんとどっか行ってきなよ」
「え、一人だと危ないだろ?」
「もう。私、お兄ちゃんが思うより子供じゃないんだよ? もうJKなんだから!」
子供扱いしたとかじゃなく、兄として妹の心配をしただけだったのだが、朱里は頬を膨らませてむっとする。
なるほど。これが、成長期と反抗期ってやつか。昔はあんなにお兄ちゃんお兄ちゃんってついてきてくれたのになぁ……。
「JKとか関係なく朱里は大切な妹なんだ。心配になるに決まってるだろ」
「お、お兄ちゃんはいい加減妹離れした方がいいよ。……その、嬉しいけど。と、とにかく、私は大丈夫だから。お兄ちゃんは幸奈ちゃんとどっか行ってくること!」
「分かったよ。じゃあ、幸奈行こ」
「う、うん」
立ち上がる幸奈に朱里が下手なウインクを送る姿が見えた。それに、頬を赤らめて俯く幸奈。
もしかして、朱里は幸奈の気持ちに気づいているのかもしれない。いや、そうとしか思えない。だから、気を使ってくれたのだ。
「朱里。なんかあればすぐに電話しろよ。駆けつけるから」
「お兄ちゃん……お兄ちゃんは幸奈ちゃんに何をしてあげたらいいか分からなくても電話してこないでね。自分で考えるんだよ。それから、可愛い妹を一人にする罰として二人は手を繋いで観光すること」
「あ、朱里ちゃん!」
朱里の無茶ぶりとも思えない可愛らしい命令にすごく動揺する幸奈。ほんと、今更になって手を繋ぐ行為にどれだけ恥ずかしがってるんだか。
「幸奈ちゃん、これは妹命令だからね」
「ううっ……」
ニッコリと笑う朱里に見られながら、僕が出した手を力弱くきゅっと握ってくる。
「じゃ、行ってらっしゃーい。楽しんできてねー」
こうして僕と幸奈は送り出された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます