第80話 幼馴染メイドと仲直りプリクラを
「……なぁ、幸奈。幾つか聞きたいことあるんだけど」
「いいよ。私のスリーサイズ?」
「……幸奈の部屋の壁に貼られてた写真ってなに?」
「あれ? あれはね、普段、ゆうくんに見られることないからゆうくんが写ってる写真をいっぱい買って壁に貼って見られてる気分になってたの!」
まるで、ナイスアイデアでしょとでも言いたげな顔でふふんと鼻を鳴らす。僕は呆れてなにも言えなかった。
――いったい、幾らかかったんだ?
「机の上にはね、話しかけるようにゆうくんと私のツーショット写真があるんだよ!」
「ツーショット写真って……いつのだ?」
「高校に入ってからゆうくんが一番笑ってる時のやつ」
「待て。幸奈とのツーショット写真なんて撮ってないだろ」
「うん。だからね、邪魔な人は塗り潰して無理やりツーショットにしたの」
絶句した。これ以上はこのことについて深く追及しない方がいいと本能が告げてくる。
「じゃ、じゃあ、次に聞きたいのは幸奈の部屋に落ちてた僕のパンツについてなんだけど……」
正直、これが一番の問題だ。これが、僕が一番知りたい謎の部分だ。
「人類の敵が出た時、ゆうくんの部屋に泊まったでしょ? あの時、ゆうくんが寝た後に探して拝借したの!」
……うん、僕の幼馴染もう手遅れかもしれない。これは、絶対に行ったらいけないルートを進んでる。しかも、結構な奥深くまで。
「返してくれる?」
「返すのはいいけど洗濯してからでいい?」
「なんで!?」
「なんでって……もう、言わせないでよ。ゆうくんの馬鹿……」
モジモジと恥ずかしそうにしながら紅潮する幸奈。恥ずかしそうにはしているが、その表情はどこか嬉しそうで実に変態っぽい。
「幸奈……頼むから、もう度が過ぎた行為はしないでくれ。今の幸奈、よっぽどの変態だぞ」
「そうは言うけどね、私がこんな変態になったのはゆうくんが悪いんだよ?」
「はぁ?」
待て。僕は無罪だ。幸奈に変態になれみたいな変態的言動したことなんてないぞ。
「ゆうくんが愛してくれないから……ゆうくん愛が足りないから自分で補充してたんだよ」
「それを、僕のせいにするって……裁判長に無罪を主張したい気分だ」
「もう聞きたいことはおしまい?」
「あ、いや、まだある。その……この前からのゆうくんってなに?」
ゆうくんってのは昔に幸奈から呼ばれていたあだ名みたいなものだ。それは、当然のごとく覚えてる。
でも、今は名前で呼び合っているのにどうしてまた昔の呼び名なんかで……。
「ゆうくんはゆうくんだよ?」
「そういう意味じゃなくて……もう名前では呼んでくれないのか?」
「ゆうくんは名前の方がいい? 私はゆうくんってまた呼びたい!」
祐介って呼び捨てにされるとドキッとする。逆に、ゆうくんって呼ばれるとくすぐったいんだ。後、高三にもなってゆうくんは恥ずかしいんだ。
幸奈は首を傾げてダメ?ってことを目で訴えかけてくる。
当然、ダメだと言える訳もなく……言っても勝手に呼びそうだと思ったから『いいよ』と答えた。すると、幸奈はスッゴく嬉しそうに顔をほころばせた。
「ゆうくんも呼びたかったら幸奈ちゃんって呼んでいいよ」
「いや、それは止めとく。精神的にやられそう」
「そう。残念だな。まぁ、呼び捨てでも名前を呼んでくれるだけで嬉しいからいいけど」
それから、僕と幸奈はカラオケ店を出た。一曲も歌っていないけど、結構な時間話し合っていたせいで時刻はそろそろ帰る頃になっていた。
「……ねぇ、ゆうくん。ちょっとだけゲームセンター寄りたい」
「いいけど……なにするんだ?」
「ゆうくんと仲直りプリクラしたい……です」
何故そこで、モジモジとする!?
強気な部分もあるくせに、お願いする時は上目遣い……攻撃の仕方が上手すぎる。策士だ。
「い、いいよ」
答えると幸奈はパアッと明るくなって小さく跳ねながら喜んでいた。
そして、やってきたゲームセンター。目的は決まっているので二人でプリクラ機体の中に入った。
「なぁ、僕たちなんでケンカみたいなことしてたんだろう?」
「なんだっていいよ。済んだことだし。それより、ねぇ、ゆうくん。これ、どうしたらいいの?」
「ぼ、僕が分かるはずないだろ」
「どうして焦ってるの?」
「あ、焦ってない」
嘘だ。焦って心臓がばくばくいってる。プリクラなんて初めてだし、相手が好意を寄せてくれている女の子なんだから緊張して仕方がない。
「こ、こーいうのは適当にしたらいいんだよ」
画面を適当にタップしていくとよく分からないが機体が話し始めた。
「あ、ほら、幸奈。もう撮られるんじゃないか?」
「そうだね。あ、ゆうくん。ゆうくんはあっち向いてって指令が出てるよ」
「あっち?」
幸奈が指差す方向……ちょうど、九十度になる方を向く。
「あ、ごめん。やっぱり、正面向いてだって」
「なんだよも――っ!」
幸奈から言われ、正面を向こうとした瞬間だった。不意に僕の頬に柔らかい感触が触れた。
その正体にすぐに気づくことが出来た。幸奈の唇だ。少し背伸びした幸奈の唇が触れていたのだ。
なんとも言えない気持ちで動けなくなる。と、同時にその光景をバッチリ撮られた。
撮影が終わり、柔らかい感触と共にゆっくりと離れていく幸奈。俯いていると思いきや、顔を上げて小さく恥ずかしそうに笑う。
「えへへ……これくらいなら許してくる?」
全身が一気に熱くなっていく。嬉しい。可愛い。触れたい。色んな気持ちがぐるぐる巡ってくる。
「……も、もしかして、気持ちよくなかった?」
「そ、そんなことない。気持ち……よかった」
「そっか。よかった。あ、写真出来たって」
嬉しそうに取り出して見つめている幸奈。あれには、あの瞬間の光景が写ってる。幸奈はどういう気持ちで見ているんだろう?
「はい、こっちはゆうくんの」
幸奈に渡されて僕も目にする。やっぱり、バッチリ撮られていて、また熱くなった。
「大切にするね!」
言葉では言い表せない感情。また幸奈の目を見ることが出来ず、逸らしてしまい無言で頷くしかなかった。
こんな時、どこまでしてどこまでしたらダメなのか分からない。幸奈は触れてほしいって言ってたけど、自分で言った手前出来ない。
「さ、幸奈!」
「どうしたの?」
自分でどうしたいのかが分からない。ただ、伝えたいことがあることだけははっきりしてる。
「今日の幸奈……一段と可愛い」
「……っ、きゅ、急にどうしたの? そんなこと言われると照れるよ……」
幸奈はモゾモゾと動きながら僕に近づいてきた。そして、見上げるようにして見つめてくる。顔は真っ赤だ。
「嬉しいよ。ありがとね、ゆうくん」
こーして、僕と幼馴染の滅多にないケンカは終わりを告げた。最後はお互いに照れ合って、ケンカしていたことさえ忘れそうになったのは言うまでもない。
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