第79話 幼馴染メイドと話し合い
「幸奈、ごめん。この前、怖いとか気持ち悪いとか言って……幸奈の気持ちも考えないで傷つけた。あと、全部幸奈のせいにしたのもごめん」
頭を下げた。原因はどうであれ、言ったらいけないこと。それを言ったことは謝らないといけない。
「うん……傷ついたんだよ。悲しかったんだよ」
分かっていても口に出されると罪の意識を再認させられる。本当に申し訳ない。
「……でも、私もごめん。ゆうくんの気持ちも考えないで一人で突っ走ったりして。もう、あんなことしないように気をつける。だから、話さないなんて言わないで……お願い」
懇願するように何度も頭を下げる幸奈。
「話さないって言ったのも幸奈さえいいなら取り消していい?」
「当たり前だよ……」
「ありがと」
思わず幸奈の頭に伸びそうになる手をグッと堪えた。ダメだダメだと自分に言い聞かせる。小さく息を吸って次の話題へ。
「幸奈の気持ちさ……嬉しかったんだよ」
そう口にすると幸奈は分かりやすく朱色に染まった。
「う、うん……」
「幸奈が僕ともう一回仲良くなろうと思っててくれたこと……本当に嬉しかった」
「ち、違うよ。違わなくはないけど違うよ」
「大丈夫。分かってるから。忘れてないから」
幸奈の気持ちは分かってるつもりだ。今だってこんなことは聞きたくないのかもしれない。それでも、もうあんな色々と無茶なことはしてほしくないから言う。
「僕はさ、幸奈に色々と犠牲にしてほしくなかっただけなんだ」
「……犠牲だなんて思ってないよ。全部、私のためだもん。私がゆうくんのことずっと好きだから……行動しただけだもん」
「……もし、僕が幸奈の気持ちに応えられなくても後悔してなかった?」
「……ゆうくんのいじわる。そんなのするに決まってるよ。でも、いいの。後悔も含めて恋だから」
「そっか……」
僕の考えを押しつけるのは間違ってる。僕には僕の考えがあって、幸奈には幸奈の考えがあるのだからそれを否定することもない。だから、これ以上は言わない。
「……ゆうくん。ゆうくんは私のこと嫌いになった?」
「なってないよ」
「じゃあ、好き……?」
「好きだよ」
僕が幸奈を好きなのは事実だ。
今なら母さんに言われたことがよく分かる。きっと、心のどこかでは幸奈のことを幼い頃からずっと好きなままだったんだ。
「僕は幸奈のことが好きだよ」
「ゆうくんのストーカーみたいなことしてたのに?」
「僕と仲良くしたかったからだろ?」
「そうだけど……。私、メンドクサイし重たいよ?」
「全部、演じてただけだろ?」
「ううん、多分全部本当の私なんだと思う。だって、ゆうくんが他の女の子と仲良くしてるの見るとモヤモヤしちゃうし、毎晩ゆうくんのこと想像して一人でイヤらしいことしてたの……」
「そ、そっか……」
想像以上だったことに驚いたのは事実だ。吹き出しそうになったのを飲み込んだ。
「本当はね、今も身体が熱くて仕方ないの。ゆうくんに触られただけで熱くなるし、個室の中で二人きりだからうずうずしちゃって仕方ないの」
真顔で何を言い出すんだ!?
「今だけじゃないの。学校でもね、ゆうくんから大人しくって言われたから我慢してたけど本当はずっと一緒にいたかったの。ずっと、くっついていたいの!」
「う、うん……」
ふんすと意気込みながら言われ、思わずたじろいでしまう。
幸奈は思っていたよりも遥かに僕のことが好きらしい。その気持ちは嬉しいけど、早速少し怖くなってきた。
……でも、そうだよな。何年もずっと、近くにいたのに話すことすら出来なかったんだから強くなって当然だよな。やっと、気持ちを打ち明けれたんだから我慢できなくても仕方ないんだよな。
「僕がさ、大人しくって言ったのは幸奈が変に目立ってまたこの前みたいになるのが嫌だったからなんだ。でもさ、またそんなことになったら僕が守るしそんなことになる前に守るからさ……幸奈がしたいようにしてくれたらいいよ」
「それって……」
「くっつくとかは恥ずかしいから……一緒にいるとかだけになっちゃうけど、幸奈が望むなら一緒にいる」
「いいの? みんなから嫌われるくらい一緒にいるようにしちゃうよ? もしかしたら、一緒にいすぎて気持ち悪がられるかも」
「幸奈がしたいようにすればいいよ」
他の誰かに迷惑かけることはダメだけど幸奈が僕と一緒にいるくらい誰にも迷惑なんてかからない。幸奈が望むことを受け入れる。そう決めた。
「私はゆうくんといれるだけ一緒にいたいの。それも、許してくれる?」
「い、いいよ」
いれるだけってのが怖いけど……もう、なるようになれだ。
「ゆうくん……大好き!」
「さ、幸奈!」
幸奈は飛びついてくるように僕に近づいた。壁際に追いやられた僕の胸に幸奈は飛び込んできて、頬をスリスリさせてくる。満足そうに幸せそうにしている幸奈。スリスリ攻撃はくすぐったくて仕方がない。
「さ、幸奈……止めて。くっつかないで」
すると、幸奈はピタリと動きを止めて離れてくれた。
「ごめん……また我慢できなくなっちゃった。ゆうくん私にくっつかれるの嫌だもんね」
悲しそうに視線を落とす幸奈に急いで首を振った。
「ち、違う。別に嫌じゃない」
「じゃあ、なんで?」
「なんでって……ぼ、僕も前みたいに幸奈に触れたいって思っちゃうから……」
「……へ? ゆ、ゆうくんも私に触れたいって思ってくれるの?」
「そ、そりゃ、思うだろ。幸奈みたいに可愛い女の子に好意を寄せられてるんだ。そんな子に近くに寄られたら……触れたいなって……」
僕だって好きな女の子に触れたい……触れてみたいってことは思う。幸奈が僕のためにしてくれたことも嬉しいって思ってるし、一途なとこも本当は飛び回るほど喜んでる。
「私はどれだけ触られてもいいよ? むしろ、いっぱいいっぱい触ってほしいし愛してほしい」
幸奈はこの通り、かなり変態な方向へ成長している。今だって、何を想像してるのか知らないけど身体をクネクネ揺らしてるし。
「僕が嫌なんだよ。がっついてるって思われたくないし」
僕が身体を差し出せって言えば幸奈は今すぐ差し出す……確率が高い気がする。自分でもこんな考えしてるんなて馬鹿だな。って、そんなことより、そういう関係は僕が嫌なんだ。
「私はがっついてほしいのに……野獣ゆうくん見てみたいよ」
ポッと赤くなる幸奈。その目は期待するように潤んでいるけど惑わされない。惑わされてはいけない。
「そ、そういうのはもっとちゃんと大切にしないといけないんだよ!」
「ゆうくんってなんか女の子みたいだよね。普通、逆だと思うんだけど」
人差し指を頬っぺたに当ててうーんと考える幸奈。そんな呆れる姿を見て、ため息が出るが自然と笑っていた。
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