第78話 幼馴染メイドおしゃれ大改造

 ショッピングモールへ向かうための電車の中でも幸奈は二つの意味で目立っていた。二つとも見た目ということでは同意だが、一つは可愛いでもう一つはそんな可愛い子がどうしてジャージ姿?だ。


 幸奈はようやくジャージのままだと恥ずかしくて遠出なんて絶対に出来ないと気づいたのか俯いていた。


 僕も幸奈の気持ちはよく分かる。昨日、僕には視線なんて一つも集まらなかったけどなんとなく恥ずかしい思いをしたから。


 そんな幸奈を見られたくなくて僕は幸奈が出来るだけ隠れるように前に立った。すると、幸奈は僕の腰辺りの部分をキュット摘まんでいた。


 ショッピングモールに着くと昨日行った店へ早速向かった。店を前にして幸奈は困惑した様子をみせる。


「え? え?」


「幸奈。僕と出掛ける時はおしゃれした姿見せてくれるんだろ?」


「そ、そう言ったけど……この格好で入るのはちょっと恥ずかしいよ……」


「今さら恥ずかしがっても遅い。そもそも、どこで服買って僕におしゃれ姿見せようと思ってたんだよ」


「ね、ネット……」


 黙って幸奈の手をとって引っ張っていった。店の中にさえ入ればこっちのもんだ。


「何着たいとかあるのか?」


「分かんない。よく見てないもん。……それに、今ゆうくんとこんな感じで探しても楽しくない」


 僕が女の子のおしゃれに詳しい訳がなく、何を着たら似合うとか分からない。着た姿を見てみないと分からない。


 真野さんからも言われているので声をかけやすそうな店員を探した。そして、一人でいる女性店員に声をかけた。


「あの、すいません」


 女性店員は一瞬、幸奈を見て表情を曇らせたようにしたが、すぐに笑ってなんでしょうと言ってくる。


「この子に似合う服選んでくれませんか?」


 そう言うと女性店員は目をギランと輝かせた。


「それは、自由にしていいということでしょうか?」


「お任せします」


「かしこまりました!」


 すると、女性店員はスゴい速さでどこかへ消えていき、そして何着かの服やスカート等を持って戻ってきた。


 その速さに二人して圧巻していると次に幸奈の手を取ってズルズルと引っ張り出した。


「ゆ、ゆうくん……」


 幸奈は助けてほしそうに涙目になりながら腕を伸ばしてくるが無視。


「大丈夫ですよ。可愛くなった姿、彼氏さんに見てもらいましょうね~」


 なだめるように言う女性店員さん。幸奈の気持ちを知っているから訂正はしなかった。それは、幸奈を傷つける行為だと思ったから。



 試着室に入れられた幸奈は着せ替え人形のように次々と着替えさせられていた。一回一回僕にその成果を見せてくれるがよく分からない。全部、似合ってて可愛いってのは分かる。ただ、どれが今の幸奈に一番似合っているのが分からない。


「……っ!」


 と、次に出てきた姿は不意討ちだった。


「どうですか~ワンピース姿は~?」


 幸奈が着ていたのは水色のワンピースだった。恥ずかしいのか俯きながら、唇を固く結んでぷるぷる震えていた。


 女性店員からの質問に答えられないで見惚れているとクスッと笑われた。


「これにします?」


「あ、いや……ど、どうする? 気に入ったか?」


 幸奈はふるふると首を横に振った。

 正直、勿体ない気は充分にするが、幸奈が嫌なら着てもらうことはない。


「次、お願いします」


 次は半袖の上に薄い長袖を羽織っている服装だった。ロングスカートで清楚感溢れる美少女……といった感じだった。


 さっきより露出部分が少ない分、恥ずかしさも減ったのか幸奈も顔は上げていた。頬をうっすらと染めているのはそのままだったけど。


「どうですか?」


「似合ってて可愛い……」


 見惚れて答えられないってことがないから無意識に口にしていた。またクスッと笑われた。


「これに決めますか?」


 幸奈に目線だけで合図を送るとコクコク頷いていたので決定した。


「あの、このまま着ていくことって出来ますか?」


「大丈夫ですよ」


「じゃあ、それでお願いします」


 僕が会計を済ましている間、幸奈は他の店員さんに値札やら色々と調整されていた。



 昨日、今日と結構な出費が重なった。余裕はまだあるけど、すっかり寂しくなった財布の中を見る。すると、幸奈が背中をつついてきた。

 振り返ると俯き状態の幸奈が財布を取り出していた。


「お金返すよ……いくら?」


「いらない」


「で、でも。ご飯も奢ってもらったのに……悪いよ」


「これは、恩返しだから」


「恩返し?」


 幸奈はキョトンとする。


「そう。出掛ける権利の恩返し。だから、気にするな」


 貰ったものには何かしらお礼をする。そう言えば幸奈が気にすることも少しは減らせるだろう。


「まだ、時間あるな。どこ行きたい?」


「どこも行きたくない……」


「なんで?」


「だって……だって、ゆうくんこれで最後にするつもりでしょ? これで私との関係を立ちきるから最後に優しくしてくれてるんでしょ?」


 幸奈は目に涙をためていた。ジロジロと周囲からの視線が集まる。咄嗟に幸奈の手を取って、ショッピングモール内にあるカラオケ店にまで来ていた。

 フリータイムと伝え、言われた個室に二人で入った。


「はぁはぁ……」


 走ったせいで、息がしんどい。幸奈を見るとポタポタと泣いていた。


 また泣かせてしまった……と思いながら後頭部をかく。


「幸奈……僕はこれで最後にしようとか思ってないよ」


「嘘……」


「嘘じゃない。幸奈が最後にしようってんならそうするけどさ、僕はしたくないな」


「そんなの私だって!」


 幸奈は顔を上げてくれた。泣き止んではいない。目をあっちを見たりそっちを見たりと忙しく動かしていた。


 僕と同じで真っ直ぐ見れないんだな。


 僕もまだ幸奈とちゃんと向き合えてはいない。目が合いそうになったりすると急いで逸らしたりしてるからだ。


「幸奈。ちゃんと話をしよう?」


「ゆうくんが怒ったら怖い……」


「ごめん……今は怒らないから」


「……分かった」


 幸奈との話し合いが始まった。

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