第66話 風邪をひいたから幼馴染メイドが看病してくれるらしいんだが(不安しかない)②
「ありがと……」
変態プレイみたいなのを終え、服を着る。幸奈のおかげで幾分か楽になった気がする。これなら、すぐに寝ることも出来そうだ。
「き、気持ち良かった?」
「最高だった……おかげですっきり寝れそう」
横になって静かに目を閉じる。すると、すぐに睡魔が襲ってくる。やっぱり、幸奈の手は最高の結果をもたらしてくれた。
「ゆ、祐介が望むならもっと気持ちよくさせてあげるよ……添い寝でもしようか?」
「そーいう、自分を大切にしないのはやめなさい。僕はもう充分だか……ら……」
そのまま僕は眠ってしまった。幸奈が最後になんて言ってたかなんてもう覚えてない。けど、なんとなくそんなこと言うのはダメだと思った。
だからだろう……夢の中でも、うるさいお兄ちゃんのように幸奈にガミガミ言っていたのは。
パチッと目を開けた。
今何時だ……?
スマホを探して時間を確認する。
二〇時か……三時間くらい寝てたんだな。
身体を起こしてうーんと伸びてみる。グッと眠ったおかげか身体は随分と楽になっていた。
そー言えば、体温は測らなかったけど何度くらいあったんだ?
今となってはどうでもいいことだけど気になってしまう。
体温計は確か向こうに……と、体温計探しの旅に出ようとすると部屋の扉が開けられた。
「あ、祐介。起きたの?」
「幸奈……」
流れる水の如く甦るつい数時間前の僕のだらしないお願い。風邪で弱ってると人って甘えたくなるって本当だったんだな……。
ああああああ! 僕の馬鹿野郎!
と、顔に出さず、一人苦戦する。脳内であの時の僕を散々殴る。
「何しようとしてたの?」
そんなことをしていると幸奈が様子を見るためか近づいてくる。
「た、体温計取りに行こうとしてた。熱が下がってるか確かめたくて」
「そうなんだ。じゃあ――」
コツンと僕の額に幸奈の額が当てられる。
幸奈と真っ直ぐ見つめ合う。どちらかが息をすれば顔にかかる。唇が触れそうにもなる距離。
心臓が一瞬止まりかけた。が、すぐに脈を早めて動き出した。ドクドクうるさい。
「うん。下がってるよ。良かったね」
その位置のまま幸奈は安心したように笑う。漂ってくる甘ったるい女の子独特の匂い。僕の中の何かが誘惑されるように出てきそうになる。
「あれ、なんだか熱くなってるよ?」
誰のせいだと思いながらさらに確認しようとしてくる幸奈から離れた。
「だ、大丈夫だから……」
「そう? あ、ちょっと待っててね」
パタパタとかけて部屋から出ていく幸奈。一人になった僕は呼吸を荒くする。
「はぁはぁ……き、キスするのかと思った……」
そんなことあるはずないって思ってる。でも、あんなことされたら勘違いしてしまうに決まってる。
もしかして、幸奈の好きな相手は僕なんじゃないかって悪魔が囁く。自意識過剰過ぎて、誰かに言えば笑われそうな気もするし、何よりそんなことを考えている自分が馬鹿馬鹿しくて誰にも言えないけど。
「祐介~」
絶対に秘密にしないといけないことを考えているとお盆を手にした幸奈が嬉しそうに戻ってくる。
「ねね、これ食べて」
お盆の上に乗せられている皿の中にはご飯だけで作られたお粥が入っていた。
「祐介、お腹すいてるよね? お昼も食べてなかったでしょ?」
「なんで、知って……て言うか、幸奈が作ったのか……?」
「祐介のこと見てたから。お腹すいてるだろうと思ってね、頑張って作ってみたの」
「ゆ、指切ったりしてないか!?」
「してないよ。流石に包丁使うのは危険だって分かったから」
「そっか……」
成長したなぁ……と、思わず出てきそうになる涙を引っ込める。って、誰目線でいるんだよ!
「スマホで調べてみたら私にも出来そうだったから頑張ったの。それで、食べれそう?」
せっかく、幸奈が作ってくれたお粥。食べないわけがない。
「食べる」
「分かった。じゃあ――」
幸奈はスプーンでお粥を一口分すくうと自分の口許へともっていく。
そして――
「ふーふー……はい、あーん」
息を優しく吹きかけ、僕の方へと差し出してきた。
えっ……あーん? 幸奈に食べさせてもらうの?
ピタリと固まってお粥を見つめる。口は開けたいのに閉じられたまま。戸惑いが隠しきれない。
「どうしたの? やっぱり、私が作ったものは食べられない?」
「そ、そんなことない。……けど」
「けど?」
「あ、あーん?」
「うん、そうだよ。私が祐介を看病してあげるんだから食べさせてもあげる。だから、口開けて。あーん」
看病……看病ならいいか。他意はないんだ。だったら、食べさせてもらってもいい、よな?
黙って口を開けるとスプーンが入れられえる。お粥を口の中に含むとスプーンが出された。
モグモグと噛んで味わい……感想はスッゴい不味い。お粥だと考えられないくらい甘くて仕方がなかった。
多分、塩と砂糖を間違えたんだろうな……テンプレなことをして……。
「ど、どう……?」
不安そうにする幸奈に正直に言えるはずがなく、嘘をつく。
「お、おいしいよ。ありがと」
「そ、そう! 良かった」
自分でも料理がダメだと分かっているのだろう。だからこそ、安心したようにふにゃっと笑った幸奈。
「じゃあ、はい」
再び、ふーふーしてからあーんするように促してくる。でも、何度もこんなゆっくりと甘ったるいお粥を食べさせられると吐いてしまうかもしれない。
だから、これを最後にすると決めてあーんした。
「幸奈。パパっと食べちゃいたいから一人で食べ――」
「だーめ。祐介、病人なんだから私に任せて」
「でも……」
「恥ずかしいの? さっきもあんなに甘えてくれたんだからもう恥ずかしがることないよ。いっぱい、甘えていいんだよ。だから、あーん」
ううっ、優しい幸奈にはどうにも弱い。
最後って決めたのに……。
僕の意思はすぐさま崩された。優しく笑いかけられて甘えていいよという言葉だけで。
これは、風邪のせい……これは、風邪のせい……。風邪のせいで、いつもより幸奈が恋しくなっているだけだ。
何度も自分にそう言い聞かせて幸奈にあーんしてもらい続けた。
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