第25話 メイド喫茶で再び出会うは幼馴染メイドであった③了

 なにが? とは言わない。言わなくても分かる。

 幸奈は真っ赤になっているし、いちいち言うのは流石にゲスだ。……まぁ、余計に恥ずかしがらせて可愛いところを見ようとするなら言えばいいが……そんなことをすると深雪さん達に出禁にされそうで出来ない。


 僕は俯きながらモジモジする幸奈を横目で見た。幸奈は何度も言うが、ある部分が成長していない。世の中には大きい方が好きだと言う人が多い……かもしれない。でも、小さい方が好きだと言う人も確かにどこかにいるはずだ。僕は普通派だけど。


「あー、まぁ、いつかは成長するんじゃないか?」


 ほぼ絶望的だけど。


「な、なによ! 諦めろって言うの!?」


「そうは言ってない。可能性は捨てるな」


 一縷いちるの望みだけど……。


「ふ、ふん。なによ。いいわよ。どうせ深雪先輩みたいにはなれないわよ……」


 拗ねたように口を尖らせる幸奈。

 そんな幸奈を見てあることを思う。


「ま、幸奈はそのままでいいと思うけど」


「えっ……そ、それって、私は私のままでも充分魅力があるってこと……?」


「世間的にはな」


 幸奈が可愛いことは事実だし、まぁ魅力も……あるだろう。

 それに、幸奈が深雪さんみたいになれば僕の中で何かが崩れてしまう気がする。


 どーして、こんなツンデレ女王様みたいに成長したのかは分からないけどこの幸奈ともなんだかんだ最近はよく交流がある。

 神様がまた要らぬ働きをしているのかと思うけど居心地が悪いかと訊かれるとそうでもなくなってきているのが事実だ。……悔しいけど。


 なのに、突然深雪さんみたいになれば困惑してまた僕は関わることを嫌いになるだろう。それで、何かが困ることでもないけどなんとなく嫌だと思ってしまう。

 だから、幸奈には変わることなくこのままでいてほし――って、なに考えてんだろ。はぁ、こーいう時に幼馴染って本当に困るよ。疎遠からまた関わるようになると昔のような感覚に陥って勝手に変なこと思っちゃうんだもんな。


 僕と幸奈はもうそんな関係でないのに。


「ゆ、祐介的にはどうなのよ……? 私に魅力があるって……思ってくれてるの?」


「はぁ? いきなりなに言って……」


「こ、答えなさいよ!」


 恥ずかしいなら訊くなよ……。

 幸奈はウーっと恥ずかしそうに唸りながら真っ直ぐ瞳を見てくる。目をうるうるさせ上目遣いの幸奈。

 それは、反則だろ……。


「……か、わいい……って思ってるよ」


 は、恥ずかしい……!!!


「そ、そう!」


 パアッと顔を輝かせる幸奈。

 しかし、すぐにハッとしてそっぽを向いてしまった。


「べ、別に、だからって、何も特別なことなんてしてあげないんだからね!」


 怒っているかのような口調ではあるが、口元は震えていてそんなに怒ってはいないらしい。

 むしろ、どこか嬉しそうにも見えるような……。


「分かってるよ。って言うかさ、ひとつ気になってたんだけど」


「なによ?」


「いや、二週間続けていなかっただろ? だから、幸奈がいるのは何曜日なのかって思って」


 こうやって遠回しに訊けば嫌な気も起こさないだろう。金曜日はいないってことは知ってるのにそれをぶち壊してきたんだから僕にはどうしても知る必要がある。今後のためにも。


「そ、そんなに私がいる日に来たいの?」


「違う」


 どちらかと言うと、幸奈がいない日に来たいんだよ!


「ただの世間話で知りたいだけ。それに、幸奈だけ僕の働いてる曜日を知ってるのはズルいだろ?」


 幸奈の理論でいくと僕だって幸奈が働いている曜日を知る権利があるはずだ。だから、教えろ。


「月曜日と水曜日よ」


「月曜と水曜……じゃあ、なんで今日いるんだ?」


「べ、べべ、別になんでだっていいでしょ! そ、そろそろ、オムライスも出来たことだしいってくるわ。ちょっと待ってなさい!」


「あ、おい……」


 幸奈は焦っているのを誤魔化すようにして急いで厨房の方へと向かっていった。

 ……まぁ、深雪さんの時みたいに誰かの代わりで急にシフトに入ったんだろう。そんなに訊いてもあれだしそう思っとくか。


 それから幸奈は『おいしくなーれオムライス』を持って戻ってきた。側にはケチャップが置かれていておぞましい記憶が甦ってくる。


「ふふ、どうしてあげようかしら?」


 あの時の苦しんでいた僕を思い出したからか楽しそうに笑う幸奈。

 背中を冷たい汗が流れていく。


「お、おい、また……」


「……なーんてね。今日はちゃんとしてあげるわよ」


「え」


 幸奈はケチャップの蓋を開けると適量だと思える分を卵の上にかけていく。僕が相手だから恥ずかしいのか、『おいしくなーれおいしくなーれ』とは言わなかった。

 その代わり――


「お、美味しくなりなさい……!」


 料理が相手だというのにいかにもツンデレが吐くようなセリフを添えてくれた。


 僕はオムライスをスプーンですくって口にした。味はいつもと変わらない満点だ。ただ、どこか今まで食べてきたものとは違う気がする。


「ど、どう?」


 緊張しているのか不安げにしている幸奈。

 ああ、なるほど。相手が幸奈だからか。


「悪くないな」


 僕が答えると幸奈は満足そうに笑っていた。僕はオムライスを苦しむことなくなんなく完食することが出来た。

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