第101話 幼馴染メイドとメイド同好会で合宿……という名のお泊まり会②

「こんにちはっす、先輩!」


 夕方になり、田所と秋葉がやって来た。


「あ、もうこんばんはっすかね?」


「知らん」


 田所は済んだ表情で元気だが、秋葉は顔をしかめて苦しそうである。理由は、手にしている膨らんだスーパーの袋二つ分のせいだろう。


「尾山……早く入れるか、これ持ってくれ」


「ああ、はいはい」


 苦しそうに言われたので荷物を一つ受け取る。すると、ズシッと分かる程の重たさだった。


「いや~秋葉先輩が先輩の家知らなくて助かったっす。案内する代わりにいい足になってくれたっす。あ、間違えた。荷物持ちっす」


「……おい、尾山。このうるさいのをどうにかしてくれ。腹が立って仕方ない」


「もう、秋葉先輩が悪いんじゃないっすか。どうせ、この夏休みもずっと引き込もってたんでしょ? 少しは身体動かした方がいいので運動させてあげたんすよ」


「ああもう、それでいいから。早く中に入れてくれ」


 事実を言われ訂正出来なかったのか、それとも、ここで時間をかけていても疲れるだけと思ったのか。秋葉は逃げるように降参していた。



「幸奈先輩。お久しぶりっす」


「うん、久しぶり」


「もう来てたんすね」


「まあね」


 久しぶりに会った幸奈と田所。勘違いかもしれないが、田所の幸奈への懐きようが増している気がする。今も一方的にずっと話しかけているし。


 秋葉は一仕事終えて疲れたのか静かに冷房に当たって幸せそうだ。


「幸奈先輩は夏休み何してたんすか?」


「ゆうくんと遊んでた」


「やっぱり、お二人は仲が良いっすね~。私は久しぶりに家族旅行に行ってたんすよ」


 背負ってきていたリュックを開けて中から箱を三箱取り出した。

 そして、それを僕らに一箱ずつ渡していく。


「これ、お土産っす。饅頭っす。味は保証するっす」


 僕達はそれぞれお礼を言い、田所からの土産を受け取った。


「じゃ、そろそろ作り出しますかね」


 リュックの中から取り出したエプロンをラフな格好の上に身に着けキッチンに向かう田所。


「先輩。どこに何があるか教えてくださいっす」


「はいはい」


 同じようにキッチンに行って調理器具や調味料の場所を教えた。


「先輩。案外色々あるんすね。料理するんすか?」


「一人暮らしだからな。って、言っても大したものは作れない。ネットで調べて簡単なものだけ」


「それでも、凄いっすよ。あんま男の人が料理してるイメージないっす」


「まぁ、基本女の子ってイメージだな。僕としては田所が料理してるイメージないけど」


 見た目で言えば幸奈の方が家庭的って感じで田所の方がだらしない生活を送ってるってイメージだ。

 でも、実際には幸奈の方がだらしなく、田所は……おそらく、家庭的なのだろう。自分から料理を振る舞うってのは自信がないと言えることじゃなさそうだ。


「酷いっすよ~。私、こう見えても結構家庭的なんすよ? ほら、前も言ったけど共働きなんで家事はほとんど私がしてるんすよ」


「へぇ~」


「あ、信じてないっすね? 私の料理を食べて舌唸らせてやるっすよ」


「はいはい」


 別に信じてないことはない。エプロンを着けている姿が妙に様になっているし似合ってる。はっきりに言うと母性感が出てるのだ。


「じゃあ、期待して待ってる」


「にしし。頬っぺた落ちても責任とらないっすから」


 田所に任せて戻ると幸奈からの視線がぎすぎすと突き刺さった。痛い。


「……随分と楽しそう」


 頬を膨らませて言ってくる。明らかに拗ねている様子だ。


 そんなことはない……つもりだけど、久しぶりに会ったせいかあのウザ絡みがどこか心地よく感じている自分もいる。


「そんなことないぞ?」


「本当かなぁ……」


 じっとりと見られなんとも居心地が悪い。


「幸奈先輩も一緒に料理するっすか?」


 不意に田所から助け舟らしきものが入った。意識的になのか、無意識的なのかは分からないが助かっ……てない!


「私も一緒にしていいの?」


「もちろんっすよ~」


「じゃあ、一緒に――」


 席を立ってキッチンへ行こうとした幸奈の肩を抑えて座りなおらせた。


「ダメ、絶対」


「え、でも、私も――」


「ダメ、絶対」


 ついさっき何をやらかしたのか自分で分かってないのだろうか。


 手伝いたそうにしている幸奈を笑って許さなかった。


「なんか、ゆうくん怖いよ……?」


「ははは、そんなことないそんなことない」


「先輩。別に幸奈先輩に手伝ってもらっても良いじゃないっすか」


 田所は知らないから言えるんだ。幸奈が料理が下手で血を舐めさせてくるようなやつだって。


「……あのさ、ごちゃごちゃして指でも切ったら大変だろ。だから、田所一人で頼む」


「そんなこと滅多に起こらないと思うっすけど」


「僕は調理実習の時に起こったんだよ」


 盛大な嘘だけど。納得してもらえそうな理由を並べて乗り切るしかない。


「ゆうくん。そんなことあったっけ?」


「あ、あったんだよ。幸奈が知らないだけであったんだよ」


「なるほど~経験者は語るってやつっすね。分かりました。ケガしたくないしさせたくないんで一人で作るっす」


 幸奈は残念そうにしていたが、諦めてもらいたい。……うん、罪悪感がないことはない。今度、また付き合って埋め合わせしよう。



「さ、出来たっすよ~」


 幸奈や秋葉と話しながら待っていると良い匂いとともに田所の元気な声が聞こえてくる。


 机の上に田所が作った様々な料理が並べられる。唐揚げ、味噌汁、サラダ、ご飯。なんとも家庭的なメニューで食欲がそそられる。


 四人で席について手を合わせる。


 先ずは味噌汁からと。田所を除く三人でずずっと一口飲む。田所は緊張しているのか、どこか落ち着かない様子だ。


「美味いな」


「そ、そうっすか!?」


 自然と口にしていた感想に安心した様子の田所。幸奈と秋葉も同じように感想を口にしていた。


「次、唐揚げ食べてみてほしいっす。自信作なので」


 言われて唐揚げを口にする。かりっとしていて、ジュワ~っと肉汁が広がって普通に美味い。


 なるほど……確かに、自分で言ってただけのことはある。田所は料理が上手い、家庭的女子だった。


「どうっすか? どうっすか?」


「美味しいよ。レベル高いな」


「ふふん、分かればいいんすよ」


 田所は鼻を伸ばしてさぞかし嬉しそうである。


「で、頬っぺた落ちたっすか? 落ちたっすか?」


「落ちてはないな。ちゃんとついてる」


「ちぇっ、ノリ悪いっす先輩。幸奈先輩はどうっすか?」


「……美味しい。負けた……」


「幸奈先輩……?」


 幸奈は自分が苦手とする料理を意図も容易くやり、こんなにも美味しいものを作れる田所にうちひしがれていた。


「あー、気にするな。ちょっと、自分の世界に入りたいんだろう」


「そ、そうっすか。秋葉先輩はどうっす? 私のこと見直したっすか?」


「母さんの方が好きな味だ」


「うわ~ひくっすわ~。ほんと、可愛くないっすね~」


 秋葉の横腹を肘でうりうりとしている。


「別に不味いとは言ってないだろ」


「初めからそう言えばいいんすよ。正直に言わない男はモテないっすよ?」


「お前は正直に言いすぎなんだよ。料理ばかりじゃなくもっと礼儀を覚えろ」


 相変わらずごちゃごちゃと言い合っている二人。なんだかんだ言いつつ、いつものペースで居心地が良い。


 幸奈と二人での食事も毎日楽しい。でも、こうやってみんなでの食事も楽しんだよな。


 自由にしてるみんなの姿を見て、自然と口角が上がった。

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