第102話 幼馴染メイドとメイド同好会で合宿……という名のお泊まり会③

 ご飯を食べ終え、みんなで遊ぶことになった。

 田所からは合宿という名目だったが合宿っぽいことなんてするはずないと分かりきっていた。


 そもそも、メイド同好会で合宿って思い当たる限りメイドごっこをするくらいだ。なのに、丸一日メイドごっこをするなんて田所の性格上あり得ない。すぐに飽きて遊ぶって言い出すに決まってると予測出来ていた。

 だから、この時のために色々と用意していおいた。


 用意していたお菓子やジュースを机に並べて買っておいた遊び道具の内からどれで遊ぶかを決める。


 そして、トランプで遊ぶことになったんだが……。


「あ、先輩、それじゃないっす! その横っすよ!」


「ゆうくん。ババどれ? 貰ってあげるよ」


 ババ抜きは幸奈と田所がうるさすぎて全く遊べなかった。

 次に神経衰弱をやるようになったけど、幸奈の独壇場で勝負にならなかった。頭がいい=記憶力に繋がるのか。強すぎた。


 と言うことで、トランプは止めた。

 そして、買っていた人生ゲームをすることにした。


「……先輩。これ、なんすか? この、メイドだらけの人生ゲームって」


「メイドになって生きるかご主人様になって生きるかを決めて争うらしい。僕も遊んだことない」


 お店で見かけて、これだ!って一目惚れして買っておいたんだ。


「いい買い物したな、尾山」


「だろ。面白そうだよな」


 やはり、秋葉とは合う。今すぐ遊びたいと目を輝かせている。変わって田所は呆れた様子だが気にしない。


「ゆうくんこれで遊ぶのずっと楽しみにしてたもんね」


 幸奈は買った時から楽しみにしていたことを知っているからか朗らかな笑みを浮かべてこっちを見ていた。


 僕と秋葉がご主人様で幸奈と田所がメイドという配置で始めることになった。


「へぇー色んな役があるんすね。とりあえずっと……げ、なんすか~これ~」


 田所が止まったマスは幸奈の専売特許である名ゼリフ『おかえりなさいませ、ご主人様』と言えば100万ゴールド獲得だった。


 ……しかし、このセリフだけで100万ゴールドって。この世界で本当に起きたら幸奈や深雪さんは大金持ちだな。


「言いたくないなら別にいいぞ。無理強いはしない」


 ルールは強制じゃない。それに、こう言えば後々自分が嫌なマスに止まった時のための保険になる。


「い、言いますよ。稼げる間に稼いどきたいっすから」


 そう言うと僕の方を向いてきた。


「待て。どうして僕の方を向く?」


「だって……秋葉先輩には言いたくないっすから」


「俺だって言われたくない。考えただけでも寒気がする」


「あ、酷いっすよ!」


「うるさい。と言うわけで尾山。言われてやってくれ」


「まぁ、そういうことなら。遊びだし」


 田所は小さく深呼吸を繰り返す。やけにもじもじとしていて、目が合う度に逸らされた。


 よっぽど恥ずかしいんだな……ま、分からんでもないけど。って、やっぱり、これを平然とやってのけるメイドって凄いんだな。


 幸奈のことをチラッと見ると『ん?』と首を傾げてきた。あくまでも、メイドということは隠し通すつもりなのか……微動だにしていない。

 僕としても言いふらす話でもないので『なんでもない』と答えて田所に向き直った。


「い、いくっすよ……」


 心の準備が整ったのか田所が大きく目を見開く。


「お、おかえりなさいませ、ご主人様……」


 ……正直に言えば、田所のことがものすごく可愛く見えた。恥じらいながら、もじもじとしていて、いつもの元気さがない。しかし、それは恥ずかしいを全面に出していて、初々しさが目立つ行為に過ぎない。

 つまり、これは人気出るやつだと確信した。


「は、恥ずかしいっす……なんとか言ってほしいっす……」


「あ、ああ。その……良かった。100万の価値はあるんじゃないか」


「なんすか……その感想。でも、これで100万なら頑張ったかいあったっす」


 大きく100万と書かれた紙幣を握りぎこちない笑みを浮かべる田所。そんな姿も今だけは可愛く見えた気がした。


 そんなことを思っていると、幸奈から足を蹴られた。机の下でのことなので二人には気づかれてない様子。ゆっくりと隣を見ると幸奈は笑っていたが目が笑っていなかった。どうやら、怒っているらしい。


「よ、よし。次、秋葉の番だな」


 逃げるように促してゲームを進めた。



「くっ……なんでだ。どうしてみんないなくなったんだ」


 ゲーム終盤、秋葉が止まったマスは屋敷にいたメイド全員に裏切られ、所持金全て無くすというマスだった。


 これで、秋葉に勝ち目はなくなったな。後は、幸奈と田所が敵だけど……。


「えへへ。えへへ。見て見てゆうくん。結婚だって。私、お嫁さんだって」


 幸奈はご主人様と結婚して大金持ちというマスに止まり、一人で喜んでいた。ゲームに勝てるからなのか、結婚というマスに止まったからなのかは分からない。が、深くは追及しない方が良さそうだ。


「ふっ、残念っすね、幸奈先輩。この勝負、私の勝ちっすよ!」


 田所が止まったマスには職業進化と書いてあった。どうやら、ただのメイドからアサシンメイドになったらしい。

 そして、途中で自分を買ったご主人様の暗殺に成功し、他プレイヤーから所持金全て没収というなんとも横暴なマスだった。


 結果、田所の優勝となった。


「いや~案外楽しかったすね」


 田所は勝利の祝杯を一人であげて満足そうだ。


「もう一回。もう一回勝負しよ!」


 珍しく幸奈が対抗している。

 てっきり、負けて機嫌でも悪いのかと思いきや口は笑っていて楽しそうにしている。


「良いっすよ。受けて立つっす」


「次は負けないんだから」


「次も私が勝つっすよ」


 バチバチと火花を散らし合う二人。

 そんな中、秋葉が手を挙げた。


「盛り上がってるのに悪いが先にトイレ行かせてくれ」


「……雰囲気ぶち壊しっす」


「うるさいな」


「まぁ、良いっすけど。私も着替えたいのでちょっと休憩にしましょうか」


 田所と秋葉がいなくなったので少しの間、幸奈と二人きりになった。


「随分と楽しそうだけど楽しいか?」


「うん。私、こういうのしたことないし、修学旅行とかでもすぐ寝てたからみんなで夜更かしとか嬉しいの」


「そっか」


 そうしている内に秋葉が戻ってきて、田所も着替えを終わらせて戻ってきた。のだが、田所の格好が少し……と言うか、随分と変わっていた。


「……なんだ、その格好?」


「え、クマさんパーカーっすけど?」


「いや、そんなさぞかし当然みたく言われても……」


「私、夜はこれなんすよ。変っすか?」


 変か変じゃないかで言われるとこれはこれでアリという答えになる。

 と言うか、パーカーまで入ってるリュックっていったい……。


「似合ってるよ、後輩ちゃん。私もそういうの欲しいかも」


「幸奈先輩。ありがとうっす。今度買いに行くっすか? 幸奈先輩ならどんなのでも似合うっすよ」


 幸奈と田所は随分と仲良くなったのだろうか。二人が仲良くなるのは僕として嬉しくいい傾向だ。


 これで、幸奈も僕以外の人と出掛けたりするとまた違った楽しみを見つけられるかもしれない。そうなるといいな。


「よーし、じゃあ、二回戦始めるっすよ。夜はまだまだこれからっすから!」


 田所の大きな声と共に夜はまだまだ続いた。

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