第98話 幼馴染メイドは家の風呂をプールと言い張る
田所提案のみんなでプール。色々とLEINでやり取りをした結果、行く日が決定した。そのやり取りにも秋葉は参加しなかった。ただ、既読はついていたため、メッセージを見ていることは確認出来ていた。
そして、迎えた当日。
自分でも思ってた以上に、みんなで遊ぶというなかなかにない機会に自然と楽しみなのか早めに目が覚めてしまった。
そのため、昨日の内に準備しておいた水着やらを確認しながらテレビを眺めていた。
……まぁ、朝から嫌な予感はしてたけど。
『えー大型台風が近づいています。危険ですので外には出ないようにしてください!』
とのことを、テレビから風にあおられているお姉さんが伝えてくる。
……はぁ、なんでこうなるんだか。
そう数日前から日本に台風が襲来してきていたのだ。随時、ニュースを見て、その上で今日に決めたのだが、まさかピンポイントで大荒れになるとは思わなかった。
ま、今日は中止だろうなと思いながら連絡を待っていると先にチャイムが鳴り響いた。玄関を開けると不幸に満ちているような幸奈が立っている。
なんだかんだ言いながら幸奈も今日を楽しみにしていた。僕に水着姿を早く見せたいなぁとか、これまた破壊力の高い言葉を隣で囁かれ、苦しめられたものだ。
が、実際は雨。扉を開けただけで部屋の中に風が入っていく。
「ゆうく~ん……」
……っ、そんな捨て犬みたいな目で見ないでくれ。僕だって残念だけど、お天気様には勝てないんだ。
「幸奈……入って」
「……うん」
幸奈を中に入らせて扉を閉めた。
リビングにまで戻ってくるとスマホに通知があった。確認すると田所からだった。
今日は残念っすけど、中止ということで。
とのことだった。その文の後に落ち込むスタンプが送られてきていた。
分かったと返事を送り連絡を終了した。
「やっぱり、中止だって。田所も残念がってた」
「そっか……」
お出掛けの荷物らしきものが入ったリュックを抱きながら残念そうに落ち込む。
さて、どうしたものか……。
う~んと悩んでみるも、外は台風のせいで大雨と暴風。出るのは明らかに無理。
幸奈を元気づけてあげたいけど特に何もない。時間はまだまだいっぱいある。なのに、出来そうなことはあまりない。何とも、時間を無駄にしそうな感じだ。
うんうん考えていると幸奈がばっと立ちあがり近づいてきた。
「ゆうくん。お風呂沸かして!」
「お風呂?」
「うん!」
この時、ある考えが脳裏に浮かんだがそれを考えたくなかった。出来れば、否定したかった。
「……一応、聞いておくけど……なんで?」
「お風呂をプールにしようと思うの!」
目をキラキラと輝かせる幸奈。なんとなく、こんな気はしていたけど、口にされると反応に困る。
確かに、このマンションの風呂の大きさは大きい方だ。浴槽にだって、僕と幸奈だけなら二人で入れる。つまり、プール扱いは可能。
でも、それをすると密着度が今までにないくらい高くなってしまう。しかも、肌と肌。この前、幸奈の胸を触らされたこともあって色々と危ない気がしてならない。
「……えっと、出来れば僕は嫌なんだけど」
「どうして?」
「どうしてって……意識するからに決まってるだろ」
「意識していいよ。触れたいなら触れていいよ?」
「ふ、触れていいって……」
ど、どこに触れていいんだよ。
そんなこと言われると余計に意識してしまうと分かってないのか。それとも、やっぱり幸奈はそういうことを色々と望んでいるのか……って、ダメだ。まだ、告白してないんだから。
「幸奈、やっぱり……幸奈?」
目を閉じながら真剣に考えているといつの間にかこつぜんと幸奈が姿を消していた。どこに行ったと思っていると耳にある音が届いてくる。
ジャァーーー……?
まさか、と思って急いで風呂場へ向かうとやはりそこに幸奈がいた。同じ作りのマンションなのだから、当然の如く幸奈もお風呂を沸かすことが出来る。
「ふっふっふ……ゆうくん。残念だったね。これで、プール完成だよ」
どや顔で見られても!
すっかり落ち込んでいた幸奈は消えていて、いたずらっ子の悪い顔をしている。
「……っ、幸奈。お前……」
「一緒に入ろ」
僕のことなんてお構いなしに近づいてきてそう言った。断れそうにない雰囲気。だが、僕にはまだ逃げる道が残されている。
「服のままでか? 僕としてはプレゼントした幸奈をより一層可愛くしてくれる服をわざわざ濡らすようなことはしてほしくないな」
そう水着だ。幸奈も僕も水着じゃない。まだ、お出掛けようのファッションのまま。そして、水着になるには着替えないといけない。下着を脱いで、水着を装着。それつまり、大事な部分を諸々と露にすること。
僕がこれから幸奈につきっきりでいれば、僕の気持ちを知っていてくれているし、全裸になるまでのことはしない……はずだ。……うん、しないよな。流石に、そこまではしないよな?
ま、まぁ、とにかく、これから幸奈に金魚の糞みたいにくっついていれば回避出来るんだ!
しかし、これも幸奈はよんでいたようでニヤリと笑みを浮かべて服を脱ぎ出していく。
「さ、幸奈……!」
咄嗟に目を閉じて見ないようにした。見たいという欲望に負けないよう手を強く握る。
普段は気にならない服が擦れて出る音が随分と嫌な音に聞こえる。そして、パサリ……という、全て脱ぎ終えた音がした。
「ゆうくん。目、開けていいよ」
「む、無理……」
「大丈夫だって。裸じゃないよ。ゆうくんの気持ち分かってるから。ね、安心して」
幸奈のことを信頼していない訳じゃない。でも、もし、目を開けた先に裸の幸奈がいたら僕は何をしでかすか分からない。少なくとも、そういうことをしたい気持ちがあることをつい先日知らされたのだ。
「あのね、ゆうくん。私、水着だからね。だから……見て、ほしいな」
幸奈は僕に水着姿を見せたいと言ってくれていた。それを、僕は恥ずかしくて嫌だったけど、それも嬉しいことってことは分かってる。
本当は幸奈はもっともっと僕とくっつきたいって思ってくれているのかもしれない。なのに、僕が告白しないから、我慢しているのかもしれない。
それなのに、幸奈はそこまで言ってくれる。僕が情けないせいで、本当の気持ちを隠しながら。
「ゆうくん。私、大丈夫だから。もしものことが起こっても……ね?」
恐る恐る、ゆっくりと目を開けた。
そこには、水玉模様が入った水色を主とする肌の露出があまり多くない水着を着た幸奈がいた。
「ど、どうかな? ワンピースタイプにしてみたんだけど……似合ってる?」
腕を後で組ながらもじもじと目線を泳がせて言ってくる。一連の動作とその恥じらいが何とも言えず……一言で言うなら、可愛すぎる、だ!
「……ゆうくん?」
何も言えず、固まっている不安そうに名前を呼ばれた。
危ない危ない。可愛いの三文字が頭を支配してた。ちゃんと伝えないと!
「似合っててめちゃくちゃ可愛い。正直、一瞬、抱きしめたくなった……」
「あはは、なったじゃなくて、なってほしいんだけどな」
「……ごめん。そんな勇気なくて。僕ってホント、ダメだな」
「ううん、ゆうくんの大事にしたいってのも分かるから。だから、今日は楽しもうよ。ね?」
幸奈を喜ばせてあげたい。楽しませてあげたい。その気持ちがあるなら、僕も入った方がいい。
「そう、だな。着替えてくるから待っててくれ」
僕は水着に着替えるために部屋へ戻った。
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