第28話 休日に訪ねてくるのは幼馴染メイドだった③

「ねぇ、ご飯どうするの?」


 リビングに戻ってくると幸奈が訊いてきた。


「カレーでも作ろうかって思ってたけどカレーでいいか? 僕の手作りだけど」


「カレー作れるの!?」


「そんなに驚くことか? カレーくらいネット見れば誰でも作れるだろ」


「そ、そんなことないわよ!」


 ああ、そう言えば幸奈って料理が全然出来ないんだっけ。調理実習の時も包丁を持ってたら危ないって言われて何もさせてもらえてなかったな。違う班だったからどんな腕前かは知らないけど、幸奈と同じ班の人達がスゴく焦ってたしダメダメなんだろう。


「なぁ、普段料理とかしないのか?」


「しないわ!」


「じゃあ、普段からなに食べてるんだ?」


「そんなの冷凍食品かコンビニ飯よ!」


 あ、分かった。幸奈は太らない体質だから膨らまないんじゃなくて栄養をとってないから膨らまないんだ。

 あと、威張って言うことじゃないから。


「……もうちょっと栄養とった方がいいぞ?」


「なに残念な目で見てるのよ!」


 自然と笑みが溢れそうになった。

 なんだ、案外楽しくやれそうだな。


「で、カレーでいいのか?」


「いいわよ。作ってもらうのに文句なんて言わないわ。それよりも、お腹がすいてるから早くして」


 文句は言わないんじゃないのかよと思いつつも僕は『はいはい』と返事した。


「じゃあ、僕が作ってる間適当にくつろいでてくれ。って、言ってもここにあるのなんてテレビかマンガかラノベしかないけどな」


 リビングにはテレビ、僕の部屋にはマンガやラノベが置いてある。でも、流石に僕の部屋になんて入らないだろうしテレビでもつけてソファにでも座らせておくか。


「そうね。祐介の部屋が見たいわ」


「はぁ!? なんで!?」


「なんでって……興味があるからよ」


「興味って……」


「なによ。私に見られたら困るようなエッチな本でも置いてあるのかしら?」


「お、置いてねぇよ!」


「隠したいなら隠してきてからでもいいわよ?」


「だから、置いてないって!」


「そう。じゃあ、見てもなにも問題ないわね」


 そう言うと幸奈は僕の部屋の扉に手をかけた。

 このマンションの部屋の作りはどの部屋も一緒だから確認しなくても分かるのだろう。


「へぇ、意外と綺麗なのね」


 幸奈は僕の部屋を見て言った。

 そりゃ、お前の汚部屋と比べたらどこだって綺麗だよ!


「お、おい。もういいだろ」


 僕の部屋に幸奈に見られて困るようなものは置いていない。でも、彼女でもない女の子を自分の部屋にいれるのはなんとなく抵抗がある。……もう、マンションとしての僕の部屋には入られてるけどプライベートエリアはなんとか阻止したい。

 それに、僕の部屋には幸奈が興味をひくようなものなんてない。ベッドと本棚、机しか配置されていないのだから。


 しかし、幸奈はずんずんと歩を進ませ中へと侵入した。


「荷物も少ないのね」


「……必要なもの以外いらないからな」


「ふーん……」


 幸奈は本棚の中にある本を数冊取り出すといきなり僕のベッドに寝転び出した。


「お、おい!」


「私、ここでこれ読んでるから出来たら読んでちょうだい」


 幸奈が履いているのはジャージだ。だから、スカートがめくれてパンツが見えそうになってドキドキ……なんて展開は少しもない。

 だからって、普通好きでもないただの幼馴染のベッドにいきなり横になるか? ならないだろ!


 しかし、幸奈は僕の考えなんていっさい気にすることなく楽しそうに鼻唄を鳴らしながら足をパタパタさせて本を読んでいた。


 こーなった幸奈が素直に言うことなんて聞くはずがないと知っている僕は一応『僕がいない間なにもするなよ』と釘をさした。


 幸奈からは『はーい』という返事が返ってきたけど……本当に分かってるのか不安で仕方がなかった。



 ……やっぱり、なんか変だよなぁ。

 カレーを煮込みながら思う。今は適当に野菜と肉を一口サイズに切り鍋に投入しルーをいれてあとは溶けるのを待つ……という状況である。


 こーいうのって男の僕が食事を作るもんなの? 突然、美少女が訪ねてきたら、美少女がキッチンで手料理を作ってくれて、その後ろ姿を黙って見ながらドキドキするってのがお約束じゃないの?

 なのに、なんで僕が料理してるんだ?


「せっかく、可愛いのは可愛いんだから少しくらい料理すればいいのに」


 別に、幸奈の手料理を食べたいとかじゃない。そもそも、幸奈の手料理なんて昔にいっぱい食べてる。おままごとでだけど。

 でも、あの美貌をもっていて料理が出来ないというのは……勿体ないような気がするんだよな。


 そんなことを考えているとカレーが出来上がった。

 温めるのを止めて幸奈を呼びにいった。


「おーい、幸奈。カレー出来たぞ……って何してるんだ!?」


 幸奈はお尻を犬のように振りながらベッドの下にゴソゴソと手を伸ばして何かを探していた。

 なんだかその光景は見てはいけないような気がして僕は急いで視線を逸らした。


「なに、出来たの?」


「あ、ああ」


「そう」


 幸奈は何事もなかったかのように僕の部屋を出るとリビングに置いてある四人席の椅子のひとつに座った。


「な、なにしてたんだよ……」


「祐介の本、メイドばっかでつまんなくなったからエッチな本でもないか探してた」


 さぞかし当然のように答える幸奈に頭がくらくらする。

 いったい、彼女でもなんでもないのにどんな権限があってそんなに勝手なことが出来るんだ?


「でも、なにもなかった。祐介、本当にもってないんだね」


「あ、当たり前だろ。っ言うか、次勝手なことしてみろ。追い出すからな」


「分かったわよ。それよりも、早くしてちょうだい。もうお腹ペコペコなの!」


 コイツ……絶対、分かってない!

 そう思いながら僕は共に炊いていた白米の横にカレーをよそった。

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