第27話 休日に訪ねてくるのは幼馴染メイドだった②

「あのさ、幸奈は不安にならないわけ?」


「なにが?」


「いや、僕も男なんだぞ? その、なにかされたり……とか気にならないのか?」


 僕が幸奈になにかすることなんてさらさらないけど……こうもなにも考えてないとなると幸奈の将来が不安になる。

 ってか、あれだけ色々と妄想してたくせに男の部屋にはあがったり泊まるって言ったりして……幸奈の知識はどうなってるんだ?


「祐介はそんなことしないでしょ?」


 幸奈は迷うことなくしれっと答えた。

 それを、喜んでいいのか分からない。男として見られてないのか……それとも、信頼されているだけなのか……どっちにしろモヤモヤとする。


 ……って、なんでこんなにモヤモヤするんだ? 幸奈にどう思われていようが関係ないのに。


「だからって、もしかしたら……ってこともあるだろ?」


「な、なによ。祐介は私になにかするつもりなの?」


「いや、そんな気いっさいないからその自分を守るポーズやめろ」


「ふ、ふん。まぁ、祐介にはそんなつもりないでしょ。ヘタレなんだし」


「ぐっ……」


 言い返せないのが悔しい。

 そもそも、ヘタレかどうかも分からないほど僕はそんな経験をしていない。

 今だって、これだけ言われても幸奈に何かしてやろうとも思わないんだからヘタレなんだろうけど……。


「なぁ、その人類の敵を僕がどうにかしたら自分の部屋に帰るのか?」


「それはそうよ。意味もないのに祐介の部屋にいるなんて変じゃない」


 ゴキブリさえどうにか出来たら幸奈は帰るのか……。


「……よし、今から幸奈の部屋いくぞ。ゴキ……じゃなくて、敵を僕がどうにかしてやる」


「あんなのに勝てるの!?」


 正直、ゴキブリと戦うのは自信がない。幸奈ほどじゃないけど、気持ち悪いって思うし急に出てきたら悲鳴くらいはあげるだろう。

 でも、ゴキブリを相手にするより幸奈と一晩一緒にいるって方が気を使ってよっぽど疲れそうな気がする。


「部屋から出せばいいだけだからなんとかなるだろ」


「……あー、まぁ無理だとは思うけど一応お願いするわ」


「よっし。じゃあ、ちょっと待ってろ。準備してくる」


 僕は自分の部屋に入っていらない紙をまとめて棒を作った。

 これで、叩けばイチコロだ。


「ね、ねぇ。もしかしてだけど……それで潰す気?」


「ああ」


「ば、馬鹿じゃないの!? 潰したら部屋に体液とか飛んじゃって気持ち悪いじゃん。そしたら、もう私あそこに住めないんだけど?」


 作った棒を持って戻ると幸奈から凄く怒られた。

 僕はシュンとなって謝った。


「ごめんなさい……」


「まったく……いい? 殺すんじゃなくて追い出すのよ!」


「はい……」


 この状況は何か可笑しいと思ったけど素直に受け入れた。

 確かに……ゴキブリの体液が飛び散った部屋なんて嫌だもんな。



 僕の部屋の扉の鍵を閉めて、今は幸奈の部屋の扉の前にいる。


「あ、開けるわよ……」


「ああ」


「……その、中を見てもなにも言わないでよ」


 意味が分からなかったけど頷いて答えた。


 そー言えば、大きくなってから女子の部屋に入るなんて初めてだな……ちょっと緊張する。


 ドキドキしていると幸奈が扉を開けた。


 さて、幸奈の部屋の中はどんなものなのか――少しばかりの興味を胸中に入って絶句した。


「おい、これ……」


「う、うっさいわね……!」


 まだ玄関に入ったばかり。けど、衝撃の光景が広がっていた。

 玄関からリビングへと続く廊下に大量に散らかっている物や雑誌、衣類。そして、ゴミが大量に入ったゴミ袋の数々――それは、汚いとしか感想の出てこない光景だった。


 ああ、なるほど。今、やっと理解できた。

 そもそも、このマンションはまだ建てられてそれほど月日が経っていない。綺麗なのだ。だから、僕の部屋にゴキブリが出たことなんて一度もなかった。それなのに、幸奈の部屋には出た。それが、ずっと謎だった。

 けど、幸奈の汚部屋を見て理解した。

 汚い……それだけで、ゴキブリが現れる理由なんて充分だろう。


「出たのってどこ?」


「リビング……」


 リビング……リビングかぁ。

 リビングまで足の踏み場もない廊下を歩いていくのは無理そうだな。

 それに、ゴキブリだってずっと同じ場所にいるとは限らないし。


「いけそう?」


「無理だな」


「やっぱりね!」


 なんで、自慢気なんだよ。

 薄い胸をそらしてふふんと鼻をならす幸奈。そんな姿を見て呆れそうになった。


「や、やっぱり、今日は祐介の部屋に泊まるしかなさそうね。ね!」


 チラチラとこっちを確認するように見てくる。

 もうどうしようもないな……諦めよ。


「分かったよ」


「じゃあ、早く戻りましょ。私、お腹すいたわ」


「はいはい」


 玄関を出ると幸奈は扉の鍵を閉めた。

 そして、振り返った表情は今日一番というほど嬉しそうに見えた。

 なんでそんなに嬉しそうなんだよ……!

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