第20話 バイト終わりを待っているのは幼馴染メイドだった②

 ……なんで、幸奈がここに?


 相変わらずぼっちで制服姿の幸奈を見て、僕の頭は一瞬思考停止した。


 いや、別にバーガーショップに幸奈が来ること事態なんということもない。なにしろ、働いているのは人気チェーン店のうちのひとつなんだから。

 でも、だからって、なんで今日!?

 だいたい、二年間働き続けてきて幸奈が来たのなんて初めてなんですけど!?


「ねぇ、聞いてる?」


「え、あ、はい。バーガーセットおひとつですね。ありがとうございます。店内でお召し上がりですか? お持ち帰りになさいますか?」


 お持ち帰りにしろ……お持ち帰りにしろ!


「店内で」


「て、店内ですね……。お飲み物はいかがなさいますか?」


「コーラで」


 迷うことなくコーラかよ!

 女子高生としてどうなんだ?

 どうでもいいけどさ。


「コーラでございますね。お会計は――」


「これ」


 目を疑った。

 幸奈から出されたのは今日僕が春に渡したクーポン券と同じものだった。

 ま、まぁ、あちこちで配ってるし偶然幸奈も貰ったんだよな。それで、安く済むから今日はここで食べようって決めたところか。


「毎度、ありがとうございます。それでは、お値段変わりまして――」


 幸奈はお釣りが出ないようきっちりの値段を払ってきた。まるで、準備していたかのように……。


「それでは、お隣でお待ちください」


 幸奈への対応を終わらせ、用意出来るまで隣で待つように言う。

 幸奈への受け渡しは別の人がやってくれるため、僕の出番はここまでだ。新しいお客様の対応をする。


「いらっしゃいませ!」


 お客様が注文で悩んでいる間、隣にいる幸奈とたまたま目があってしまった。

 その瞬間、幸奈は視線を逸らしたが頬が僅かに赤く染まっているように見えた。

 暑いのかな……後で、少し温度下げるか。


 ……しかし、あれだな。同級生でクラスメイトで幼馴染の幸奈にバイトしているところを見られるのはなんだかくすぐったくて変な気分だ。隠す必要もないのに隠したくなってくるし……恥ずかしい。メイド喫茶で幸奈があんな態度をとったのも今なら分かる気がする。



 注文したバーガーセットを受け取った幸奈はカウンターの一人席に座りポテトを食べていた。

 正直、今時の女子高生が一人寂しくなんて見るに絶えない姿だけど満足そうだし……まぁ、いいか。

 幸奈のことは気にしないで集中しないと!


 ……と、意気込んでいたのに――


 チラッチラッと幸奈から数分に一度見られているような気がして気が気でなかった。


 全然、集中出来ない……。

 もちろん、本当に見られているかは分からない。視線を感じて、そっちの方を見ると幸奈はスマホをいじって下を向いているからだ。


 気のせい、だよな……つーか、食べ終わったんならとっとと帰れよ! いつまでいるんだよ!

 幸奈の前には既にくしゃくしゃになったバーガーの包み紙と空になったポテトの容器、コーラは……残ってるのか分からないという状況だった。


 帰れ……早く、帰れ……!

 念を送っているとおもむろに幸奈は席を立ち出した。


 お、ようやくご帰宅か。

 そう思ったのも束の間、幸奈は再び僕の前に立った。


「ポテトMとコーラMひとつずつ」


 まだ食うのかよ……太るぞ。


「ありがとうございます……」


 しばらくして、出来上がったポテトとコーラを持って席に戻った幸奈は幸せそうに食していた。


「あの子さ」


「っ! ビックリした。驚かさないでくださいよ、店長」


 幸奈を眺めているとぬぼっと現れた中年のおっさん。この人が店長の今田いまださんだ。


「はは、ごめんごめん」


 今田さんは子どものように笑う。

 その笑顔からは四十を越えているとは到底信じられない。


「それでさ、あの子祐介くんと同じ学校の制服着てるし高校生だよね?」


「まぁ、そうでしょうね」


「じゃあ、もう少し後でもいいんだけど、二十二時になったら帰ってもらうように言っといてね」


「え……い、嫌です。店長が言ってください!」


「どうしてだい?」


「だ、だって、絡まれたら怖いじゃないですか!」


 それに僕、幸奈とは関わりたくないんです!


「僕が言いにいっても言い返されて負けてしまいます」


「そうは言っても……」


「お願いします、店長。なんなら、今日の給料なくてもいいんで代わりに言ってください!」


 僕はこれでもかという思いで頼んだ。

 一日分の給料がなくなるのは惜しい……でも、それで、幸奈と関わらないで済むのなら……後悔はない。


「……分かったよ。まぁ、こんなおっさんがあんな可愛い女子高生と話せる機会なんてそうそうないし俺がいくよ」


 その言い方はなんとなく危ないと思いますけど……店長、イケメンです!


「ありがとうございます。お願いします!」


「じゃあ、早速いってこようかな」


 今田さんは少しウキウキした足取りで幸奈に話しかけにいった。


 ここは、大学生以下は保護者同伴でない限り二十二時以降には入れないようになっている。

 ってことで、食ったらとっとと帰れ。

 ってか、店長ニヤニヤして喜び過ぎでしょ!


 あ、終わったのかな。

 幸奈と少し話した今田さんは何故か笑いながらこちらに戻ってきた。


「祐介くん、今日はもうあがっていいよ」


「え、まだ三十分あるんですけど……」


「祐介くんもすみにおけないな~」


 コノコノ~とか言いながら背中を叩いてくる。

 痛いし鬱陶しいんですけど……。


「あの子……君の彼女なんだろ? だから、今日はもうあがって早く一緒に帰ってあげな!」


「……は!?」


 幸奈……お前、何言った!?

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