第3話 隣に住んでいるのは幼馴染メイドだった①
『ねぇ、ゆうくん。大きくなったら結婚してね。わたしをお嫁さんにしてね』
『うん。僕とさなちゃんはずっと一緒だよ!』
『嬉しい。ありがとう、ゆうくん。好き』
『僕も好きだよ、さなちゃ――』
僕は目を開けた。目には見慣れた天井が入ってくる。
「……はぁ、嫌な夢を見た」
僕はため息をつくと頭をわしゃくしゃとかいた。
「これも昨日、久しぶりに幸奈と話したからなのかな……」
僕と幸奈は俗に言う幼馴染だ。家が隣同士で生れた時からずっと一緒だった。幼、小、中と過ごし、高校三年生となった現在でも同じクラスの腐れ縁。
昔は幼馴染テンプレルートのように結婚の約束をした仲だ。けど、大きくなるに連れて自然と会話することがなくなり今では苦い思い出――思い出したくもない黒歴史となっている。
「いつからこんな関係になったんだか……」
幼馴染だからといって男女の仲を超えることはない。よくある幼馴染同士が結ばれる展開など現実にはありはしないのだ。
しかし――
切れるものならとっととこの腐れ縁を切ってやりたい!
いくらそう思っても幸奈との腐れ縁は可笑しいほどに強い。
中学校までは家が隣同士なんだから分かる。幼稚園、小学生と合わせて十一年間同じクラスだったのも百歩譲ってよしとしよう。……でも、高校までもが一緒で、しかも三年間同じクラスってのはどうなの!? 流石に無理があるでしょ!
僕と幸奈が一緒に写ってる写真を見ると幼馴染は悲しいもので離れたくても離れられないものなのだと実感させられた。
それでも、僕は出来るだけ幸奈から離れようと母さんから勧められたマンションで一人で暮らしている。……まぁ、勧められたというかほぼ強制的というか……母さんから『高校生になるんだから社会勉強として一人暮らししてみなさい。お金の心配はいらないから』と言われたからなんだけど。
でも、僕自身、幸奈から離れることが出来てちょうどいいやって思ってたのに……高校も一緒で三年間同じクラスとか頭が痛くなる。
入学式で幸奈の顔を見た時はなんかもう……神様嫌い! って、思った。でも、僕と幸奈の関係が変わることはなく、学校では一度も話していない。そのおかげで、僕と幸奈が幼馴染だと知っている人は少なく済んでいる。
それだけが唯一の救いだった。
幸奈は男子生徒から人気がある。告白されたという噂とそれを全部断っているという噂を何度も耳にした。
そんな幸奈と幼馴染だと知られると僕が何をされるか分からない。世間では幼馴染はカップルという変な認識が存在しているのだ。だから、僕と幸奈が幼馴染だということは僕の身のために知られてはいけないのだ。
「……って、いつまでも幸奈のことなんか考えていても仕方ないや。せっかく、目が覚めたんだし休日を有意義に使おう」
僕は着替えると軽く出かける準備をして家を出た。
今日はライトノベル『メイド喫茶へいらっしゃい』の新刊発売日。どこかで軽くご飯を食べてから買いに行こう!
僕が鍵を閉めて戸締まりをしているとタイミングよく隣に住んでいる人が出てきた。
そう言えば隣に誰が住んでるのか知らないんだよな。
このマンションは一階に六部屋存在している。左右に階段があり、僕の部屋は右から三つ目に当たる真ん中で常に右側行動するから左側に誰が住んでいるのか気にしたことがなかった。落ち着いてから挨拶に向かったけど留守だったし。
ちょうどいいや。この機会に挨拶だけ済ませとこう。
そう思って僕は声をかけることにした。造りが左右で反対になっているせいで扉が閉められるまで誰かは分からない。ちょっと、ドキドキする。これで、怖いお兄さんとかだったらどうしよう。
「あの、僕隣に住んでいる者です。挨拶が遅くなってしまいすいません」
ガチャンという扉が閉まる音が聞こえ、僕は頭を下げた。
「いえいえ、こちらこそ。挨拶が遅くてすいません」
僕に気づいたように答える声が可愛い女の人の声で一安心した。
……だけどこの声、つい最近も聞いたような……?
「こちらこそ、遅くて――」
僕は顔をあげてまるで冷凍庫に詰められたように身体を固めた。
相手も同じように身体を固めている。
嘘、だろ……? こんなことってあるの……?
「なんっで、お前が……」
「なんっで、あんたが……」
相手は幸奈だった。髪をボサボサにさせて、眼鏡をかけてジャージ姿の……美少女とは程遠い幸奈が僕の前に立っていた。
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