間違いだらけの異世界生活

小鉢

はじまりの物語

第1話 少女、大地にたつ!

 母さん、大変です!

 僕は今、ガラの悪い男の人達に囲まれて貞操のピンチです。

 ガクブルです。


「嬢ちゃん、大人しくしな」

 ボロボロの皮鎧を着た男が、ズボンを下ろしながら近づいてくる。


 男が、向かう先には、一人の少女が立っていた。

 肩まで伸びた銀色の髪が美しい彼女は、年の頃は十代半ばぐらいの可憐な少女だ。

 ドレス姿が、しなやかな身体の線と、張りのある胸を強調している。そして、彼女からは高貴で裕福な家の雰囲気が漂っていた。


 そんな彼女が、何故、こんな所にいるのか? しかも、一人で?


 そんな、当然抱くであろう疑問は、この男には、関係ない。

 何故なら、盗賊王を目指す彼は、欲望に忠実に生きているからだ。それは、刺激と反応だ。

 今は、ただ、目の前の少女を犯し、己を満たす事しか考えていない。


 そして、男の言葉を聞いた俺は安堵した。この知らない世界、いや、異世界と言うべきか、その言葉が理解できる事にだ。


 なら、こちらの意思も伝えるべきだろう。


「いやっ! 来ないで!《臭い! 近づくんじゃねぇ!》」

 クソッ! 女言葉に変換されるのか……。


「へへへ、たまらねぇ」

「親分、俺達にも、ちゃんと回してくだせぇ」

 下衆の子分は、下衆だった……、トホホ……。


 少女が見せた戸惑いと落胆に、

 子分達は、期待に股間を膨らませ大はしゃぎの様子。


 親分と呼ばれた男が目の前まで迫ってくる。だらし無く開いた口から覗く前歯は一本抜けていた。あと、息が物凄く臭い。


 歯ぐらい磨けよ! バカッ!


 男は、下卑た笑みを浮かべながら、俺の胸に手を伸ばしくる。

「いやーーっ、来ないでってっ!《殺すぞ、こら!》」

 堪らず、俺は、男に向かって少女の細い身体で軽く掌底を放った。


 ドーン


 男の身体は、くの字に曲がり砂煙を上げながら吹っ飛び、事切れた。


「親分!」

 その驚愕の光景に、当然、子分達が、声を揃えて驚いた。


 掌底一発! 可憐な少女の「いやよっ」で親分、ノックアウト!

 下衆だが、辛うじて良識がある子分達は、血の気が引き青ざめた。


 だがしかし、


「このあま、大人しくしやがれ!」

 と腕っ節に自信がありそうな大柄な男が、拳を振り上げ向かってきた。


 馬鹿なのかコイツ、普通、人は、あんなに吹っ飛ばないぞ。


 いや、異世界では、普通なのか……。


 今、向かってきてる奴は、相手の男達、多分、盗賊? 山賊? どっちでもいいが、その中で一番、レベルが高い。親分は、その事実を知っていたのだろか?


「嬢ちゃん、俺には、魔法は通じねえぜ!」

 男は、ひらひらと首から下げた石をこれ見よがしに見せびらかす。


 その石からは、ゴミのような魔力を感じた……いや、あれ、ゴミだろ。


 どちらにしろ、さっきは、魔法を使ったと思っているようだ。


 面白い、実験だ。


 大柄な男の拳を、今度は、無防備で受けてみる。自然体でだ。


 スカッ!


 当たった瞬間に、軽い音がする。


「て、てめぇ!」

 大男は、顔を真っ赤にして、俺を殴り続ける。


 スカスカスカ……、


 やはり、ダメージは負わない、奴の攻撃は、当たっているが、その威力は、おそらく、俺の基本防御力以下だ。聖剣でも装備しない限り、俺にダメージは与えられない。あっ、でも、こいつ、レベルが足りないから聖剣、装備できないねっ!

 だって、あんた、レベル七ぐらいじゃん。それに対して、俺、レベル百、カンスト、ステカンだ。ゴメンね。


「あん!」

 突然、俺の口から艶かしい喘き声らしきものが漏れる。


 油断した!


 そう、胸を揉まれたのだ。この俺の十代の若々しい胸を! 俺もまだ、揉んでないのに!


「へへへ、俺が楽しませてやるぜ」

「調子に乗らないでっ!」

 怒った俺は、本気の掌底を、奴の頭に放ち、移動する。

 移動したのは、血を浴びるのが嫌だったから。

 だって、ほら、消えた頭から血が噴き出てる。


「ば、化け物!」

 残りの、男達が、逃げ出そうと大騒ぎだ。


「逃がさないわ!」

 俺は、初級の火の魔法【ファイヤー】を唱え、標的の七人を同時に仕留めた。

 ステカンしてるから、初級魔法でも上級並の威力はでるんだぞ。


 廃課金、舐めんな!


 そして、辺りに転がった死体を眺めながら、俺は、少しだけ後悔した。


 ここ、何処だ?


 こうして、俺の異世界生活が始まった。

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