第3話 テンプレに遭遇

 煙の正体が分かった。


 俺の、高性能な目には、馬車を中心に争う男達の姿が、ハッキリと見えていた。

 流石はエルフ、狩を生業に生きる種族だ。


 そして、その尖った耳も飾りではない。


 だから、はっきりと聞こえた。


「姫様をお守りしろ!」


 なんて事だ! あそこには、リアル姫がいる。そして、何、この、テンプレな展開!

 なら、黒い装束の男達が悪者に違いない。そして、俺は、姫様とお友達に……。


 いや、まて、早計だ。これはゲームでは無い、多分……、だとしたら、いかにも悪人が善で、善が悪という展開も……。


 俺は、もう一度、確認する。黒い集団に女性の気配はない。

 姫様の陣営には、女性が他にも多数、確認できた。


 なら、決まりだ! 俺は、姫様を助けよう!


 善悪? 関係ないね。そんな物は、当事者同士で勝手に決まれば良いのだ。


「何だ、あれは!」

「新手か?!」

 眼下の男達が、やかましい。

 くそっ、考えている内に結構近くまで飛んできてしまったようだ。


 上空に突風が吹く、風が、美しい銀髪と膝丈のスカートを激しく揺らす。


 なびく銀髪とスカートを手で押さえる美しい少女の姿に、男達は、戦うのをやめ、口をあんぐりと開き、見惚れている。


 そして、俺は、顔を赤くして焦った。


 やだ、パンツ、見えちゃうっ!!


 慌てて馬車の側に降り立つ。その際、スカートがめくれそうになり、苦労した。

 俺のパンツは、絶対守って見せる。あと、見たやつは殺す。そう心に誓った。


 顔と耳が紅潮するのを俺は感じながら、自分の立場を告げる為に、声を出そうとした。


 カ〜ン!


 背中から、貧相な金属音が響いた。


「おのれ、姫様に、手出しはさせない!」

 女性の声だ。えらく慌てん坊さんだ。この状況で敵に背を向ける馬鹿はいないだろ。


「おのれ、魔術など、この剣で……」


 カ〜ン、カ〜ン、カ〜ン!


 女騎士は、懸命に俺の背中を斬りつけている。

 頑張る女の子は、素敵だ。あと、魔術は使っていない。


「ぐぬぬぬ」

 女騎士の歯軋りが聞こえる。どうやら、諦めてくれたらしい。


「姫様を助けに来ました」

 俺は、透き通る美しい声でハッキリと周りに告げた。背後で、剣が地面に落ちた音が聞こえる。


「貴様、何者だ!」

 正面の黒い装束を纏った男が声を張り上げた。


「私の名前は、タヌタヌよ」

「あ?」

 男は間抜け面を晒した。うっ、もしかして名前として認識されてない?


「ソ、ソフィアよっ!」

 普通ぽいのに、名前を言い直した。これなら、どうだ!


「ふん! 名前など、どうでも良い! 女共々、皆殺しだ!」

 男の合図で、黒騎士共が向かってくる。何て、勝手な奴なんだ!


「女を殺すなど許せん!」と思いながら、魔法を唱える。

「ファイヤー!」

 俺の周りに、無数の炎が現出し、それらが、黒騎士達の鎧を貫き、丸焼きにしていく。


「そんな馬鹿な……、魔法耐性の高い黒鎧が、初級魔法で一撃だと……、しかも、あの数は、なんなんだ」

 黒衣の男は、後退りを始めた。

 あれで……、高いの? ペラペラの紙装甲じゃないか? 多分、素手でもいけるぞ!


「貴様! 何者だ!」

 俺は、その問いには、もう、答えない。

 代わりに、冷ややかな視線を男に浴びせた。

 男の足は、少し震えているように見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る