第4話 ガチャクリスタル
黒装束の男は、胸から何やら取り出した。
その取り出した物を、掲げ、その目に光を取り戻す。
俺には、目の前にいる男の気持ちがよく分かる。
男が大切そうに掲げている物は、ガチャクリスタル、
しかも、課金ガチャだ。楽しいよね課金。
でも、あのクリスタルの柄には、見覚えがある。
俺の表情は、曇っていく。
「おのれ、そのクリスタルの力で、我が国は……」
姫様の護衛達が、ザワつきだした。
周囲の、特に、俺の悲しげな表情で黒衣の男は、得意げになり、そして、声高に宣言した。
「喜べ! ドラゴンを召喚してやる、光栄に思え!」
男は、クリスタルに魔力を込め、封印された魔物を解放した。
晴天の空から、雷鳴が轟き、巨大な赤い鱗で覆われたドラゴンが上空に現れた。
「あははは、見よ! 我が帝国の力を!」
男は、上空で待機させているドラゴンに酔いしれている。
ドラゴンは、その爬虫類特有の感情の無い金色の目で、俺たちを睨み続ける。
「女、貴様は王国の者では無いのだろう? 今、降伏すれば、命は助けてやる」
男は、調子に乗ってグヘヘと下品な笑い声を出している。きっと卑猥な想像をしているに違いない。背筋に悪寒が走る。
「もう、やめて下さい……」
俺には、もう、この光景は耐えられなかった。
「降伏するのか?」
男は、両手を広げ、至福の表情になり、卑猥な空気をさらに増大していく。
「降伏して下さい! あなたが、その……、あまりにも惨めで、見るに耐えられません!」
「貴様には、あのドラゴンが、見えないのか? そうか、見た事が無いのだな、なら教えてやる、絶対的な力の差を!」
黒衣の男は、声を荒げ、ドラゴンに指示を出した。
ドラゴンは、真っ直ぐ俺に向かってくる。
俺の周りの兵士達は、蜘蛛の子を散らすように、敵味方関係なく離れていった。
ドラゴンは、その凶悪な鉤爪を俺に振り下ろした。
その風圧は、地面を削り、そこから舞った土や砂が、俺の姿を周りから隠した。
「エルフの女が、どんなものか興味があったが、仕方が無い……」
男は、残念そうな表情で、惨状を眺めていた。
視界がだんだん晴れていく。
そこには、ドラゴンが振り下ろした鉤爪を中心に深く土が、えぐられている光景が広がっているはずだった。
なのに、その中心の大地には、なぜか緑が残り、鉤爪も地面に到達していない様子……。
「どこか、おかしい……不自然だ」
黒衣の男は、鉤爪の先を注意深く観察した。
そこには、もう、この世にはいない筈のエルフの少女が悠然と立っていた。
「ば、馬鹿な……ありえん……」
「だから、言ったのに」
俺は、鉤爪を掴んでいる腕を振り、ドラゴンを地面に叩きつけた。
ドーン!
盛大な地響きが、辺りに鳴り響く。
そう、男のクリスタルは、あの悪評高い、ドラゴンシリーズの課金ガチャ、しかも外れだ。
目の前で、堪らず上空に逃げだした赤いドラゴンは、レッドドラゴン、通称、赤ドラさん、たしかレア度はSR、下から三番目の残念さんだ。
初めて引いた外れガチャをチャットで嬉しそうに自慢する初心者を思い出し、見るに耐えられなかった。そして、初めての実戦投入で、惨敗、意気消沈する……憐れだ。
「もう、終わり?」
俺は、ワザと可愛く首を傾げ、男に問い掛ける。まだ、あれが、あるだろ? せっかくだから使っとけや!
「この化け物め! ブレスを使え! レッドドラゴン!」
上空のドラゴンは、
見た目は、なかなか迫力がある。
やがて、ドラゴンの前に巨大な魔力の塊が完成し、それが吐き出された魔力と混ざり合い、俺に向かってきた。
ズドーン!
ブレスは、自動展開された、俺の障壁にぶつかり、爆音を響かせ、霧散していく。
「ブレスを防ぎ、無傷だと……、あ、あなたは、いったい」
「た、隊長!」
敵の陣営が、崩れる声が聞こえてくる。
でも、当然なんだよ。ガチャで引いた魔物は、スキルを付けて、レベル上げしないと、初期値じゃ、雑魚だよ。いや、赤ドラは、育っても雑魚か……。
「絶対的な力の差を見せてあげるわっ、ウォーターボール!」
俺は、水の初級魔法を唱えた。
弱点属性の攻撃を受けたドラゴンは、レジストできず、その、存在を消滅させた。
「初級魔法で一撃だと……、嘘だ!」
黒装束の腰が抜け、地面に崩れていく。
「今だ! 突撃しろ!」
姫の護衛が、勢い良く攻め始めた。
もう、勝敗はついた。
姫様は、何処だ!
俺の期待は、大きく膨れ上がっていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます