第5話 姫様

「助けて頂いてありがとうございます。私は、この国の第三王女、レティーシアと申します」

 金髪が美しい少女の洗練されたお辞儀に、俺は、鼻の下を伸ばし、ほえ〜と見惚れていた。


 流石、リアル姫様だ。


 周りの男達が、命を投げ出して、守るのも、納得のクオリティ。


「あ、あの〜」

 レティーシア姫が、困惑した表情で俺を見ている。

 見るのと、話をするのは、別だ。緊張する。何を話せば良いのか検討がつかない。


 そもそも、俺みたいな奴、相手にしてくれるのか?


 誰か助けて!


 ガシャ、ガシャ、ガシャ、


 騎士が近づいてくる音だ。渡りに船だ。俺は、姫様から、少し、離れる事にした。


「助太刀、ありがとうございます。私は騎士団長のバーナードと申します」

 老齢だが、今まで出会った人間の中では、最高レベルの二一だ。

 あと九レベル上げれば聖剣が装備できるようになり、魔王と戦う資格が得られる。頑張れ団長! そして、世界を救え!


「団長は、この国で一番、強いのですか?」

「あははは、若い時ならまだしも、老いには勝てません」

 自信満々に、笑顔で答える団長は、若い時は一番だったし、今でもトップクラスですよ、と語っている。

 あのレベルでトップクラスだとすると、この世界は、オフライン版に近いのではないかと考えられる。

 だとすると、課金ガチャのクリスタルが存在するのはおかしい……、課金は、オンライン版だけの機能だ。


 ふと、団長の後ろに、チョロチョロ動き、こちらの様子を伺う小動物の気配を感じた。

 この気配は、もしかして……。


「あの、そちらの方は……」

 俺は、悪戯な笑みを浮かべながら騎士団長に尋ねた。団長の顔が少し赤くなったような気がする。

 身長差を考えると、期せずして、美少女エルフの上目遣いを発動させたのかもしれない。

 大人の男を照れさせるとは……、恐るべし俺、いや、俺のキャラのスペック!


「あの〜」

 面白いので、俺は、更に、詰め寄る。団長が少女にドギマギしている様子は、歴戦の勇者も形無しといった所だ。こりゃ〜たまらん、愉快だ!


「こら! ソフィア殿に挨拶せんか!」

 堪らず団長は、後ろをチョロチョロしている小動物の首根っこを捕まえて、俺に差し出してきた。


 小動物の正体は、栗色の髪を後ろで束ねた少女で、多分、さっき、俺を背中から斬りつけてきた女騎士だ。


「あ、あの、さっきは、ごめんなさい……」

 胸の前で両手をモジモジさせながら、微かな声で謝罪してきた。なんて、可愛い仕草だ。お兄さんは、汝の全てを許すぞ!


  そう、かわいいは、正義なのだ!


「いいのよ、気にしてないから、あの時の、慌てん坊さんね。お名前は?」

「セシリアです!」

 団長の腕から逃れ名前を告げると、セシリアは俺に詰め寄って来た。彼女は、皮の鎧を着ており、その要所は金属で強化されていた。

 金属の胸当ては、左胸を覆っており、空いた方はユサユサと揺れている。

 なんて、けしからん胸だ。


「ソフィアさん、許してくれてありがとう」

 なんと彼女は、俺に、抱きついてきた。

 けしからん胸が、俺の身体に押し付けられ、声高に、その存在感を主張する。

 なんて、嬉しい、いや、破廉恥な娘だ!

 しかし、この国では、初対面の相手に抱きついて挨拶するのが礼儀なのか?


「こら、セシリア! 失礼だぞ、やめんか!」

 俺の意をくみ取った団長のバーナードが、セシリアの首根っこを掴み、俺から引き離してくれた。


「孫娘が失礼をした。誠に申し訳ない」

「別にいいわ、それよりも、ちゃんと鍛えてあげるのよ」

 その言葉を聞いたセシリアは涙目になっていた。後日、団長から厳しい訓練が課せられるだろう。

 だって、彼女のレベルは、かなり低い、あんな低いレベルで戦場にいる事自体が自殺行為だ。

 せめて、チュートリアルがクリアする頃の、レベル三に早く上がってくれ。


 団長に引きづられるセシリアに、激励の意味を込め、笑顔で手を振り見送った。


「ソフィアさん」

 姫様から、声を掛けられた。


 どうしよう、俺の心臓は、バクバクと大きく波打った。

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