第6話 伝説のユニコーン
「ソフィアさん」
姫様が話掛けてきた。
緊張で身体が石像のように固くなる。
「なんでしょうか?」
俺は、冷静さを取り繕う為、型通りの返事をした。
できれば、会話の主導権は、姫様が握っていて欲しい。
質問に、答えるぐらいなら俺だって……
「もしかして、私を避けてますか?」
えっ、思いもしない彼女の質問に、俺はパニック寸前だ。
そう、ここは、笑顔で乗り切るべきだ。
笑顔は、万国共通の友好の証、彼女だって、それで勘違いだと理解してくれる筈だ。
そして、俺は、自分で失望する程、不自然でぎこちない笑顔で返事してしまった。
今まで、万能の力を発揮していた仕草補正も、うまく発動してくれない。
「そうですか……、私は、エルフを裏切った国の王族ですもの、ハイエルフの貴方が嫌うのも理解できます……、ごめなさい。そして、皆を、助けてくれて、ありがとうございます」
出会った時よりも、深くお辞儀する姫様は、俺を、とても悲しい気持ちにさせた。
俺は、意識した女性と話をするのが苦手だ。
それは、きっと嫌われる事が怖いからだ。
目の前の女性も、同じ気持ちかも知れない。
誰だって嫌われるのは、嫌に違いない。
「僕は、貴方が嫌いなんかじゃない!」
俺は、自分の気持ちを、ありのまま伝える事にした。
言語補正が正常に機能していない。
むしろ、好都合だ。
俺の言葉に近い形で、君には伝えたい。
「他のエルフなんて、僕には、関係ない! だって、この世界で、知っている人は、貴方達だけなんだから!」
気持ちを叫び終えた俺は、自分の言動を振り返り、顔を赤くした。
彼女に気持ちは伝わっただろうか?
「私は、エルフを裏切った王族の血を引く者ですよ?」
「関係ありません! 貴方は、あなたです!」
うふふ……、
お互い目が合い、笑い合う。
あははは、
何やってんだ、俺たち!
「ごめんなさい、私、姫様と話をすると、緊張しちゃって……」
「ドラゴンを一撃で倒す人が、緊張なんてしないで下さいっ!」
姫様は、頬をプクーと膨らませた。
「あと、私の事は、レティーシアと、呼んで下さい」
「なら、私は、ソフィアでいいわ」
それから、俺たちは、お互いの情報を交換した。
その時、俺は、この世界に転移した事実は伝えたが、性転換やゲームの事は、記憶が曖昧な事を理由に伏せる事にした。
実際、現実世界の記憶が激しく欠落している事は事実なのだから、半分は本当だ。
そして、彼女の国、アトラース王国は、突然、隣国のランス帝国から侵略され、今は、王都が陥落し、国は、崩壊状態だという。
そして、彼女は、まだ無傷の、西部の辺境伯を頼って、移動の最中だという話だ。
「なんで、早く移動しないの?」
「さっきの戦いで怪我人が多く出たの……、そして、馬車や馬が足りないの……」
辺りを見回すと、確かに、怪我人を介護する者や、馬車の修理を試みている者など、それぞれ忙しいそうにしている。
俺は、魔力残量や、プレゼントボックスの中身を頭の中で確認した。
あいつの数が足りるのか心配だったが、予想より多くいた事に、少し落ち込んだ。
「あなたが、お願いするなら、助けてあげるわ」
俺は、悪戯な笑みをレティーシアに投げた。
「ソフィア、私を助けて」
彼女は、満面の笑みで返した。
そして、今度は頭を下げる事はなかった。
今の、俺には、それだけで、ご馳走だ。
「怪我人を、一箇所に集めて。お願いっ!」
俺が、近くにいた若い兵士にお願いすると、その青年は、耳まで赤くして、無言で頷き動きだした。
もしかして、俺に、メロメロなのかもしれない。
その間に、壊れた馬車を巡り、【リペア】の魔法で直していく。
「リペア!」
俺が魔法を唱えると、壊れた馬車は、光を帯び修復していく。
「見た事ない魔法だ、凄え!」
高性能な俺の耳に聞こえる、驚嘆や賛辞の声が心地よい。
この魔法は、この世界には存在しないようだ。
確かに、MPは消費するが、ゲームでもアイテム画面でしか使用できなかった。
アイテム画面が存在しないこの世界では、フィールドで使用できているのかもしれない……。
ただ、この魔法も、万能では無い、一定の耐久値を下回っている馬車は、修復する事が出来なかった。
そこは、感覚で掴んでいくしか無いだろう。
馬車は、荷馬車を含め十台程、修復する事ができた。
半数以上、修復したのだから、上々の成果だ。
「あ、あの、集まりました」
一息ついた所で、先程の青年が報告に来た。その動きは、まるで壊れかけのロボットだ。
その動きに、俺自身を重ね、微笑ましく思った俺は、少し背伸びをして、彼の頭に手を置き、礼を述べた。
「ありがとう」
「そ、そんな、礼なんて! こちらこそ、ありがとうございます!」
彼は、何故か礼を述べ、その後、完全に壊れたロボットのように歩き方を忘れ、直立不動のまま、動かなくなった。
こいつ、生きてるよな……
ちょっとだけ、青年の事が心配だが、次の仕事に取り掛かる。
怪我人の回復だ。
「エリアヒール!」
回復系の初級、いやエリアが付いてるから、一応、中級の魔法を唱えた。
怪我人達に、光が降り注ぎ、傷を癒していく。
「奇跡だ!」
「女神様だ!」
「かわいい!」
「嫁に来てくれ!」
様々な、賛辞に、俺は、手を振って応え、ヒールの効果が、俺の想像通りだった事に満足した。
そして、最後の仕事だ。
本日のメインイベント!
プレゼントボックスから、直接、奴らを召喚するのだ!
「我の呼び掛けに、応じよ! ユニコーン!」
自然と浮かんだセリフを述べると、眼前の空間が裂け、その深い闇の底から、角を生やした白馬が走って出てくる。
ユニコーンは、一匹、二匹では、止まる事なく、どんどん闇の底から駆け出てくる。
「伝説のユニコーンが、こんなに沢山……」
バーナード団長の開いた口が塞がらない……、大丈夫だろうか、この爺さん……
レティーシアの方を確認すると、彼女の笑顔もピクピクと引きつっていた。
その間も、ユニコーン達は、ウジャウジャと湧いて出てくる。
ユニコーンって、伝説の魔獣なのね、知らなかった。
だって、帝国が召喚した赤ドラと、同じレア度だし、なんと言っても、ユニ子、あっ、ユニコーンの事ね、まったく、飛べない上に弱いだけの、移動サポ専用魔獣だ。
合成の餌になるけど、持ってるスキルも、上昇するステも移動だけという、本物の外れだ。
それが、プレボに、千匹近くいたのだ。
だから、今、ここにいる人数分の三百匹、召喚したんだ。サービス満点だね。
さらに、絶滅危惧種だったユニ子も、伝説じゃなくなるし、ビックリだよ……。
俺達を中心に、ユニ子の大群が、辺り一面を埋め尽くした。
ヒヒーン、ヒヒーン、
ユニ子の鳴き声は、馬と同じだった。
「もしかしたら、馬に角を付ければ、ユニコーンじゃないの?」
「全然、面白くありません!」
レティーシアってば、冷たい……。
本当は、ユニ子に乗って移動したかったけど、なんだか、どっと疲れた。
プレボからの魔獣の召喚に、MPは消費しなかったけど、精神が酷く削られたようだ。
疲れた俺は、レティーシアと同じ馬車に乗り込み、
深い眠りに落ちていった。
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