第7話 ワイバーン襲来

 ユニ子、ウザい!


 俺は、心の底から、ユニコーンのユニ子達に叫ぶ。

 もう、ウンザリだ!

 近寄って来るな! この駄馬! ダーバ、ダーバ!


 それでも、ユニ子達は、俺の気持ちを無視して、寄って来ては、頭をなすりつけて来る。

 朝、目を覚まし、馬車を降りてからずっとだ。


 最初は、可愛いかったんだけどなぁ〜。


 溜息を吐くと、敏感な俺のエルフ耳がピクピク動く。

 ムムム、近くで、何か、とんでもない事件が起きているようだ。


「うふふ、もう、くすぐったい、やめてっ」

 ユニ子の鳴き声と兵士達の声でこの辺りは騒々しいが、俺の高性能エルフ耳は、この手のセリフは、決して逃さない。


 声の主は、おそらくセシリアだ。


 その方角には、ご主人様の俺より大量のユニ子がたかっている。


 その事実に、嫉妬した俺は、セシリアに会いに行く事にした。

 ふふふ、ユニ子の邪魔をしてやる。


 道を開けろ! この、駄馬供!


 俺のただならぬ気配に、ユニ子達は道を譲っていく。


 俺の行く、その先には、驚嘆の光景が広がっていた。


「あ〜ん、もう、くすぐったいって!」

 俺のユニ子達は、入れ代わり立ち代わり、セシリアの……、あの……、その、え〜と、胸、いや、おっぱいに頭をなすりつけている。


 心なしか、奴らの、目がエロい……、そして、セシリアの声も……。


「あんた達、何してるの」

 俺は、間に割って入り、セシリアを守る。


 邪魔されたユニ子は、俺の胸を見つめると、ぷいっと横を向いた。


 ま、まさか、こいつ!


 今度は、胸を強調する姿勢で、別のユニ子に迫ってみる。


 やはり、同様に、ぷいっと横を向く。


 お、ま、え、も、かぁ〜!


 俺は、ユニ子の角を掴み、己の胸へと引き寄せる。

 ユニ子は、必死で抵抗する。


 攻撃する意図が無ければ、ステータスの補正は無い。

 つまり、見た目どうりの力しか発揮されない。

 筋肉など一切ついて無い、美少女エルフでは、野性の馬、いやいや、伝説の魔獣ユニコーンには敵わない。


 ぐぬぬ〜、くっそ〜、あんな、けしからん乳より、俺の美乳の方が……。


「あ、あの〜、それぐらいで、許してあげて下さい」

 セシリアが、両手を組んで、お願いポーズをしている。この娘は、胸はけしからんが、小動物のような可愛いらしさがある。


 ふん、セシリアに免じて許してやる。


 俺が角から手を離すと、周りのユニ子達が離れていく、その時、奴らは、其々ペッと唾を吐くような仕草をした。


 ふん、今度、たっぷりと躾けてやる!


「ソフィアさん、ありがとうございます!」

「此方こそ、ごめんなさい、うちの子達が、迷惑を掛けて」

 あの駄馬供、今度、角を折って、本物の馬にしてやる。


 グ〜!


 あっ、俺の身体はくの字になり、手は腹を抑え、さらに、表情は自動的に、恥ずかしそうに朱に染まった。

 そういえば、こっちに来てから、まだ、何も食べてない。腹ペコだ。


「ふふふ、そろそろ、朝食が始まると思いますよ」

 そういうと、セシリアは俺の手を引いて歩きだした。

「さぁ〜、こっちに来てください!」


 さっきまで、ソワソワしていたユニ子達も落ち着きを取り戻して、ゆっくりとくつろぎ、休憩しているようだ。


「ユニコーンさん達が、一晩中、走ってくれたから、辺境伯領に予定より早く着きそうだって、お爺ちゃんが喜んでました」

 セシリアがお爺ちゃんと呼んでいるのは、バーナード団長の事だ。


 へぇ〜、ユニ子、やるじゃん。

 俺は、感心しながらユニ子達を眺めていると、騎士が集まっている場所に着いた。


 炊き出しは、今にも始まりそうだ。

 美味そうなスープの匂いがする。

ジュル、やばい、ヨダレが……。


「ワイバーンが襲ってくるぞ!」

 騎士の叫ぶ声が聞こえ、そちらを振り返ると、空を黒く染めながらワイバーンの群れが迫っていた。かなりの大群のようだ。


 騎士達は、慌ててワイバーンの方へと駆けていく。

 その時の掛け会う声や、指示を出す叫び声で野営地は騒然とした。


 俺は、置いてあった木椀を手に取り、スープをそれに注ぐ。

 そして、パンを手に取った。


 グ〜!


 お腹の虫も我慢出来ないようだ。


「何してるんですか?  ソフィアさんも来てください!」

 セシリアは、慌てて俺の手を引き、ワイバーンの方へ連れていく。


 グ〜、グ〜!


 俺の腹の虫は、激しく抗議している。


 ワイバーン狩りなんて、食事の後で良いじゃん!


 スープが溢れないように気をつけながら、俺は最前線に赴いた。

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