第86話 怒れる聖女

 ジャンヌは、ヒックヒックとべそをかきながら、地面に丸まり、小石をそこに擦り付け落書きを描いていじけている。

 止せば良いのに、子供が木の枝で、そんなジャンヌを突き、彼女の鎧がコンコン音を立てた。


「ねぇ、何を、怒ってるのよ」

 俺も子供に習って、彼女を枝で突く。


「貴様とは、口は聞かない」

 ジャンヌは、地面にのの字をいくつも描いている。

 何かの、呪文だろうか?


「じゃ、いいや」

 ツンツン突く、彼女は子供を惹きつけるようで、既に、三、四人の子供たちが彼女をツンツンしていた。


 ジャンヌは相変わらず、ののののののと地面を埋め尽くすのに必死、この呪文は、いつ発動するのだろうか。

 脳筋設定の癖に面倒くさい奴……。


「夏だ、昨年の夏、邪神の間での事は忘れない」

 ジャンヌをツンツンする子供の数は、十人を越える勢い、さらに、ツンツンに飽きた子は、ポンポンと彼女の頭を叩き出す始末。

 凄いぞ、ジャンヌ、流石、聖女だ。


 しかし、邪神の間とジャンヌ、なんだろう?


「夏といえば、水着を買ってあげたじゃない」

 そう、彼女のスキル構成は、俺の育てたジャンヌに酷似していた。

 課金スキルがズラリと並ぶ、廃課金仕様、こいつ、帝国の召喚に応じやがって……。


「あれは、水着ではない、ただの紐だ」

 いいじゃん紐でも、素早さの補正が付くんだぜ。

 大して防御力高く無いのに、鎧にこだわるなよ。

「いいじゃない、あなただって、楽しそうにクラーケンに先制してたじゃない」

 俺の脳内変換では、楽しそうに見えたぞ。


「私に紐を着せたことでは無い、邪神の間、その生贄の祭壇で、何をしたか思い出せ!」

 邪神の間……、生贄の祭壇……、昨年の夏。


 ジャンヌは、別名、脳筋の魔法使いと呼ばれる。

 彼女の固有スキルの数々、その効力は、魔法といってもいい程で、攻撃、防御に、バフ、デバフと多種多彩、仲間の回復だってしてしまう。

 それらは、MP、HPを消費せず、制約するのはリキャストタイムのみという、チートなスキル。

 普通なら、ジャンヌは、許されないバランスブレイカーだが、無課金でも手に入れることができ、かつ、ステの上限が低いので均衡を保っていた。


 そんな彼女を強くする為に、ある噂が……。


 夏、恒例の水着ガチャ、まず、これを装備させる。

 素早さを上昇させれば、リキャストタイムが短く有利になるのだが、さらに……、


「だって、あの頃、皆んなやってたじゃない?」

「邪神を無視して、祭壇に縛り付け、私に何度も何度も炎を浴びせたのは、お前だ!」

 え? だって、あの頃、生贄の祭壇で水着のジャンヌを燃やせば素っ裸になって、最速になるって噂が……、まぁ、フレンドリーファイヤーだから燃えなかったけど……。


「まあ、ごめんなさい」

「そうだ、先に邪神を倒せ!」

 そこかよっ!


「邪神を放っておいて遊ぶなど許せん!」

「ごめんなさい、邪神を見たら、真っ先にぶっ飛ばします」

「ふん、別に関係ない、お前は、私のマスターでは無いからな」

 彼女は目をそむけ、プンプンしている。


 あれあれ?


「ねぇ、ごめんって、ほら、ハロウィンイベントの時、皆んなで食べたパンプキンケーキあげるから」

「そ、そんな物、いらないっ!」

 えー、これランダムで基礎値、上がるんだぞ。

 課金すると、無料でもらえるオマケ、基礎値が上がるアイテムが無料だなんて、運営は太っ腹だと喜んだものだ。


「じゃ、クリスマスイベントの縫いぐるみ、これ欲しがってたよね」

 脳内設定では多分そうだ。


「縫いぐるみなんて知らない」

 ガバッと縫いぐるみを奪いとり抱きしめている。


「正月のおせち、バレンタインのチョコレート、そうそう、恵方巻もあるわよ! 皆んなで、あっち向いて食べましょう!」

 意外とアイテムボックスに溜まってるな……、気分で課金して忘れるとか良くあるし、あるあるだし……。


「恵方巻……、恵方巻食べる……」

 彼女に恵方巻を、ついでに、集まった子供たちにも、それを渡す。


 恵方って、どっちだ?


「じゃ、食べましょ!」

 分からないから、取り敢えず、商館のテラスを向いて食べた。


 どのステが上がってるか、楽しみだ。

 お? なんか運が上がった気がする、かもしれない……。

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