第37話 戦いの後で…… 前編

「何で、そんなこと言うのよっ!」

 それでも溢れた感情が行き場を失い、目に涙が溜まる。


「取り込み中のところ済まないが、礼を言わせて貰おう」

 レナードが、エドワードの横から近づいて来た。


「どうやら、君のお陰で勝てたらしい、感謝する」

 彼は、頭を下げ、壮年の戦士、ダグラスは、深々とお辞儀した。


 彼らの態度で、溜まった物が外に溢れ出ないように、目を手のひらで押さえ、


 エドワードを睨んだ。


 さあ、言え!

 感謝と謝罪の言葉、

「ありがとう」と「ごめんなさい」を!


「そうね、あなたは……」

 レティーシアは、まだ、身体を支えてくれてはいる。


 HPは……、半分、持っていかれた……、血を流し過ぎたか……。


「ありがとう、ソフィア、さっきは言い過ぎたわ、でもね……」

 彼女の声は、尻すぼみに小さくなり、最後は聞き取れなかった。


 次は、お前の番だ!


 今なら、全て、水に流してやる!


 レティーシアの支えを振りほどき、一歩、二歩と進んで行く。


「エドワード、さっきの言葉を取り消してっ!」


「それはできない、君は、間違っている!」

 てめぇ! 彼の言葉で我を忘れ、胸ぐらに掴みかかる。


「私が、どれだけ、あなた達の事を……」

 膝が支えを失い、大地に身体を引っ張られ、抵抗できないまま、崩れて行く。


 視界には、星がチカチカと飛び交いはじめた。


 地面に手を付く前に、エドワードがかがみ支えてくれた。


「心配したんだから……」

 ダメだ、もう……


 傷は、思った通り深かったようで、情けないが気を失った。


「それでも、君は、間違っている」

 その寸前、彼の嗚咽まじりの声が聞こえた気がした。


 気がつくと、エドワードの腕の中だった……。


 何これ! やばいし、キモい!


「は、早く、降ろして!」

 手足をバタバタとさせ、目一杯の抵抗をする。


「気がついたのか?」

 当たり前だ! バーカ、気絶しながら喋る奴は、いねぇよ、バーカ、バーカ!


「もうっ、恥ずかしいから、早く、降ろしてぇ!」

 くそ、黒歴史だ! 男に、お姫様抱っこされるなんて……。


 なんたる不覚!


「本気で、怒るわよ!」

 なかなか、降ろさない、エドワードに、俺の堪忍袋も切れる寸前だ!


「そんなに、怒るな」

 渋々、エドワードは、俺を降ろしてくれた。


 仏の顔も三度までだ。


 パンツ、お姫様抱っこ、あと一回、なんかしたら……。


「次、なんかしたら、本気で怒るわよっ!」

 エドワードから、急いで離れ、レティーシアの影に隠れた。

 レティーシアの流れるような髪の隙間から覗く、うなじを見ながら、気分を落ち着かさせる。


「この辺りで、今日は、野営をしたいのですが」

 エドワードは、レナードに申し出た。


 レナードは、ジークフリードに視線を投げ、彼は、頷き、了承した。


「どれぐらい、気を失ってた?」


「一時間ぐらいよ、ソフィア」

 一時間か……それでは、まだ、レナードは、俺達のパーティのリーダーが、誰なのか、知らないのだろう。


 普通なら、ジークフリードだからな……。


 さて、いつものように、野営の準備だ。


 屋根付きの立派な寝床と、たき火の準備をパッパッとこなす。


 その間、黒ローブを羽織った少年と少女は、キラキラとした熱い視線を送っていた。


 ウザそうだな……。


 彼らから、離れたところに腰を降ろし、横になる。


「彼女は、疲れている、話しかけるのはよせ」

 若い剣士の声がする。


 どうやら黒ローブコンビが、俺にちょっかいを出すのを止めてくれたらしい。


 ありがたい事だ。


 今は、ちょっと疲れていて、話す気にはならない。


 それにしても、【聖者の祈り】で身体が傷つくとは、想定外だった。


 あんなに血が流れるとは……。


 ゲーム脳をフル回転させ理由を考える。


【聖者の祈り】は、即死攻撃を身代わりで受ける補助魔法だ。


 ゲーム内では、術者のダメージ判定は単純で、対象が受ける筈だったダメージに、術者の補正防御力(物防、魔防)を引いたものが、被ダメになる。


 つまり、術者の被ダメージ=即死攻撃ー(対象防御力+術者防御力)だ。


 実は、即死攻撃でも術者にダメージが入らないという事も、しばしばあり、高レベル同士の対人戦では、お互い、【聖者の祈り】を発動させると、聖者狩という、カオスな戦いが展開される。


 それは置いといても、俺の魔防は、結構高い、【雷光乱舞】は強力な範囲攻撃だが、これほど、ダメージを負うのは不自然だ。


 理由は二つ思いつく……、


 一つ目は、対象がノーダメージだった事で、油断して、ノーガード(ゲームではありえない)で攻撃を受け続けた。


 まぁ、これは、最初から、エドワード達の防御力は期待していなかったので仕様がない。


 二つ目は、術者への攻撃判定の際、クリティカルの発生確率が異常に高かった。


 恐らく、これがビンゴだ、この世界の法則が、即死攻撃=クリティカル発生率が高いと判断したのだろう。


 だから、単純にHPを奪うだけの筈が、クリティカルヒットで身体に傷を負わせ、血を奪った。


 油断禁物って奴だな……。


 身体を起こし、両手を伸ばし、気合いを入れた。


「お腹、空いたわ、早く、準備して」


「今、作ってるから、もう少し、待っていろ!」

 エドワードは、たき火の炎を巧みに操り、鍋を上下にふるい、何やら、炒めている。


 その姿は、まさに中華の王様だ!


 そして、その中華鍋、どこに隠し持っていた!


 鍋に、酒をかけ、ボウと鍋から炎が立ち上がり、

 食欲をそそる香りが辺りに広がる。


 ジュルリ……


 美味そうだか、


 俺は、決して、餌付けされない。


 そう、決して、絶対に、誓ってだ!


「早く準備して、そして、食事が終わったら、話し合いよ」


 そう、エドワードも、レティーシアも、皆、その話には、触れない。


 でも、その話は、しっかりするべきだ!


 たとえ、満足な答えが得られなくても、逃げるべきではない。


「私は、もう冷静よ、食事は、楽しくしましょう」

 べつに、責任の追及や、糾弾をする訳ではない。


「私は、みんなの事が、もっと知りたいの」

 ただ、知りたい、理解したいだけなのだ。

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