第18話 集合

 クララはとても不機嫌だ。


「え〜〜っ! お菓子屋さんに、まだ、行ってないのに〜〜」

「駄目だ、クララ、今日は戻るぞ!」

 駆けつけたジークフリードが、さっきからずっと城に戻ることを主張しているからだ。


 兄妹の感動的な再会だ。そっとしておいてやろう。


「レティーシア、町へ戻りましょう」

 ニーベルン兄妹とは、ここで、お別れだ。いろいろ楽しかったぞ! 達者でな!


「まて! ソフィ、君もだ!」

 ジークフリードの奴、呼び捨ての次は、勝手に愛称を付けやがって!


 それでも、彼は、辺境伯の坊ちゃんだ!

 お金をたんまり持ってるに違いないっっ!!


 ニコッと笑顔で首を傾け、ジークフリードに手を差し出した。


「なんだ! その手は!」

 あっ、エドワード、いたのね……、お前、ケチっぽいもんな。

 金の無い奴に用はねぇ!

 ぷいっと首を振り、ジークフリードの方へ、近づく。


「その手は、なんだ……」

 ジークフリードの奴がおかしな事を聞いてくる。

 もうっ、じれったいなぁ〜〜。


「やだ、その……、町で使うお金を……」

 もうっ、いけず、言わせるなよ、恥ずかしい、お前、あれか、エスなのか?


「君も、一緒に城に帰るぞ!」

「なんでっっ!」

 いやいやいや、ジークフリード、いや、ジーク君、城に帰っても、何も無いじゃないか!


「君が派手な魔法を使うから、町は大騒ぎだ!」

「いや、あれは、範囲限定だから、町に被害は無いはずよ!」

 そうだぞ、もっと凄いのあるんだから、広範囲殲滅魔法なら、こんな町、消し飛ぶぞ!


 エドワードが、俺の肩を掴んだ!

「黙れ! 君は、ならず者を仕留め損なったんだそ!」

「何よ……、仕様がないじゃない……」

 くそっ、黙れ、エドワード、どっか行け!


 まあ、落ち着けとジークフリードがエドワードの腕を握る。

「エドの言う通りだ……、ソフィ、君でも勝てない相手がまだ近くにいるかも知れない、だから、皆で戻るぞ!」

「そうだ、ジークフリード様に従え!」

 エドワードが、畳み掛けてくる。


「それに、そ、その、お前は、怪我をしている……」

 えっ! なに、こいつ……。

 エドワードの視線は、俺の腕を捉えていた。


 服の袖は破れ、大剣を受け止めた時に流した血で赤く染まっている。


 彼は俺の腕を見つめ、そして、目が合うと視線を逸らす。


 くそ、馬鹿にしやがって、こんな怪我、平気なんだからねっ! あと、泣いてないからね!

「大丈夫よ! これくらい、馬鹿にしないで!」

 ぐすっと鼻をすする、悔しいとか、痛いとか、これぽっちも思ってないぞ!!


 ゴン!


 イタイ、ジークフリードの奴が、拳を俺の頭に落としやがった。


 頭を両手で抑え、くぅ〜っとジークを涙目で見つめる。


「ソフィ、我儘もそこまでだ! あと、その娘は誰だ!」

 あれれ、それ聞いちゃうの?


 彼は、フェンリルのチビを指差している。チビは、まだ、人化したままだ。

 確かに、露出が多いし、胸も大きいから、気になるかもしれない。

 彼女は、俺とお揃いの銀色尻尾をパタパタと振り、愛くるしいまなこで、「ねぇ、なになに?」と俺を見る。


 やばっ、可愛ええっっ!


 しっかりとジークフリードの欲望から守るように、彼女を両手で抱き寄せる。

 もふっとした感触と大きくて柔らかな胸が心地よい。

 彼女のケモ耳に、俺は頬を預け、彼女はこそばしいのか、うーんといった表情で両目をつむる。


「この娘は、私の相棒、とても強いのよ!」

 てめぇ、チビに手をだすなよ! 彼女を彼から少しでも遠ざけようと、ギュッと抱く。


「はぁ〜〜、どこから……、いや、聞くのはよそう、その、獣人の娘もその格好では目立ちすぎる……、早く、城に戻るぞ!」

「えぇ! お兄ちゃん、僕の格好にケチつけるの?」

 チビはカチーンときたのか、俺の手をすり抜けると、白い毛を逆立て、肩を怒らせ、ジークフリードに迫っていく。

 しかし、外見は、小さな少女なので威圧感がまったくない。

 ジト目のロリ巨乳、露出が多いので胸がプルンプルン揺れること、揺れること……、その筋にはご褒美でしかない状況。

 しかも、ジークフリードに、片手で止められ、それでも、うんうんと懸命に進もうとする姿は、老若男女の心をくすぐるに違いない。

 心根はペット、愛玩動物ということか……、愛玩? ちょっとエロいな……。


 それにしても、片手? チビを? まぁ、チビも、本気じゃないからな……、多分……。


「おい、犬、おとなしくしろ!」

 エドワードが、また、余計な事を言っている。


「犬だぁ〜っ!……、僕は、フェンリル! 犬と一緒にすんな!」

 いえいえ、あなた、その、行動が犬ですから!

 見た目も、ケモ耳、ロリ巨乳だし、残念。

 てかっ、可愛い!


「フェンリル? あの神話に出てくる?」

 チビは、自分の言葉に「あれ、でも、犬だったような気も……」と小さく囁き悩み、うんうんと無い脳みそをフル回転させている様子、そろそろ、煙が出てきてもおかしくない。


 エドワードの方は、「あれが、フェンリル、信じられん……」と首を傾げている。

 あいあい、そうでしょう、そうでしょう。うちのチビは、どこのよりも可愛いからな。


「さぁ、シア姉様、私とお菓子屋さんに行きましょう」

 おお、流石クララ、初志貫徹、わが道を行くだな! 


 お兄さんは、そんな君を応援する!


「私も、付いていくわ!」

「おぉ〜っ。ご主人、僕も行く! 行く行く!

 尻尾をブンブンと振りながらチビも同意して来た。

 食べ物と散歩の好物二つに大喜びだ。

 でも、こいつ、本当は、俺から離れたく無いに違いない。

 生前は、俺に、ずっとべったりだったからな。


「おまえら……」

「いい加減にして」

 エドワードの言葉に、全力のレティーシアが被せてきた。


「もうっ、いい加減にして!」

 レティーシアは、繰り返す。

 彼女は、顔を真っ赤にして怒っている様子。


「ソフィア、お願いだから、城に戻りましょう」

 彼女は、両手に拳を握り、俺に懇願してきた。


「さぁ、戻るぞ」

 ジークフリードが、同意を求めてくる。


 ジークフリードは、無視出来るが、レティーシアは、そうはいかない。

 彼女の感情は複雑だ。

 ほら、今もぷるぷると身体を震わし、大きな瞳が湿っぽい。

 何か、責任を感じてる?

 なぜ?

 相手の目的は、彼女だったことは、まだ、誰にも告げてない。


 でも、ずるい。


 彼女の瞳のうるうるに、俺もクララも同じ結論に達したようだ。


「戻るわ……」

 俺とクララは、同時に返事した。


「では、いくぞ」

 エドワードが俺の手を取り引っ張った。

 大きな手が、力強く包み込む。

 突然の事に、不本意な事に耳を赤くしてしまった。


 耳……、見えてないよねと、確かめるように髪をいじる。


 でもこいつ……、

「ちょっと、いたい……」

 そんなに力を入れるな!


「すまん」

 エドワードは、やけに素直で、気持ち悪い。

 手の力は抜け、優しくなった。

 それでも、彼は、その手を離さない。

 俺は、おえっとうつむきがちに顔を横に背け、小さな抵抗をした。


「待ってっ〜〜!」

 テテテっとクララが駆けてついてきた。


 こうして、城下町見物は、見物しないまま終わった。

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