第19話 チビドレス

 城のテラスから見える夜景は美しい。


 そんな訳も無く、暗闇が果てしなく広がってるだけだった。

 いや、遠くに、ぼんやりと町の明かりは見えているが、派手さはない。


 それはネオンといった変化が存在しない、つまらない光景だった。


 暇だ……。


 はぁ〜、


 テラスの手すりに頬を付け溜息を吐く。


 城に着くなりチビは、メイド軍団に捕まり連れて行かれたままだ。

 その時、チビは泣いていたかもしれない、メイドとは恐ろしいものだ。


 他の連中も、どっかに行き、俺は、放ったらかしにされている。


 町に冒険者ギルドとかあるかなぁ〜。


 カタっ、


 振り返ると、何時ぞやのロボット兵士君がたっていた。城内の警備か?

「久しぶりね、お仕事、ご苦労様」

 元気だったかロボット君!


「は、はい」

 固いなぁ、

「そんなに、畏まらなくても良いのよ」

 もっと肩の力を抜けよ。

「は、はい、あの昼間は大丈夫でしたか? 町に賊がでたとか」

「ええ、大丈夫よ」

 俺は、ドラゴンを一撃で倒す男だぜ、忘れたか?


「そうですか、なら、良かったです」

「仕事は、大丈夫なの?」

 サボってると怒られるぞ!


 う〜ん、ロボット君は固まったままだ。生きてるか?


「ソフィア様、食事の準備が出来ました」

 メイドは少し息を切らして走ってきた。


「部屋から出る時は一言いって下さい」

 彼女は少しだけ頬を膨らませている。


「ごめんなさい」

 部屋でジッとなんてしてられるか! しかも、お前も、どっか行ってたろ?


 釈然としないが、どうせ暇だし、お腹もすいた。


「またね、騎士さん」

 じゃあな、ロボット君、もう会うことないと思うけど。


 しかし、夕食かぁ、テーブルマナーとか厳しそうだな。

 う〜ん、まぁ、いいや、何とかなるだろ。


「チビ、どこにいるか知らない?」

「お連れの方なら……、先に、食堂に行ってますわ」

 メイドの含みのある返事も気になるが、チビの奴、俺を放ったらかした罰を与えてやる。


 食堂に着き、朝食の時と同様にメイドが引いた椅子に腰を下ろす。


「あれ、チビがいないわ」

 メイドがトントンと肩を叩き、隣を指差す。


 隣には、青いドレスを着た小柄な少女が座っている。

 俯いている彼女は、その白くて長い銀髪を大きなリボンで結び、耳をピクピクとさせている。


 耳をピクピク……、


 椅子からはみ出た尾は白銀……、


「こっち向きなさい」

 青いドレスの少女は、そっぽを向く。

 両手で少女の顔をこちらに……、くそっ、動かねぇ……、


 なら、


「ねぇ」

 席を立ち、少女を見ようとする、クルっと反対側に顏を逸らされる。


「ほらほら、ご主人様に、ちゃんと見せてあげなさい」

 メイドが、チビを持ちあげ立たせた……、すげぇな、メイド……、


「ご主人、見ないで……」

 チビは、スカートの裾を掴みプルプルと身体を震わせている。

 きっと顏は真っ赤だ。


「青、似合ってるわね」

「そうでしょう、素材が良いから、何を着せても可愛いけど、やっぱり青が一番なのよ」

 メイドが自慢気に相槌を打つが、お前、俺を放ったらかしてチビで遊んでたのか、くそっ、羨ましい。


「ご主人……」

 目に涙を溜め、真っ赤な顏でチビは俺を見つめてくる。流石のフェンリルもメイドには敵わなかったらしい、俺に似たのか?


「チビ、可愛いわ」

「ご主人、あの人達、こわいっっ」

 うんうん、怖かったね、チビの頭を撫でてやった。


「あんまり乱暴に髪を扱わないで下さい!」

 やべ、メイドに叱られた。彼女は、「長い髪は整えるの大変なんですからね」とブツブツと呟いている。


 コホン、


 咳払いの方を見ると、辺境伯が立っていた。


「もう、いいかな?」

 表情は穏やかだが、その言葉には重みがある。


「ごめんなさい」

 思わず謝罪をしてしまった。


「さて、食事を始めるか」

 食事の前に祈りなど無く、其々が、食事に手をつけ始めた。


 会話する者もなく、静かに食事が進んでいく……、青いドレスを着た少女を除いて。


 チビが使う食器はフォークのみだ、肉はフォークで刺し、丸ごと口に運び噛み切ってたべる。

 スープは食器ごとのみ、口の周りを汚す。


 チビ、俺は、お前を、そんな娘に育てた覚えは無いんだからね!


 あははは、


「ソフィア殿の従者は元気が良いな」

 その様子に辺境伯はご機嫌だ。


「おぉっっ、僕は、元気なのも取り柄だからねっ」

 尾をバッタバッタと振っている。てめぇは、元気だけが取り柄だろ! チビの後頭部を叩く!


「いてぇ、ご主人、何、怒ってるんだ?」

 口の周りがみっともないので、拭いてやる、たくっ、手間がかかる。

 チビも口の周りが綺麗になるのは、気持ちが良いのか、大人しく目をとろんとさせた。


「大事なんだな」

 ジークフリードが話し掛けてきた。


「そうよ、この娘は、私にとって特別なの、だから、この娘の失礼は許してあげてね」

 こいつは、相棒だからな。


「さて、エルフの姫君、我々の願いを聞いて貰えるかな?」

「私に、何をさせる気なの?」

 辺境伯の問いに疑問をぶつける。それにしても、突然だなぁ、空気、読めよ!


「我々の願い、それは、王都奪還、そのために、息子と一緒に王都に行って欲しい」

「ソフィア、私からもお願いします、そして、もし、機会があれば、お父様、いえ、生き残った王族を助けて下さい」

 そうか、王族、レティーシアの家族は安否不明か……、息子? ジークフリードと一緒にってことだな。


「一つ、聞いていいかしら、鍵って何なの?」

 そう、アンジェラが確か言ってた、レティーシアが【鍵】だって。


「それは王都を奪還した時に、全てを伝える、それではダメかな?」

「考えさせて貰うわ」

 やっぱり、教えてくれないか……。


 王都奪還か……、アンジェラ達に負けた、いや負けた訳ではないけど、丁度良い機会かもしれない。


「いえ、やっぱり引き受けるわ」

 俺の返事に、辺境伯は明らかに驚いていた。


 くそっ、焦らせば、いろいろ良い条件が引き出せたかもな。


 ふと、ジークフリードと目があった。


 彼の笑みに俺の胸は何故かドキドキした。


 俺は、男なんだからねって、キッと睨み返してやる。


「ご主人、おかわり」

 チビが、空の皿を俺に差し出した。


 全く、この娘は……、


 おかわりは無いので、耳の付け根をかいてやる、いつものように、チビは目を細め手をピクピクと動かす。


 さて、明日から、アンジェラ対策を考えるか……、その前に、風呂だな。


 風呂……、今日は、チビと一緒に……、こいつの胸……、いやいや、でもでも……、


 いらぬ妄想に、ぶんぶんと首を振り邪念とたたかう、いつしか時間は経っていった。

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