第14話 クララちゃん

「さぁ、次は、お菓子屋さんいくわよっ」

 ジークフリードの妹、クララは、張り切って先頭を歩いていく。


 彼女は振り返るなり、全くない胸を張り、自慢する。

「本当に、美味しいんだからね」


 おかっぱ頭で胸がない、さらに、その、可愛いらしい仕草や発言から、小学生ぐらいだと思っていた。


「何? クララちゃん」

 クララと目があったので、からかう。


「ちゃんは付けないで、私は、一五歳なのよ、立派な大人の女性なの」

「わかったわ、クララちゃん」

「ちゃんいうな!」

 ぷるぷるしながら、必死で訴える、クララは、とても可愛い、やっぱ、持って帰ろうかな、それでも、彼女の目が潤んできたので、


「クララ、ごめんなさい」

「いいわ、私は、大人なのよ、だから、許してあげる」

 呼び捨てするだけで、許してくれるなんて、チョロいぞ、クララちゃん!


 目指す、お菓子屋さんは、町の中心部にあるらしく、通りには人が溢れてきた。


「クララちゃん、ちょっと待って!」

 彼女は、振り返ると、あかんべ〜をして、ぷいっと前を向いた。

 いちいち子供ぽいぞ!


 いや、しかし、このままでは、後とはぐれる。


 でも、子供を人混みの中で、一人にするわけにもいかない。


 まずい、見失う!


「クララ、待って」

「いやよ」

 もう、駄々っ子だなぁ。


「あなたしか、知らない、とっておきなんでしょ」

「そうよ、私が見つけたお店よ」

「なら、あなたが案内しないと、みんなが迷子になるわ」

 彼女は、一生懸命、考え始め、何故か、頬を赤く染めていく。


 この娘、何、妄想してるの?

 やだ、怖い……、


「えへへ、そうね、みんながそこまで言うなら、私が導いてあげるわ!」

 いえ、お願いしたのは、俺だけだぞ!

 クララちゃん!


 さて、後を振り返ると……くそっ、はぐれた!


 ジークフリードも、マイペース野郎だからな。


 家来のエドワードが俺達とはぐれるのは分かるが、レティーシアは、何故? 町に来てからは、何故か、距離があるような……、気の所為かな……。


「えへへ、早く、みんな、いらっしゃい」

 クララちゃんは、相変わらず幸せそうだ。


 ゲームなら、マップで俯瞰ふかんすれば良いが、ここでは出来ない。

 当たり前だが、それが出来る魔法など俺には無い。


【フライ】を発動させるか?

 町中で?

 いやいや、それは、目立ち過ぎるか?


 いや、飛ぼう、悪目立ちしたら、あいつの所為だ!


「食うか?」

 目の前に、頭越しに焼き鳥が差し出された。


「何処にいたのよ?」

 差し出し主に、疑問と不満をぶつける。


「ちょっとな、美味そうな、匂いを嗅いだからな」

 ジークフリードの返答に、衝動買いしたのねっとキッと睨む。


 兄妹揃って、いつもバラバラだな!


「クララは、何処だ」

「クララちゃんなら……」

 あれ? ツッコミがない……、近くにいない!


「どこ?」

 俺は、パニック寸前だ。


 子供を迷子にするなんて!


「そうか、何、あいつは子供じゃない、一人でお菓子屋さんに行ったんだろう」

「そうですね、クララ様なら、一人で先に食べ始めてるかも知れませんね」

 ジークフリードも、エドワードも、平然としている。


 多分、いつも、バラバラに行動するのだろう、B型だから……。

 それでいて、最後には辻褄が合うのだろう、兄妹だから……。


 でも、今日のクララは、皆を案内する事が目的に、すり替わっていた筈だ。


「実は、店なら分かるんだ」

 ジークフリードは、事も無げに宣言した。

 それを、俺は、訝しげに見つめた。


「あいつの町での行動は筒抜けだ」

 クララの兄は、自信たっぷりだ。


「本当に、大丈夫なの?」

 俺は、ついに口に出した。


「心配しなくても良いぞ、これでも辺境伯の身内だ、この町で、手出しする者はいない」

「そうです、辺境伯の持つ軍事力は王国一、そして、王国で二番目の権力者、貴様は、もっと、敬うべきだ」

 えっ、辺境伯って、辺境に左遷された貴族じゃないの!

 城で姫様、辺境伯を叱っていたような……。


 心配し過ぎか?


「大丈夫かな?」

 首を傾げながら、レティーシアを見つめた。


「私には、わからないわ……」

 城での毅然さは無く、彼女は心配そうに戸惑っていた。それは、当然かも知れない、俺も、レティーシアも、部外者なのだから。


 俺達は、自信満々と先導する、ジークフリードについていく。


 そして、目的のお菓子屋さんには、クララは、いなかった。


「エド、町の者から情報を集めろ!」

「はっ!」

 エドワードが走っていく。


「くそっ!」

 ジークフリードは舌打ちすると、小さく地面を蹴った。

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