第13話 ダブルスキル

「あら、ジークじゃない、いつもの席、空いてるわよ」

「よう、女将おかみ悪いな」

「気にしないで、そのかわり、たっぷり食っていくんだよ」

「俺を誰だと思ってる?」

「大食いジーク坊やよ」

「そのとうりだ!」

 飯屋の女将おかみとジークフリードは、肩を叩き合い、ギャハハと笑い合っている。


 町に入ってからの此奴こいつには、高貴さが全く感じられない、何処にでもいる、いや、飛びっきりの体育会系の兄ちゃんだ。


 城の時とは、まるで、人が違う。


 店に入ってからも、至る所から声がかけられる。


「よお、ジーク元気か?」

「よう、トーマス、かみさんは元気か?」

 彼は、質問を質問で返し、


「ジーク、俺にも女の子、紹介してくれ」

「ようジム、今度、訓練に付き合ってくれ」

 要求には、依頼で返答する。


 声は掛けられるが、会話が成立しない。

 流石、B型体育会系だ。


 それでも、皆、笑顔なのだ。


「ジークフリードは、人気者なのね」

 その様子に、思わず口を滑らした。


「そうだ、だから、お前は、もっと敬うべきだ」

 偉そうなエドワードの声が癇に障る。


 人柄と、統治の素晴らしさは、認めるが、


「いやよっ」

 小さな声で、大きく否定した。


「みんな、座ってくれ」

 ジークフリードが、最初にレティーシアを座らせ、その後、次々と、席に座っていく。


 くっそ〜っ!


「何で、あなたが隣なのよ!」

 レティーシアの隣に座るのを邪魔したエドワードを、ジトっと睨みつける。


「ふん、私もお前の隣など不快だ」

 エドワード、お前、俺の邪魔したいだけか?

 怖い人達がするように、顔を斜めにして、下からジトジトっと強く睨み付ける。


「顔を近づけるな!」

 彼の顔が、怒りで赤くなるのが分かる。


 おら、おら、席、譲れや!


 下から突き上げるように睨み、奴の肩を掴む。


 そこを譲れや!


 奴は耳まで赤くして、困ったように目をそらしている……え? なんか、照れてないか?


 あれあれ、ま、さ、か……、ジト目で上目遣いの二重詠唱、いや、ダブルスキルか、どちらにしても、この攻撃は……、エス属性の筈だ!


「ソフィア! やめてあげて、エドワードが困ってるわ」

 レティーシアが、俺を諌め、


「エルフの姫君、からかうのは、そこまでにしてやってくれ、此奴は、女に耐性がない。エドも、ここは、城ではない、だから席順に意味などない」

 席順、上座とか、下座とかのアレか?

 いや、それよりも、エス耐性が無いだと!


「礼儀を知らん、此奴が大嫌いなだけだ!」

 さらに「あんたなんか大嫌いなんだからね! 」 と言うエドワードを見ながら、身震いした。


 奴はエム属性……、でツンデレの希少種?


 それでも、己の主人を一番の上座に座らせる為に俺の邪魔をするのは許せん!

 そして、おそらく俺は、一番下座だ、多分……まぁ、その点は気にならないが、


「器の小さい奴っ」

 ふんっ、町の大衆食堂で席順を気にするとは、小さいぞ、小さい奴だ!


「なに! 貴様が無知なだけだ!」

 エドワードの顔がやばい、また赤いぞ。


 俺の蔑みが喜ばしたのか?  いや、今は、マジで怒ってるのか?

 此奴の行動には、疑問が色々あるが、それよりも、


「誰も、私のこと、エルフって気づかないわね」

 町に入ってからも、それ以前からも、俺の事を、ハッキリとエルフと断定したのは、帝国の雑魚と、レティーシア姫と辺境伯親子だけだ。

 それに、エルフは、多分、この国では、物騒な存在になるんじゃないか?


「エルフを見た事ある者など、この国には、いないからな」

 ジークフリードの言に、俺は、髪をかきあげ耳を出す。


「確かに、君の耳は普通の人より少し長いし、髪の色も珍しい」

「なら、なんで?」

「普通より、少し変わってるだけさ、エルフが、この国にいる筈ないし、我々を助ける筈もない」

 納得いかないので、レティーシアを見つめる、あの時、助けたのに、彼女は断定していた。


「それは、あなたの髪の色と名前……」

 彼女は、何故か、言い淀む。


「そう、君の髪色と名前、現れた場所で分かるのさ、王族と辺境伯だけは、君がハイエルフ、つまり王族だということが、そして、君は否定しなかった」

「そうよ、私はエルフ、そして最後の……」

 え? 俺は、何を話している。混乱して、言葉が途中で詰まる。


「君は、記憶が無いらしいが、いったい、どこまでが本当なのかな?」

「私は……」

 キーン、頭に金属音が響く、イタイ……。


「これ以上は、ここでする話では無いな」

 ジークフリードが話を打ち切った。


「よし! エド、いつもの、面白い話をしろ!」

「ジークフリード様、勘弁してください」

 無茶振りされた、エドワードは、なんだか嬉しそうだ。


 こめかみを抑えながら、顔を上げると、出口に向かう一人の客が目に入った。


「早く、いつものお願いっ」

「クララ様まで、やめて下さい」

 エドワードは、幸せ者だ。


「イライラするわね、早くしなさい!」

「お、お前は〜」

 俺も、トドメを刺しにいく。


「エドワードさん、私も見たいわ」

「ひ、姫様まで……」

 トドメを刺したのは、レティーシアだ。


 ついに、エドワードは、物真似を始めた。

 つまらない物真似だ。


 それでも、ジークフリードとクララの兄妹は、大笑いだ。

 俺とレティーシアも、付き合って笑った。


「ヒヒーン」

 エドワードが、涙目で馬の鳴き真似をした。


 あははは、


 俺は、本気で笑い、いつの間にか、頭痛も治っていた。

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