第61話 思惑

「今回の用件は何ですか、我々、北部都市国家群の商人は、王国への協力は、惜しみませんよ」

 北部都市国家の商人を纏めているらしいカラムと名乗った髭の青年は、テーブルに両肘を突き手を組んだ。


 ジークフリードも同様に肘をつき、更に、彼はそこに顎を乗せ、少し不遜な態度で返事した。


「我が国への協力を惜しまないとは嬉しいですね」


「私に、含む所はありませんよ、これは、貴方だからこそです」

 髭のカラムは、少し慌てた様子だ。


「貴方には、申し込みが沢山あるのでは? 例えば、伯爵からは、ありませんでしたか?」

 ジークフリードは、「伯爵」という単語を強調するように言う。


「特には、いや、そうですね、兵糧の要請や、我国の情勢を聞かれぐらいですね」

 カラムは、完全な否定は躊躇った。


 俺は、その様子にため息を吐いた。


 どうやら、ジークフリードは、髭のカラムが伯爵とやらと浮気をしていると疑っているらしい。


 彼は、自分のハーレムを王国と例えちゃうぐらい、根っからのアレだ……


「私達には関係ない話ね……、レティーシア、外に出ましょう」

 なぜ、ジークフリードの茶番を見ていなければならないのか理解できない。


 レティーシアの袖を引っ張り、彼女を促した。


「ちょっと、待って下さい!」

 髭のカラムが慌てて引き止める。


「ジークフリード様のお隣の女性は、レティーシア姫とお見受けしますが?」

「そうよ、でも、今は、関係ないでしょっ」

 姫だから何だというのだ……レティーシアは、女の子だからな!


 お前ら、王国の勢力争いには関係ない!


 あっ、なんか、イライラしてきた!


「もうっ、来る途中、一悶着あって、お腹空いてるのよ、だから、もう行くわよ!」

 ソフィアの発言に仲間たちは呆れた。

 肉を一番食べていたのは彼女だったからだ。

 何という食いしん坊!


「ソフィア、少し我慢しなさい、そういうのも大切よ」

 レティーシアは、ソフィアを諌めた。食べ過ぎはダメよ!


「一悶着とは、大変でしたね、ここは、安全です、ゆっくりくつろいで下さい」

 髭のカラムは、取り繕いながら、姫の隣にいる銀髪の少女が、噂の魔法使いだと知った。


 彼女は、「ここは、怪しいから姫様を置いておけない(レティーシア、外に出ましょ)」と述べ、


 更に、「襲わせたのは貴方でしょ(来る途中、一悶着あって)」と鎌をかけ、


 「もしそうなら容赦しない(お腹空いてるのよ)」と脅してきた。


 侮れない女だ!


 男に対しても、物怖じしないその物言いは、ライバルのあいつにそっくりだ。


 あいつは、危ない橋を渡っているようだが……


 南部国家連合の商会元締め、栗毛のあいつを思い、


 「今回は助けてやる」

 と呟いた。


 その為にも、


「この話は、姫様にも聞いて頂きたい」

 と彼は、レティーシアを見つめた、


 彼女は小さくコクッと頷いた。


「実は、伯爵様は、姫様の身を御心配されてまして、宜しければ、私達の船で北まで送りたいのですが?」

 髭のカラムにとって、これは、何方も裏切らない提案だった。


 しかし、


「船なら、王国も所有している、その必要はない」

 ジークフリードは、勿論、断った。


 彼にとって、カラムから「伯爵が姫様の身を御心配されている」という言葉を引き出せたのは、収穫だった。


 それでも、まだ足りない……


 ジークフリードは、ソフィアに話を振る。


「ソフィは、どう思う?」

 彼女なら、もっと……


 話を振られた俺は、大混乱だ。


 新たな単語、「船」、これは、何の例えだ?


 王国は、ジークの「男の王国」だろう、伯爵も似たものを作っている。


 彼らは、欲望剥き出しで、男達を奪いあい……うげっ……


 いや、考えるのはよせ、視覚化は危険だ!


 いや、もしかしたら、髭のカラムは中立の立場なのか、いやいや、あの似合ってない髭は、いかにもって感じだが……


「私は、信用できない王国の船に乗るのは反対よ」

 取り敢えず、ジーク王国には入らない、


 そして、


「貴方はどっちなの? それが言えない理由でもあるの? もし助けが必要なら言って頂戴」

 カラム、お前は、ノーマル、アブノーマル、どっちだ! もし、無理矢理だったら、俺が助けてやる!


 俺は、諸悪の根源、ジークフリードをチラリと睨み、彼は、その時は、訓練場での決着をつけると頷いた。


 良い度胸だ!


 ソフィアの問いは、カラムにとって、待ちに待ったものだった。


「私は、何方でもありません、ただ、助けが必要なひとなら、心当たりがあります」

 なんだと、カラムは、両刀だと……


「もし、助けて頂けるなら、貴方が望むものを差し出しましょう」

 カラムは、ニコリと微笑みかけた。


「そんなもの、私は要らないわ、ジークフリードにあげて」

 きゃっと身震いしながら、ジークフリードに渡すことにした。


 カラム、お前の身体など、俺は要らん!


 やるなら、ジークフリードにやれ!


「ソフィアが要らないなら、それは、私が受け取ろう」

 ジークフリードは、カラムを受け入れた。


 すまん、エドワード!


「では、我々は、為すべきこと事を為し、貴方の船に乗るとしよう」

 ジークフリードは宣言した。


「行きましょっ!」

 俺は、立ち上がり、レティーシアを引っ張るが、彼女は、伏し目がちに細やかな抵抗をした。


「えっ、でも……」

 彼女はジークフリードの方を見ている。


 くっ、こいつが理由かぁ〜っ!


 くっそ〜、


「ジーク、後は勝手にやって!」


 ジークフリードは、やれやれといった表情でレティーシアの細い肩に手を置いた。


 むむむ!


「そうだな……シア、後のことは、僕に任せてくれ」


「ええ、あなたを信じているわ」

 彼女は、ジークフリードの手を払いのけた。


 何か、こう、釈然としないが、取り敢えず、


 ざまぁみろだ!


「あまり、レティーシアを巻き込まないでねっ! さっ、皆んな、行きましょっ!」

 たらしのジークフリードを睨みつけ、


 あっかんべ〜をしてやった。


 やはり、エドワードは、部屋に残るようだ。


 これで、あの部屋は男だらけだ。

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