第60話 目的
橋を渡り、さらに向こう側に、赤く丸みを帯びた屋根と青く鋭く尖った屋根が二軒、軒を並べている光景が印象的だ。
手前の脇から連なる石造りの建物は、開放部が広く、そこで、様々な人々が、陳列棚の商品を手に取り真剣な表情で売り子と交渉をしている。
今までの商店と違い、木箱を開けたり、メモを取り首傾げたりしながら、大量の商品を吟味している者も混じっている。
不思議に思い、店の奥に、目を凝らせば、大量の木箱が積まれており、そのような、店が多い事から、ここは、問屋街ではないかと想像できた。
様々な食材が並べられた店や、色鮮やかな布が飾られた店が、大声で誘ってくるのを笑顔で断り、道を急ぐ。
大勢の鞄持ちを引き連れた集団が、談笑しているのが目に入り、やかましいなと思っていると、やっと、ジークフリードは、立ち止まった。
そこで、沢山の大きな書類を筒状に丸め懸命な表情で歩いている若い男が、ジークフリードとすれ違いざまに軽い会釈をし、彼に耳打ちをした。
離れ間際に、書類を落としそうになった男は、たまたま俺と目が合い、
彼は目を大きく見開くと、慌てて頭を少し下げ、一目散に立ち去った。
昨日の晩にでも知り合いなったのだろうか?
ジークも、隅に置けない男だ。
思わず、側に駆け寄ってしまう。
「誰なの? 知り合い?」
そして、いかん、いかんと思いつつ、ついつい聞いてしまった。
エドワードも、聞きたそうな素振りを見せている。
そうだろう、そうだろう、と彼の心情を察し、
「ねぇ、誰なの?」
催促してあげた。
「彼は、船着場の役人で、ちょっとした顔見知りだ」
「へぇ〜、さっきの内緒話は何?」
「さっきの奴らは、かなりの大物の商人と会うらしいと分かった」
「へぇ〜」
「興味ないのか?」
「無いわ!」
おいっ! アンジェラ達は、北部の商人に会うって言ってたじゃないか……。
呆れた目で、彼を見ていると、
「それと、着いたぞ、あそこだ」
青い屋根の建物をジークフリードは、指さしている。
鞄持ちを引き連れた集団をかき分け、ジークフリードは、店番に一言、二言、交渉をすると俺たちを、手招きをした。
中へと案内され、階段を登った大部屋へ通された。
「ここで、少しお待ち下さい」
ここまで、案内した男が部屋を出て行った。
テーブルを中心に並べられたソファーで、各々がしばしくつろぐ。
隣に座るレティーシアは、足の筋を伸ばしている。
実際、彼女は歩き慣れてないのに、弱音を吐かないのは大したものだと思っていた。
古代樹の森でも、よく耐えられたものだ。
彼女の長いスカートからチラリと覗いた細く白いふくらはぎの輝きを目に焼き付ける。
細やかな沈黙を破る、不届き者がいた。
「皆には、伝えていない、もう一つの目的の為に、ここに来た」
ジークフリードは、顔を少し横に向け、閉まった扉を見つめている。
「もう一つの目的?」
誰も返事をしないので、俺が代表して質問する。
そもそも、レティーシア、ジークフリード、エドワード、この三人以外、本来の目的をしっかり意識しているかも、甚だ疑問だが……。
そもそも、残りは、精霊と幼女、それに馬鹿犬だ。
「もう一つの目的に、君は勘付いているかもしれんが……」
「まさか……」
俺は、少し表情を歪めてしまった。
俺が勘付いているコイツらの隠し事といえば、あれしか無いだろう。
個人的な性癖を満たす為に、俺たちを連れ回すなんて!
くそっ、やっぱり性欲大王の思考回路なんて、こんなものか……
「そうだ、すまない……」
ジークフリードは、伏し目がちに素直に謝罪した。
こいつは、どっちでもイケる口かもしれない、同情を誘って丸め込み、餌食を増やすしていくつもりだ。
そして、いつの間にかハーレムになっちゃった、でへへ〜、とか言い出すのだ。
ハッキリと言ってやる!
「そんな、どうでも良いことに、私たちを巻き込むなんて、許せないわ!」
「君には、どうでも良いかもしれんが、俺にとって、大切な事なんだ、この国の将来は」
「この国の将来なんて関係ないでしょ!」
俺は激怒した、ジークフリード、お前の性癖と国の将来は、関係ないぞ!
「もう、よせ!」
エドワードが、止めに入った。
「あなたも、こいつに言ってやりなさいよ!」
ジークフリードを指差しながら、エドワードを怒鳴りつけた。
お前は、それで納得するのか?
「この話は、馬車で既にしている、その上で、ジークフリード様を、俺は支持する」
エドワードは、そう言うと姿勢を正した、扉の向こうに人の気配がする。
なんだと!
納得済みとは、驚きだ。
いや、こうやってハーレムが形成されていくのがテンプレという事か……
まさに、変態の所業!
「驚いたわ……」
ジークフリードの隣に座るレティーシアを引っ張り、二人から距離を取った。
レティーシアまで、変態になったら目も当てられない!
「君が怒るのも無理はないが……」
ジークフリードは、まだ、策を練ろうと必死な様子。
ドアの軋む音がし、髭を生やした青年が部屋に入ってきた。
その髭は、ハッキリ言って似合ってないが、顔の素材には、良いものを感じる。
磨けば輝きそうな青年だ。
ジークフリードは立ち上がり、
「本日は、時間を割いて頂きありがとうございます」
と挨拶をした。
「こちらこそ、ニーベルン卿の御子息にお会いできるとは、光栄です」
髭の青年は、腰を掛けるように促し、立ち上がっていたエドワードとジークフリードは、ソファーに腰かけた。
そのときの振動が、柔らかいソファーを通じて、しっかりと感じられ、
俺は、これから来るであろう、修羅場に身震いをして備えた。
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