第62話 皇帝の望み

 交易都市から街道は大河を渡り、草原を走る、時に山を避け、森を進み、更に東へと開けると巨大な城壁に囲まれた都市がある。


 城郭都市だ。


 目を凝らせば、城壁は幾重にも重なり、中央付近には、荘厳な城が存在する。


 これが、王都、本来なら他国に占拠されれば、王国の敗北を意味する都市だ。


 王都は、帝国に占拠されている。


 東の城壁は、大きく崩れ、城下町には焼け跡が多数あり、戦の跡がうかがえる。


 主力を欠いた帝国軍の王都掌握は、当初、困難を極めたが、王都東部の実権を本国が懐柔策で得る事に成功した為、補給路の確保と共に、増援を得て成功した。


 又、帝国と教国の停戦により、第一陣より強力な部隊が派遣された。


 皇帝の望みは、ただ一つ、


 兵達には、王族を絶やせと告げられ、表向きは、王国の領土だ。


 特に、王国の交易都市を落とせば、今まで手が出せなかった大陸の南西、南部小国家連合を攻める事で豊富な食料を手中に収め、更に、北部都市国家群の魅力的な鉱物資源を得ることができる。


 国力増強だ。


 それなら王国との同盟を破棄しても釣り合う、しかも、不思議な事に、犬猿の仲だった教国も、裏では賛同していた。


 皇帝の望みは、ただ一つ、


 それを知る者は少なかった。


 ただ一つの望み、


 それは、王国が皇帝に「鍵」であることを隠した第三王女の命、


「鍵」の姫、レティーシアの命だった。


 臆病者の皇帝は、


 たった一人の少女の存在を、



 世界で一番恐れていた。



 交易都市に「鍵」がいる。


 吉報だ!


 町を、姫を、そこに生きるもの全てを、破壊しろ!


 例え、邪悪なエルフの姫が立ちはだかろうとも、


 それが世界の総意!


 邪魔はさせない!


 王都では、交易都市攻略の準備が着々と進められていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る