第89話 王都の惨劇
「ふん、やってくれる……」
王国侵攻軍、総司令レイダーは、目の前に広がる惨状を見ながら嬉しそうに呟いた。
日が沈みしばらくしてから訪れた、突然の奇襲。
それは、幾重にも重ね張り巡らされた防御結界を物ともせず。
王都に叩きつけられた。
城壁は大きく破壊され、その機能はほとんど失っている。
そして、今しがたの一撃で、城は大破し、謁見の間がむき出しになった。
「カニング! 我が直属の伝令兵をここに集めよ!」
「はっ、既に、御前に」
カニングの背後には、既に、闇の中にうごめく人影が幾つもある。
王国侵攻軍総司令レイダーは、大きく崩れた謁見の間の壁と、その向こうに見える真っ赤に燃える惨状を背に振り返る。
そして、カニングをねぎらう事もなく、彼を無視して叫ぶ。
「西の湿原に陣を張るクレメルに伝えよ! 敵はすぐ来る、背水の陣で臨み時を稼げ! 勝利は要らぬ!」
影が頷く。
「待て、駿馬を使い魔導で強化し、乗りつぶせ! 急げ猶予は無いぞ!」
一つの影が消える。
「南西のレナードには、目を凝らし、判断せよ! と伝令せよ」
「閣下それでは……」
「口を挟むな! カニング!」
カニングは、礼をし一歩下がる。
「しかし、進言は、聞き入れてやる。感謝しろ」
「はっ!」
一層深く礼をし、カニングは跪いた。
「目的を果たせ! 最後にこれを足せ、では行け! 急げ! 時を無駄にするな!」
また一つ、影が消えた。
更に、レイダーの指示は止まらない。
「北西に潜ませし、第三軍、トレイニーには、蹂躙を開始せよ! この一言だけを伝えろ」
今度は、カニングも黙って頷き、彼の背後から影が動き静かに消えた。
「残りの者は、王都周辺の諸侯に急ぎ伝えよ。今をもって、帝国以外の物流は凍結だ! 許可無き者には容赦無い!」
カニングの背後、全ての影が音もなく消えた。
「さて、カニング、此度の攻撃をいかが思う。述べよ」
レイダーは玉座へと進む。
「はっ、我らが拠点、王都に打撃を与え、そこを急襲する策かと考えます」
レイダーに付き従うようにしてカニングは歩き始めた。
「では、その王国の急襲部隊とやらは、何処にあると思うか?」
「はっ、我らが想像し得ぬ所から、それが奇襲も兼ね、最も効果的に、我らが拠点を落とす策でしょう」
「勿体ぶるな、いちいち、
「申し訳御座いません、閣下。端的申しますと、交易都市から、二、三日で攻めて来るのでしょう」
「的は得ているが、お前はつまらぬ。噂のエルフが我らが帝国に喧嘩を売った……、いや、買ったのだ。そういう方が、面白いでは無いか?」
レイダーは、玉座へと腰を下ろし、胸元から一枚の書状を取り出した。
「では、閣下は、喧嘩を買うと?」
カニングは、後ろに手を組み、レイダーの左側に立った。
「不満か?」
「はっ、先程の伝令を聞きますに、南西のレナード将軍には、機を見て、我らが拠点に攻め入った敵の補給路を断て、または、挟撃といった所ですか……、湿原のクレメル将軍は時間稼ぎ……」
「どうした、カニング、理解できぬか?」
「申し訳御座いません閣下、なぜ、トレイニー将軍を西に、交易都市の方角に進撃をさせるのですか? それでは意味がない……」
レイダーは、先程の書状をカニングに渡した。
「カニング、これを読め、今朝、【ホルス】の大賢者が直々に携えてきた書状だ。奴は、嫌いだが、内容は中々だ」
カニングは、書状に目を通すと、いつものように陰湿に笑うが、長くは続かない。
謁見の間にいる二人の視線が、壁の外、遠く夜の地平線に向けられた。
「交易都市で動きがあったようだな……」
「クリスタルの魔力ですかな、ギディオンの仕業ですか……」
「貴様の策は失敗だ」
「ご冗談を、たかが間者が……」
カニングは、レイダーの表情を伺い言い直した。
「犠牲はでましたが、無駄ではありません。閣下の次の策にも役立つでしょう」
カニングは、ねっとりと笑う。
「そうだな、あれ程の魔力を瞬殺とは、噂のエルフは、期待以上に強いらしい、今回のやり口といい、俺の嫁にしたいぐらいだ」
レイダーは、口元を緩め、玉座から立ち上がる。
「レイダー閣下、配下の将校を集めて参りました」
ギディオンが、レイダーに告げ、彼の右側に立つ。
「諸君、よく集まった」
レイダーの声に、集まった者達は、姿勢を正す。
「明日の早朝、我らは王都を放棄し、交易都市へ進軍を開始する、直ぐに準備し、王国の愚民共に、我が帝国の力を知らしめよ!」
「閣下、それでは言葉が足りませぬ」
「説明は、貴様がしろ、カニング」
レイダーは、玉座に腰を下ろし足を組み、獰猛な笑みを湛え、将校達は、緊張して、室内の空気が張り詰めた。
それから、詳細は、カニングが将校達にし、皆、納得の表情で謁見の間から立ち去った。
「エルフには可哀想だが【邪悪な姫君】のお伽話を再現させてもらおう」
最後に、レイダーが立ち上がり、カニング、ギディオンの二人を引き連れ、謁見の間から消えた。
これは、交易都市で暴徒騒ぎがあった時の王都に駐留する帝国軍の話。
その次の日の早朝、ジャンヌを新たに仲間に加えたエルフのソフィア達は、王都を目指し、交易都市を出発したのだった。
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