第90話 始まりの陽光
藍色に染まった空に星が瞬く。
目を凝らせば黒く染まった雲が佇んでいるのが見えた。
澄んだ空気が肌に触れ、気持ちを新たに覚醒させる。
俺は、大河を背に、東を眺め、喧嘩の相手を想像して武者震いをした。
「姫様、近衛三百騎、準備、整いました」
バーナード団長がレティーシアにこうべを垂れる。
刻々と時は進む、地平が黄金に輝くと、雲が光を反射し存在を主張する。
星々は、何処かへ去り、空が景色を変えた。
「本当に、旗は私が持っていいのか?」
朝日を背にユニコーンの手綱を引きながらジャンヌは、王国旗を持っている。
槍のように長い柄に、黄色の三角旗が風にはためいた。
初めて目にした王国旗には、
どうしても罪人を連想してしまい、そんな自分を戒めた。
「どうしたの?」
レティーシアが、俺の顔を覗く、彼女の長い髪も風に流され、黄金に輝いていた。
眩しさに、一瞬、我を忘れ、返事が遅れる。
「少し、寒いわね……」
俺は、頬を両手でパンと張る。レティーシアはニコッと返事した。
皆が、注目しているのを感じ、少し、気が焦る。
「ジャンヌ、先頭は任せるわ、旗はお願いね」
彼女が旗を持つことで【聖女の御旗】が発動する。
さらに、最前衛に配置すれば【騎士姫の導き】で奇襲を無効化できる。
それ以外にも、彼女の特性を考えれば、最適だろう。
ジャンヌは、旗を高く掲げ、うっとりとそれを眺めた。
余程、旗が好きらしい……。
この娘の育て方、間違ったかもしれない……。
「うぉー!、聞け、王国の誇り高き騎士達よ、私は、この旗に誓おう! 侵略者より、必ず、この国を解放すると!」
彼女は、意気揚々とユニコーンに跨る。
よくも、まぁ、そんな恥ずかしい言葉をペラペラと……。
されど、騎士達は、ジャンヌの言葉を大いに喜び、
「うぉぉぉー!」
と一斉に叫んで応えたが、まだユニコーンには跨らない。
地平から覗いていた太陽が顔を出し、その全容をさらす。
光が世界に溢れ、景色が一瞬で彩り豊かになる。
風が静まり、レティーシアの表情が引き締まる。
ドレス姿の彼女は、身体の線を惜しげなくさらした。
長い手足はとても細く、腰回りから走る上下は、少女から女性の色気に向かう端境で、それが、とても妖艶で魅力的だった。
可愛らしい足で、しっかりと大地を踏みしめ、
筋の通った小さな鼻を天に向けると、レティーシアは、大きく息を吸い込んだ。
「聞きなさい、騎士達よ! 王都を離れ、後悔の念に駆られた日々も終わります。阻むもの全てを打ち砕き、王都を奪還する時です! さあ、私の騎士達よ、王国の誇り高き剣よ! 王印を継ぎし、我、レティーシアが命じます。その力、余すことなく発揮し、帝国を打ち砕きなさい!」
「はっ、我が姫、我が王、レティーシア姫様に勝利を! 王国に永遠の繁栄を!」
騎士達が一斉に剣を抜く、刀身が銀に輝いた。
「神のご加護を」
ジャンヌは一人、十字を切り、静かに祈りを捧げる。
騎士達が刃を鞘に収めると、レティーシアがユニコーンに騎乗するのを待ち、バーナード団長が吠えた!
「騎乗せよ! 東方、湿原を目指し出陣じゃ!」
「うぉぉぉー!」
一斉に、俺達は、東へと駆け抜ける。
ユニコーン、ユニ子達、三百騎が、騎士達を背負い、草原を駆け抜ける。
その有様は、一陣の風。
いや、怒涛の暴風の様だった。
「やれやれね……」
俺はユニコーンには乗らず、【フライ】のスキルで空を飛び自走する。
フェンリルの化身、ケモ耳ロリのチビは、俺が背負っている。というか、俺が飛ぶと直ぐに背中に抱きついてきて、ズルしている。
お前だって、飛べる癖にと悪態をつき、背中に柔らかな二つの膨らみを感じ、まぁいいかと、チビを許すことにした。
「さあ、これからが、大変ね」
俺は、隣を走るレティーシアに声をかけるも返事は無い。
ユニ子に跨る彼女は、その手綱を握るので精一杯といった様子。
それでも、ユニコーンは変態だから大丈夫だろう。
ユニ子の奴、むっちゃ、嬉しそうだ。
エッチな意味で……。
早朝の空気は冷たく、勢い良く駆け抜ける事で、空気が壁となり、向かい風が体温を奪う。
うわっ、さぶい!
けれど、陽射しが肌に温まりを与え、それを和らげてくれていた。
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