第23話 暖かい陽射しの中で

「そぉーれっ」

 手に持った枝を投げると、白銀の美しい髪をなびかせ、元気いっぱいのケモ耳少女が四本の手足を巧みに操り、それを走って追いかける。


 頃合いを見て、チビは、ピョンと飛び跳ね、空中で枝に追いつき、見事に口で枝を捕まえた。


 俺たちを覆う空は青くとても澄んでいる。時節吹く風が、肌を優しく洗い、気持ちを新鮮で心地よいものにする。


 チビは、着地の際に豊かな胸を揺らし、スカートがフワリ、そこから、健康的な白い肌がチラリと覗く……、チビの奴、もう少し、しっかりしないと……。


 それにしても、あいつ、何が、そんなに楽しいんだ?


 それは昔から疑問だった。どうでも良い疑問だが……。


「ご主人、見たっ、今の。僕、凄いよねっ!」

 掴んだ枝を誇らしそうに掲げ、チビが、こっちに向かってくる。


「凄いわね」

 俺の言葉に、チビは、枝を手渡し、輝いた瞳を遠慮なく向けてくる。


 また、投げろという事だろう……。


「いくわよ、今度は、取れるかしら」

 ふんっと、腕を振り、今度は、枝から手は離さない。


 フェイントだ!


 しかし、それに、見事に引っかかり、美しい尾を揺らしながら駆け出し、キョロキョロと、枝を探し戸惑っている。してやったりだ。


 困ったような仕草で、不思議そうに辺りを真剣に探し、時よりちょこんと座り、クンクンと鼻を立て、風に枝の居場所を訊ねたりする。


 彼女のその仕草が、昔からとても好きだった。


 可愛いなぁ、でも、そろそろ……、


 ふふふ、分かるように笑い、腕を振る。


 それで、ピンと耳を張り、こちらを振り返ると枝を見つけ、彼女は、嬉しそうに戻ってくる。


「ご主人、ひどーい、今度は、ちゃんと投げてっ」

 全く、何が、楽しいのやら……。


「ごめん、ごめん、いくわよ!」

 ふんっと、腕を振り、それに合せてチビの首もくるっと回る。今度は、フェイントに引っかからない。彼女は、すぐ忘れるが、少しは学習するようだ。


「そんな手には、引っかからないよーだっ」

 さっき、引っかかったじゃねぇか。


「準備、できてる? いくわよっ、そぉーれっ!」

 ビューンと枝を投げる、それは空気を切り裂き、猛スピードで飛んでいく。


 少し遅れ、フェンリルの化身は、白銀の閃光になり、当然のように、それを捕まえた。


 彼女の口に収まった枝からは、白い煙が出ており、その凄さを物語っている。


「どうにゃ、おちょ、ほく、すごいにゃ」

 口に挟んだまま話すチビは、猫化していた。まったく……、俺の心を鷲掴みにしてくれる。


「凄いわ、チビ、こっちにおいで」

 枝を、口にくわえたまま、ズドドドと慌ただしく戻ってくる。


 そして、また、枝を投げ……。


「おい、楽しいのか?」

「あら、居たの……」

 エドワード、お前には、分かるまい、この、信頼関係から生まれる高尚な遊びと、その楽しさは……。


 チビが戻ってきて、せがむので、また、投げる。


 そういえば、


「さっきの、あれは何なの?」

 抜け出せなくなった通路について訊ねる。


「さっき? 迷いの通路か? もちろん、侵入者を惑わす為だ、そんな事も知らんのか?」

「知らないに決まってるじゃない、私はお客様よ」

「お客様は、勝手に、ウロウロと出歩かないものだ」

「そんなの、関係ないじゃない」

 知るか! 部屋でジッとなんてしてられるか、この、馬鹿!


 また、チビが戻って来たので、頭を撫で、くしを取り出し、乱れた髪の毛を整えてやる。彼女は、落ち着き、息を整え始めた。


「関係ない? そうかもな……、行きたい所があるなら、案内してやっても良いぞ」

「案内? ジークフリードを放ったらかしていいの」

 お前、従者だろ、多分……。


「ジークフリード様は、朝から、何処かに行かれて所在不明だ」

「あら、心配じゃないの?」

 あいつ、エドワードに伝えて無かったのか?


「ジークフリード様なら、心配いらない、あのお方をどうこう出来る者など、そうはいないからな。それよりも、何処ぞの田舎者に、また、迷子になられると迷惑だ」

「ふ〜ん」

 まぁ、いいか、こっちも、また、あの通路に捕まるのは、もう勘弁だし。


「そうね、なら、レティーシアの騎士達は何処にいるの?」

「レティーシアの騎士とは、近衛騎士団のことか?」

 近衛とか、知らんが、多分そうだろう。


「そうよ、早く、案内しなさいっ」

「たくっ、お前は、もう少し言葉遣いに……」

 いや、お前の言葉遣いも何とかならんのか?


 おら、早く、案内しろ!


 背中を、ゴンゴンと押す。


「押すな! 案内してやるから、押すのをやめろ!」

 やめろと言われて、やめる馬鹿はいないのだよ。


 ゴンゴンと背中を押し、騎士達のいる場所まで急がせる。


「そんなに、強く押すな! ソフィ」

 なんか、エドワードも楽しそうだ、こいつエムだからな。


 騎士達に、預けたあいつらの様子がちょっと気になり、さらに、ゴンゴンと押す。


 ゴンゴン、


 押しまくりだ!


「やめろソフィ!」


 エドワードは、喜んで、騎士達の所まで案内してくれた。

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