第43話 旅立ちの物語
エドワードは、旅の途中で倒れ、クララは、悲しみのあまり号泣する、様々な困難を乗り越え、俺たちは、古代樹の森を攻略する事に成功した。
それは、今まで、誰もなし得なかった偉業だ。
町に戻れば、盛大な歓迎が待っていると思っていたが、やはり、世の中は、そんなに甘くなく、
「相変わらず静かな町ね……」
と思わず愚痴をこぼしてしまう。
別にチヤホヤされたい訳ではなかったが……。
さらにだ、
ギルドに顔を出すと、
「報酬の準備に時間が掛かるから、日が沈んでから来てくださいっ!」
と厳しい受付のリサが、ビシッととても冷たかった。
グスン……
きっと、まだ扉の修理が終わっていないから、イライラしていたのだろう。
さらに、あちこちに桶が置いてあり、雨漏りも酷そうだったので、
ざまぁ〜みろだ。
「じゃぁ、夜、また来るから、報酬は、弾んで頂戴ね」
あっかんべ〜をしながら、彼女と別れた。
その後、
町の中心部の公園で、噴水に腰掛け、時間を潰している。
木立に囲まれた緑豊かな公園だが、
人影が少なく、ここも、少し寂しく感じられた。
レナード達と出番の全く無かった戦士と剣士は、森を抜け、町へと通ずる平原に出た所で別れ、アンアン
おかげで、ここの景色が騒がしい。
目の前では、腰に杖を差した黒ローブ姿の少年少女が、エドワードを相手に、奇声を発しながら組手をしているからだ。
彼の腕は、やはり確かで、アンアン
ついに、姉のアンナが、痺れを切らし、エドワードから離れ距離をとった。
「師匠!私の
と何故かこちらを向き、口を尖らせ叫ぶと、助走を付け見事な飛び蹴りと共に可愛い
うっわ〜、あの娘、完全に道を誤ったな……。
当然、エドワードは、それを簡単に
あんな大技、当たる訳ないよな……、いったい、あの娘は何を目指しているのだ?
それにしても、エドワードの顔が、一瞬、にやけたような気がした。
……、まさか、お前……、いや、駄目だ、いけない……それは、犯罪だぞ!
彼が道を誤らないように、弟君、アンソニーが拳を突き出すタイミングに合わせ、こっそり、エドワードの足元に魔力を飛ばしてやった。
一瞬、彼は、それに
ちっ、しくじったか……
エドワードは、チラリとこちらを睨み、その隙を見逃さない姉のアンナが、すかさず蹴りを繰り出した。
そして、再び、惜しげも無くパンツを見せびらかしている。
また空振りだ……。
はぁ〜、と大きくため息を漏らし、顔を両手で覆う。
誰だ! この娘の道を誤らせたのは!
「あらあら、暇そうね、もう少し上手にしないと、嫌われちゃうわよ」
買物から戻って来たシルフィードが、ふわりと横に飛んで来た。
ギルドを訪問した後、彼女は、ジークフリード達と一緒に、俺たちとは、別行動をしていたのだ。
「あら、レティーシアとチビは?」
「彼女達とは、途中で別れたわ」
「そうなの……」
まあ、チビが一緒なら心配ないか……何かあれば、メッセージでチビが、直接、俺に知らせてくるだろう。
「それにしても、まだ、してたのね」
「ええ、飽きないわね……」
たくっ、組手の何処がそんなに面白いのか……。
「暇そうね! ソフィア!」
いつになくうるさいクララは、どうだと言わんばかりに胸を張り強調している。
「どうしたの、それ……」
そんな馬鹿な! あのクララの胸が、存在を主張するだとぉ!
ありえん!
責任者、出てこい!
馬鹿兄のジークフリードを、ジロリと睨むと、彼は目を逸らし、何処か遠くを見つめている。
ついに、邪教の軍門に下ったか! クララ!
「立派になったのね、クララちゃん」
彼女の胸に手を伸ばした。
悪しき偶像は、破壊しなければならない!
「きゃっ、な、何するのよっ!」
彼女は、両手を交差させ胸を覆い隠し、膨らみを守るのに必死だ。
「良いじゃない、別に、痛いことはしないわっ!」
「い、嫌ですぅ!」
「ちょっと、だけよっ!」
「駄目ですぅ!」
「触るだけだからっ! 揉まないからっ!」
「いっ、嫌ですぅ! 絶対に、嫌ですぅ!!」
不自然な胸の膨らみを隠す、彼女の両腕を押し退け、その頭上で片手を使い固定した。
さぁ、その、偽物のおっぱいを、クララの為に砕いてやる!
邪教の力を借りてはいけない!
「やめてっ……」
クララは口をギュッと結び、瞳を潤ませ、赤く染まった顔をそむけた。
「心配しないで、痛くしないわ……」
胸の膨らみへと手をもみもみしながら……
「ソフィア、何をしているの!」
レティーシアの声だ。
ゴン、
「痛い!」
突然の事に、頭を手で隠した。
まさか、レティーシアが?
「お前は、何をしている!」
振り返ると、エドワードがいた。
その間に、クララは、テテテッとジークフリードの方へ逃げる途中、よほど、慌てていたのだろう、つまずいて、ドテッとこけている。
「ちょっと、何、するのよ!馬鹿っ!」
後少しで、クララを邪教の手から救えたのにっ!
「馬鹿は、お前だ!」
「そうよ、ソフィア、クララが可哀相だわ!」
エドワードとレティーシアが、同時に非難してくる。
レティーシアは、腰に手を当て、激おこモードだ。
「でも……」
「でもじゃないわ! ちゃんと、クララに謝りなさい!」
彼女は、ジークフリードの影に隠れたクララを指差した。
それでも、
「だって、クララったら、パットで作った胸を自慢してきたから……」
それでも、俺の方が大きかった筈だ! ホントだぞ!
「仕様がないでしょ、クララちゃんは無いんだからっ!」
レティーシアが、怒りで身体を揺らす度、本物のおっぱいが自己主張する。
そんな彼女に、持たざる者の気持ちが分かる筈がない!
「で、でも……」
「もうっ! クララのおっぱいは無いのよ! よく聞きなさいっ、クララのおっぱいは無いの! な、い、のよ! だから、早く、謝りなさい!」
彼女は、プンプンとおっぱいを揺らし、凄い剣幕だ……。
「なんか、ごめんね……」
その後、すぐ、クララに謝罪した。
「ええ、もういいわ……」
真っ白な灰となったクララは、呆然とした表情で、倒れた拍子で潰れたパットを元の形に整えようとしていた。
「クララ、ソフィアを許してあげてね」
クララは、彼女の背丈に合わせる為、前屈みになったレティーシアを見つめた後、目に涙をいっぱい溜めて、俺を見た。
レティーシアの深い谷間を見てしまったか……。
「本当に、ごめんなさい」
俺は、レティーシアの頭を軽く叩いた。
勘違いした彼女は、
「クララ、今回の事は
と笑顔で、止めを刺し満足げだ。
「私だって、あるのよっ!」
クララは、最後の力を振り絞り、今生の別れを告げた後、固まって石になった。
彼女は、再び戻って来れるのだろうか?
まぁ、ここは、馬鹿兄貴ジークフリードに任せておけば大丈夫か……
噴水の方に戻ると、シルフィードと話をしていたエドワードが何やら、物言いだけな様子で、こちらを見てくる。
「放っておいて、済まなかったな」
「えっ、何のこと?」
いきなり謝罪してきたエドワードに、その理由を尋ねた。
「その、なんだ、ずっと子供達の相手をしていたからな」
ああ、アンアン
「別に良いわよ、でも、あなたが子供好きとは思わなかったわ」
ちょっと引いたぞ! 程々にしとけよ!
「まぁ、どっちかと言えば好きな方だが、彼女達は上達が早く見込みがある」
げっ、エドワードは、子供が好きだと堂々と宣言し、その上、アンナの事をえらく気に入ったと言っている。
それは、勝手だが、
ここは、やはり叱っておかねばなるまい。
「ちょっとは、気を使いなさいっ!」
やばいぞ、お前! 「俺はロリで、十二のアンナが気に入った!」とか、もうちょっと周りを気にしないと、捕まるぞ!
興奮した為、体温が上昇し、顔が火照って熱く感じる。
「わかった、これからは、ちゃんと気を使おう」
彼も理解してくれたようで、顔を赤くしながら、俺の頭をなで、褒めてくれた。
言われる前に、自分で気付けよ!
それでも、素直に忠告を聞いてくれた、彼に、笑顔で返事した。
マジで、気をつけろよ!
「し、師匠、ごめんなさい」
被害者のアンナが、もじもじとお下げを揺らし、上目遣いで俺を見つめている。
「あなたは、悪くないのよ」
悪いのは、
アンナをしっかりと胸にギュッと抱きしめた。
「そろそろ、良いかしら?」
面白い事でもあったのか、シルフィードは、ニヤニヤと楽しそうだ。
「ソフィア、頑張るのよ」
彼女は、両腕を曲げ、励ましてくるが、何を頑張れというのだろうか?
クララのおっぱいの事だろうか?
それとも、エドワードの性癖の事だろうか?
デリケートな問題なので、返事に困り、口をパクパクとさせていると、
「そろそろ、ギルドに行こうと思うのだけど、どうかしら?」
彼女は、それを無視して、次の行動を皆に促した。
たしかに、空は赤く染まり始め、一日の終わりもそろそろだ。
でも、クララは固まり、それをほぐす為、ジークフリードは、必死だし、
エドワードはニヤニヤしながら、俺の頭を、まだ、ポンポンと撫でている。
「コレ、蹴飛ばして良いわよ」
エドワードを指差し、アンナに指示を出した。
「師匠、良いのですか?」
アンナは、本当に? と首を傾げたが、しっかりと構え、やる気充分だ。
「良いわよ」
俺の号令と共に、エイッと彼女は、エドワードの尻を蹴飛ばした。
その蹴りで、我に返ったエドワードは、
「済まない」
と言い、何故か嬉しそうに、俺の頭を撫でるのをやめた。
こいつ、そう言えば、エム属性だったけ。
エム属性のロリにとって、アンナの一撃は……
エドワードをジト目で、ジッと見つめた。
「本当に、済まない」
彼は、ますます嬉しそうだ。
この、変態め!
クララの回復を待ち、その後、アンアン
なんと、ギルドに行くと、廃墟に行けという貼り紙があったからだ。
もしかして、報酬が払えず、夜逃げしたのかもしれない。
それなら、昼間の受付嬢、リサの態度も頷ける。
よほど切羽詰まっていたのだろう。
ただ、目の前の看板は一つになり、「移転しました」の方は無くなっている。
その上、庭の手入れは、行き届いていないが、入り口までの道は、しつがりと刈り込まれ、石畳が姿を現した。
建物は以前と変わらぬ、年季を感じさせる洋館だが、明かりが灯り、人の気配を感じさせる。
どうやら、ここに居るらしい……、
両脇に手すりの付いた、広い階段を数段上り、入り口に手を掛ける。
見覚えのある丁寧な装飾が施された重厚な扉、
俺が、仮登録の時に、壊した、あの扉だ!
移転先の建物では、浮いていた扉も、この建物には、しっくりきている。
扉を引いて……
引いて……開かない……
「そこは、押して開けろ」
エドワードは、呆れ顔で扉に手を掛けた。
えっ、でも、玄関って、引いて開けるものだろ?
キョトンとしていると、
「たくっ、常識を知らん奴だ……」
と言いながら、彼が力を込めると、扉は、簡単に内側に開いた。
「さぁ、行くぞ!」
エドワードは、半身で腕を中に差し出し、促した。
先を譲るとは、殊勝な心掛けだ。
入り口の正面には、立派なカウンターがあり、その奥で、リサは立ち上がり、深くお辞儀をしている。
一歩入ると、両脇に大勢の人の気配を感じた。
受付カウンターへ、一歩、一歩、近づくにつれ、周りの様子がはっきりと理解できた。
どうやら、この建物のギルドには、ちゃんとした酒場があり、その席は、今は、全て客で埋まっているらしい。
ただ気になるのは、絡んでくる酔っ払いがいないという事だ……。
絡んで来いよ! 酔っ払い!
てか、飲んでる奴、居無くねぇ?
カウンターの前で、エドワードとジークフリードに促され、そこで、立ち止まる。
「お待ちしておりました、皆様の事は、レナード様より、伺っております」
リサは、ここまで言うと、息を大きく吸い込んだ。
「古代樹の森の攻略成功、おめでとうございます!」
彼女は、ゆっくりと大きな声で、俺達にでは無く、周りにいる者達に聞こえるように話したようだった。
その証拠に、リサの言葉を合図に、一斉に乱れる事なく、両脇のテーブルから音が響く。
ドン!(一回目)
空のジョッキをテーブルに叩きつける音だ!
ドン!(二回目)
テーブルの天板は、厚い丈夫な木で出来ており、ジョッキに載せられた、屈強な男達の、その力任せな勢いをしっかりと受け止めている!
ドン!(三回目)
一糸乱れず、ジョッキは、同時にテーブルに叩きつけられる!
ドン!(四回目)
四回、連続して叩かれ、音は止んだ。
「エドワード、ジークフリード、シルフィード、クララ、レティーシア、ソフィア、チビ、ギルドの依頼を受け、成し遂げた、この七名に、ニーベルン西部辺境伯より報酬が与えられる!」
ドン!ドン!ドン!ドン!
リサの呼び掛けに、酒場が再び応えている。
「エドワード、偉業を成し遂げし者達を率いるものよ!」
ドン!ドン!ドン!ドン!
「報酬は、いかがする!」
ドン!
ジョッキを叩く音が一回だけ鳴り、静寂が場を支配する。
えっ!報酬って自由に使えないの?
エドワードを横目で見る。
「報酬は、全て、去りし者、集いし者、今日の為に、全て使う!」
え〜!
そんな勝手に、何を言い出すんだよ、エドワード!
この見栄っ張りの変態野郎!
当然、酒場からは、
ドン!ドン!ドン!ドン!
と言う音が響いた後、大歓声だ!
「さぁ、みんな、今日は、エドワード達の奢りよ!倒れるまで、飲んで頂戴!」
リサも、飲め飲めと音頭をとっている。
くそっ!
こいつら、タダ酒、目当てか!
「あと、此方の、ソフィアさんは、個人報酬、全て、このギルドの為に、使うそうよ!」
さらに、彼女が余計な事を言うので、
「凄えぞ、姉ちゃん!」
「こっちで、一緒に、飲もうぜ!」
「胸は小さいが、心はでかいな!」
と人気急上昇だ!
あと、最後の奴は、見つけ次第、丸焼きにして、つまみにしてやる!
「さぁ、こちらへどうぞ」
リサに誘われ、受付に近いテーブルに揃って腰掛けた。
「ねぇ、報酬、貰えないの?」
「そんな事ないわ、まぁ、あれね、大きな依頼を成功した時の、お祭りみたいなものよ、
どうせ使えきれないわ」
リサの返答に、良かったと頷いていると、
「ソフィアさんは無いわよ、攻略報酬も、個人報酬も、全て、このギルドでつかうわ」
意地悪な笑みを浮かべ、リサは挑発してきた。
「別に良いわよ、今までも、おかねは持ってないし……」
欲しいなら、欲しいだけくれてやる!
カネなんて、いつでも稼げる。
しばらくすると、エドワードは、席を立ち移動した。
そして、どうやら、初日に失礼な事を言った男達と話をしているようだ。
配られたジョッキに、口をつけ、酒を飲む。
酒が、身体の中で、熱く広がるのを感じた。
「あら?やっぱり気になるの?」
シルフィードの声が聞こえる。
「別に……」
上の空で返事しながら見るエドワード達は、何を話したのか、肩を叩き合い、仲が良さそうだ。
「素直じゃないと」
シルフィードが言うと、
「嫌われるわよ」
もう一人、シルフィードの隣のシルフィードが話した。
「きゃっ、シルフィードがふたり」
分身の術とはやってくれる……交互に、二人の指差しながら、
「きゃっ、さんにんめ!」
更に、彼女達は増えていく……
「この娘、もう、酔っ払ってる……」
心配そうな彼女の胸が大きいので、
「ちょっと揉ませなさいっ!」
彼女の胸に、手を伸ばす。
「ダメ!」
伸ばした手は、何者かに叩かれ勢い失った。
「ちょっと、邪魔しないでっ!」
誰だ叩いた奴は!
更に、腕は引っ張られ、手は、暖かく柔らかい場所にたどり着いた。
「ソフィア、私ので、我慢しなさいっ!」
どうやら、隣のレティーシアが犯人らしい。
「あら、レティーシアも酔っ払ってるの!」
素っ頓狂な、シルフィードの声が響く。
レティーシアの胸は、シルフィード程、大きくないが、弾力が若々しくて、癖になりそうだ。
「レティーシア、大好きっ」
彼女に抱きつき、甘い香りを嗅ぎながら、深い眠りについた。
◇◆◇◆◇◆◇
「おい! いい加減、起きろ!」
エドワードに、肩を揺さぶられ目を覚ます。
「いつまで、寝ている気だ!」
彼の声が、頭に刺さる……これが、二日酔い?そんなに、酒を飲んだっけ?
「出発するわよ」
シルフィードも声を掛けてくれた。
「レティーシア、おはよう!」
なぜか、レティーシアは、顔を赤くしながら、距離をとる。
「クララ……」
クララに至っては、凄い勢いだ!
確かに、レティーシアの胸は、揉んだ記憶があるが、クララには、何もしていない筈だ。
「何も、覚えてないのね」
シルフィードは、ジト目で、俺を見ている。
俺は、無実だ!
「さて、その話は、道中するとしよう」
ジークフリードが、糾弾すると宣言した。
くそっ!
ついに、決着をつける時がきたのか?
起き上がり、席を立ち、ギルドの出口の方へと歩きだす。
いつみても、重厚な扉だ。
その扉を引くと、外の景色が現れた。
今日も、快晴で、朝日が眩しい。
一歩、踏み出すと、その陽射しの中に入り、俺達の旅は、はじまった。
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