第41話 聖なるトレント

 木々の緑が少なくなるにつれ、辺りは、寂しく薄暗くなっていく。


 先頭を勝手に買って出たトレント達の緑が、不自然に際立っている。


 しばらくして、トレント達は一斉に立ち止まった。


「そろそろ、森を抜けるモコ」

「抜けるモコ」

 ユラユラと揺れながら、彼らは口々に語りだす。


「辛そうだけど大丈夫?」

 気が利く俺は、少し前屈みになり目線を合わせた。


「大丈夫モコ」

「でも、案内はここまでモコ」

「ここまでモコ」

 モコモコと相変わらず、うるさいので、まだ安心だ。

 それでも、植物が生えていない、この辺りの環境は、彼らには、相当辛い筈だ。


「そうね、案内してくれて、ありがとう」

 ニッコリと微笑み、頭? を撫でてやる。

 想像通り、枝と葉の感触は、モフモフしてないのでよろしく無い。てかっ、痛い。


「姫さまも、頑張れモコ」

「あなた達が、元に戻れるように、頑張るわ」

 うんうん、素直なトレントは、可愛いぞ。


「姫さまのおっぱいも元通り大きくなるモコ」

「大きくなるモコ」

 やっぱ可愛くない!


 ムムムとしている間に、トレント達は離れ、仲間達と一言二言の別れを交わし始めた。


 特に、チビやクララといった、精神年齢の近い連中は悲しそうだった。


 一通り言葉を交わし終ると、トレント達は歩きはじめ、


「姫さまも大きくなるモコ」

「大きくなるモコ」

「大きくなるモコ」

「大きくなったら駄目モコ」

「駄目モコ」


 と大合唱しながら、森の奥へと消えていく。


 どうやら、巨乳派と微……美乳派がいるようだ。


 さらば、森の変態、トレントよ!


 そして、安らかに枯れろ!


 枯れてしまえ!




 それにしても、そんなに小さいかな……


 ちょっと気になり、もみもみとおっぱいを確認する。


 相変わらず、素晴らしい弾力だ。

 レティーシアの気配と勘違いして、

「ねぇ、私のおっぱい小さくないわよねっ」

 と胸を持ち上げ……、


「おま、おま……」

 なんだ、エドワードか……どうしよう……?


 しかも、彼と向き合い固まってしまう、不覚だ!


 だいだい、お前、おまおまとブツブツ、何が言いたい、ハッキリしろ!


 こっちだって、恥ずかしいのを我慢してるんだぞ!


「ねぇ、小さくないわよねっ!」

 イライラしたので勢いに任せて、おっぱいを限界まで持ち上げた。

 さらに力を込めたので、血液があがり、顔がカァと熱くなり、

 頭がボンと爆発しそうだ。


 君は巨乳だぐらい言えコラ! と返事を求め、そのまま顔を近づけた。


 彼は、目を逸らし、その視線の先には、シルフィード……、


 ふん、そうか、貴様も巨乳派か!


 そうか、そうか、お前もか!


「死ね、バカッ!」

 ポンコツなセリフと共に、脇腹に一発入れた。


 彼は、呻き声と共に地に伏した。


 あれ? どうしよう……?


 とりあえず、おっぱいを持ち上げたり、下げたり……上げたり?


「ソ、ソフィア、あなた、大丈夫?」

 ジタバタ、いや、上げ下げしている俺に、レティーシアは、気を遣って声を掛けてくれたけど、


 何が、大丈夫なんだ? 分からん? 分からんぞ!


「だ、大丈夫よ、私の、大きいわよねっ!」

 えっ? わぁ、もぉ、どうしよう!


「ソフィアは、お、大きいわ、大きいわよ、ええ、立派なおっぱいよ」

 彼女も、アワアワと目を泳がせている。


「私、大きいわよねっ!」

「ソフィアは、大きいわ、私が保証するわ!」

「ありがとう、レティーシア!」

「ええ、大きいわ!」

 うわーんと泣きながらレティーシアにしっかりと抱きついた。


 その時、重なった胸が、彼女の膨らみに押し負けたような気がした。


 きっと、それは気の所為に違いない!


「大丈夫、ソフィアにはちゃんとあるわ……」

 彼女の表現がトーンダウンしたような気がするが、


 それも、きっと気の所為だ!


「あなた、これどうするの?」

 側に来たシルフィードは、何かを指差していた。


 そこには、一人の男が地面でもだえている。


 エドワードだ……、どうやら、俺は、かなり本気で殴ってしまったらしい……。


「自業自得よ……」

 そう、こいつが大きいと言っていれば……。


「ふ〜ん……」

 彼女は、上からジト目で睨む。


【ヒール】を唱えると、エドワードの身体が淡く輝いた。


 これで、万一、そう、万一だ、骨が折れていても大丈夫な筈だ……。


「まだ、起きてないわよ! どうするのよ!」

 きゃっ、シルフィード、こわいっ!

 レティーシアに助けを求め、しっかりと抱きつき、ボヨーンとした反動を感じた。


 やっぱり彼女のおっぱいの方が、かなり大きくて弾力がある……。


「もう、早く、起きなさいよ! エドワード!」

 足を横に出し、エドワードを蹴飛ばした。


 起きろ、エドワード!


 頑張れ、エドワード!!


「どうするのよ……、これ……」

 シルフィード、しつこいぞ!


 えいっと、もう一度、エドワードを蹴飛ばした。


「大丈夫よね?」

 レティーシアに同意を求める。


「だ、大丈夫なの?」

 彼女の語尾が上がったのは気の所為だ……。


 さぁ、多分、森を抜けたら、ボス戦だぞ!


 起きろ! エドワード!

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